1 自覚
俺は狩人なのだ。その自覚が徐々に強まっていく。
きっかけは唐突だった。
その夜、俺はしたたかに酔っぱらいながら繁華街の通りを歩いていた。
衣服は乱れ、その面相たるや、すれ違う人間が飛び退くように道をあけるものだ。怯えた臆病者どものザマに、俺は凶暴な喜びを感じていた。
平素の時であれば、俺は一部の隙もなく学ランを着こなし、頭髪は整えられ、革靴は磨き上げられている。極めて完成度の高い高校生。それがいつもの俺の姿だ。
だが、今は違う。
日常の仮面の裏には、淀んだ水面があった。
そして今、それは俺のペルソナの真下でグラグラと煮え立ち、逆流してきて、俺の内側から迸ろうとしている。そう、暴力の流体というべきものが、さながら噴火の如く吹き出さんとしているのだ。
俺の双眸は血走っていた。足下はおぼつかない。
だがしかし、全身には力がみなぎっている。いつでも力を発揮できる。
そりゃあ、少々酒は飲んだ。飲まずにいられなかったからだ。でも、別に俺は酔っているとは思っていない。
ビールをチェイサーにモヒートとテキーラをそれぞれ四杯か五杯やっただけだ。そのぐらい、どうってことはない。
例え、少々酔ったところで、俺の頭が曇ることもなければ、身体の動きに影響が出ることもない。正常時よりも調子がいいくらいだ。
そういうわけで、俺は絶好調で、最強で、無敵で肩で風を切りつつ、夜の町を歩いていた。
それでいながら、満たされないものが常に胸にあった。飢えが、乾きがあった。
それは、癒えない毒のように、常に俺の中に巣くっていた。
俺はふいに立ち止まる。
その俺の前を若い女がゆっくりと通り過ぎる。その女が、強烈に印象を残していく。
上辺だけがチャラチャラと華やかな繁華街の中、その女だけが紛い物ではない、本当の光を放って見えた。
何者だろうか。OLだろうか。女学生には見えない。
俺の足は止まったままだ。通り過ぎていく女を眼だけで追随する。むしろ眼を離すことができない。
女は博物館に飾られるたぐいの芸術的な西洋人形のような整った顔立ちと白い肌の持ち主だった。艶やかな髪を項の所で結んで、みずらとしている。
横顔は宝玉のように透き通っていた。猥雑なネオンの光の下を歩きながら、月光を浴びた花弁のような気品があった。
つまり、女は今まで現実で見た中で最高にマブい女で、完璧に俺のタイプだった。
だが、見た目が可愛いからといって、ここまで引き寄せられるのは妙だった。
もしや、俺とこの女は運命的な結びつきがあるのか? 前世で、なにか浅からぬ縁があったのだろうか? いいや、その手のファンタジーは信用できない。
思うに、女の纏う気位の高さと、俺が自覚している俺自身の纏う下衆さ、その差異が原因に違いない。
その対比が、コントラストが際立っているために、俺の深層意識に強いインパクトを与えたのだ。
この女、こちらをちらりと見ることすらしないで通り過ぎる気か。
俺は強い不満感を感じる。こちらがあちらにこれだけ注目しているのに、あちらはこちらを完全に無視している。
お高くとどまりやがって。許せん。
そう思う間に、俺の脳は感情とは別の部分で、女のおっぱいの分析を行っていた。
レディを前にすると、俺は自動的におっぱいの分析を行うことにしているのだ。
女のおっぱいが素晴らしい形をしている。夏物の白いワイシャツ越しでもわかる。
推定カップはいかほどのものだろう。いや、推定でものを言うわけにはいかない。
とにかく、ほどよい大きさで垂れ下がるわけでもなく、仰向けに寝たとしても張力を発揮し続ける。かといって硬いわけでもなく、絶妙なデンシティー(密度)を誇っている。
吸って揉んで挟んで遊ぶのに理想的な代物である。
俺は、ブラジャーを剥ぎ取って生乳を出させる様をイメージする。
考えるうちに、イメージは具体的になっていく。
思い切り、汚く、暴力的に犯してやりたい。そのすらりとした両足の合間にブチ込んでやりたい。
その清楚な外見をぶち壊してやりたいのだ。徹底的に。
腕の中で喜悦のあまり泣きわめかせる。俺の荒々しい熱い愛撫でアヘアヘと言わせてやりたい。俺に屈服させる。実に具体的なプランである。
俺は酔った勢いで思った。
食らい酔った人間特有のシンプルな欲であった。
だが、世の全てのシンプルなアイディア同様、魅力に満ちていた。
俺の血走って濁っていた眼が、ぎらぎらと輝き出すのが分かる。
俺は狙いを定めた。
先をいく女は俺が狩る。そう心に決めた。
そして、次の瞬間、俺はどうやって女を仕留めるか、冷徹に計算していた。
その様は、獲物を探し求める狩人と同一であった。
俺は束の間、目を閉じる。
すると、瞼の裏にジャングルが広まっていた。
そうだ。これこそが俺の真の姿なのだ。
俺は、電流のようなショックを感じる。
そうだ。俺はジャングルの中を歩む狩人であるべきなのだ。




