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新婚生活

 ちょっと誤字訂正しました。それと、ショッピングモールに行く話を追加しています。

 家に帰ると主人ともにご近所にご挨拶に行きました。ご近所と言っても旧来より住んでいる地元のひとです。主人のことは小学生のころから知っています。


「こんにちは、日下部です。」

 小さな包みを渡し、私と主人が挨拶をします。

「あら、たっちゃん。前から聞きくて聞けなかったのだけど。あんたその格好どうしたの。」


 主人は頭をかきかき答えました。

「原因はよくわかってないんだけどね。女に変身する病気といおうか。生理か始まったと思ったら、あれよ、あれよという間にこんな体になっちゃったんです。」


「ふーん。よくわからないけど。女になる病気?」という近所のおばさんです。

「まあ、そんなものですね。」


「それで、それで最近は、化粧して出勤しているのね。仕事は何してるの。」

「会社で出血騒ぎを起こしたんで、会社が結構理解してくれましたね。やめずにすんてます。開発事務の女子社員として働いていますけど。」


「出血騒ぎ?」

「28才にして初潮を迎えて、生理出血したんですよ。はじめは訳がわかんなくて、大騒ぎでした。女性化を隠しようが無かったのが、逆に幸いして、そのまま、会社にいることを認めてくれたんです。」


 ホントにこれでわかったのでしょうか。

「へえ。よかったわね。大手だものね。それで、この人が奥さん?」

「はい、日下部千香といいます。」


「女なのに、女のひとと結婚?」

「はは、実は、おちんちんもあるし、男性機能も正常です。子供も作れますよ。戸籍上も男のままだから大丈夫です。」

「ふーん。」と私を変な目でみています。


 ここは新居です。家具が運び込まれ、私の服と主人の服をクローゼットにつるしました。タンスに服を入れました。

「えー。これだけ。無理してクローゼット半分開けたのに。」

 主人のタンスはスカスカです。

「うーん。男物は捨てたからね。両性のものは残したかったんだけど。色合いもあるし、ついで捨てた。」

「潔く捨てたものね。」


 私の服を見ながらなんかうれしそうにしています。

「あっ、これいいな。今度、借りていい?」

「20代の時の服よ。着れるの。」

「ウエスト56だよ。」

「う・・・ヒップが大きいから入らないかもしれないわよ。ふんだ。」

 合わせてみると、足の長い主人にはミニスカートです。くやしい。

「デザインが古いかもしれないわね。」

「へへへ。」

 なんかおかしい。


 家具の中には鏡台がありました。私が自分の化粧品を入いるとスカスカです。実は、私、化粧をほとんどしません。そうとはいえこりゃひどい。

「家具屋さんがいると言うんで揃えたんだけど。一体、何をいれるの。」

 それを見て喜ぶ主人です。

「えーえ。じゃあ。僕のいれてよ。」

 そう言って化粧品ポーチを3つももって来ました。一体、これだけ、どこに塗るんでしょうか。私には不思議です。

「わーい。鏡台っていいな。やりやすいよ。」

「いままで、どうしていの。」

「トイレの鏡。」

 かくて、鏡台は主人専用になりました。男の主人が鏡台をつかい、私が洗面所の鏡です。

 なんかおかしい。


 靴を靴箱に整理していました。見れば主人のはハイヒール5足とスニーカー2足だけでした。ハイヒールは私のより高いです。よくこんなの履けるものだと思いました。

「これじゃ。私のとおなじじゃないの。」

「へへへ。」

「えーえ。朝、旦那さんの靴を磨くのが夢だったのに・・」

 なんかおかしい。


 ここは我が家の居間です。新聞を読みつつ主人がいいました。

「まったく、ひどいよな。だれも、僕のことを主人といわないんだから。」

「そりゃそうよ。」

「こないだ朝日新聞の販売員がきたんだよ。『奥さん、朝日新聞をとってよ。2ヶ月でいいから。』としつこく言うんだよ。」

「ふーん。それで」

「失礼なことに、僕のことを、奥さんと呼ぶから腹がっ立ってね。」

「でも、そりゃ普通よ。」

「私の一存ではきめられませんので、主人に話しておきますといってやった。」

「あっ、それでかあ。こないだ。同じことをいったら、『ここは奥さんふたりいるですか。』とか妙なことを言っていたのよ。」

「ははは。」

 なんかおかしい。


 ここは我が家の玄関先です。主人がまさに出かけようとしています。

「忘れ物無いでしょうね。さあ、言ってみて。」

「定期、サイフ、ハンカチ、鍵、ブラジャー・・・あっ、ブラ、忘れた。」

「こら! どうしてそんなの忘れるの。化粧とパンストは忘れないのに。」

「ははは」と笑い、慌てて寝室へ駆け上がる主人です。

 私は寝るとき、ブラジャーのホックを外して寝るだけです。ところが、主人は帰宅してくつろぎ着に着替えるとき、ブラジャーを取っちゃいます。下にシャツだけは着ているのですがともかくブラジャーが嫌いなのです。おそらく、男だったときはネクタイを忘れていたんでしょうね。

 なんかおかしい。


 我が家のベランダです。主人が植木鉢を抱えて上がってきました。レオタードにショートパンツです。こんな格好は外ではできません。

「よいしょっと。」といって植木鉢を置きました。

「あっ、ごくろうさん。そこおいて。」と私が指さします。

 指さす手を主人が掴んでいいました。

「本当に持てないの。僕と腕の太さ変わんないよ。」

 実際、主人はスリムな細腕です。手首は私より細いです。

「だめだめ。か弱い乙女ですもの。箸より重たい物は無理。」

「ホントかよ。」とジト目で見ます。

「あなたは、男?女? ご主人様と奥様どっち?」

「男です・・・解ったよ。」

「大丈夫?本当に1人で持てないなら手伝うけど。」

「いいよ。男のプライドがある。それに、実家の手伝いで慣れている。」

 なんかおか・・おかしくありません。力仕事は男の仕事です。


 新婚者はまず会社の同僚を家に迎えて宴会をします。妻として、主人の同僚や会社の様子を知る良い機会です。同時に披露宴に招待できなかった同僚に奥さんを紹介する良い機会です。土曜日の夕刻 研究所も含めて、食品部の若手が男女こもごも十数人やってきました。

「おお、ここか。」

「すげえ。一戸立ちか。」

「こんばんわ。」

「おじゃまします。」

「すみませんね。」

「いらっしゃいませ。」

 私と主人は、午後から食事の準備でおわらわです。私の指示のもと、花嫁修業の成果を存分無くはっきしてくれます。言っておきますが、今日は特別ですよ。いつもの食事は私がしてますから。主人はいつものようにちゃんと化粧をし、黒のエプロンを着てかわいいです。

「おお、すげぇ。」

「これだが作ったの。」

「主人でーす。」

「へぇ、日下部さんは、料理もうまいんだな。」

「味付けは、奥さんの千香ですよ。僕はタダの手足だから。」

 うっかり、本当のことを言ってしまったのですが、イメージは恐ろしいもので、主人は毎日料理をしていることになってしまいました。私は主婦だ。何をしていると思っているのだ。


 ぎりぎり若手の井村課長もきていました。

「はあい。ちょっとまってね。」とそう言って、主人が移動したときでした。

 ちょっと、足が引っかかって、主人の豊かな胸が井村課長の頭に被さります。

「わぉ。」と驚く井村さんです。

「ごめんなさい。びっくりした?」

 主人は笑って謝り、台所にきえました。


「日下部は家ではいつもあの格好か?」

 みれば、エプロンの下は体にフィットするシャツと黒のパンストに3分丈ほどのスパッツです。ちょっと色っぽすぎます。

「ちゃんと服を着るように言ったんですけど。レオタードとかスパッツとか、体にをピタッとする服がすきでねぇ。」

「へえ。」

「家に帰るとほとんどノーブラで、風呂上がりなんかすごいよ。あのDカップ丸出しのままパンティ1枚でマニキュア塗ってるんだから。見てて、こっちが恥ずかしくなる。」

「想像するだけで鼻血がでるな。ノーブラか。それでさっき頭の上でむにゅっとしたんだな。」

「え?あの人ノーブラなの。」

 私は急いで台所の主人のもとへ行きます。


「拓也さん、ブラジャーしてる?」

「ブラ・・・あっ忘れた。」

 見ればシャツに乳首の膨らみがくっきりと見えます。

「今日は、お客様のまえだから、そんな恥ずかしい格好しないはずでしょ。」

「ははは・・・・これぐらい。」

「た・く・や・さん!」

「はい・・・着替えます。」

 主人は青くなって、寝室に消えました。


 まもなく黒のキャロットスカートに、半袖のブラウス姿の主人が出てきました。まだ、黒のパンストのままです。あれで平気であぐらをかくのだから困りものです。

 業務の小田朋子さんが主人の指輪に興味を示しています。年頃ですから・・ちなみに、本日はお局の山上さんには声をかけていません。

「あっ、これって結婚指輪ね。ちょっと、みせて。」

「いいよ。」

「へぇ。綺麗ね。」

「そう言えば、こないだ津島化学の村田さんがラベルを持ってきた時なんだけどね。」


 本社の面談室のことだそうです。

「これが今度の新製品のラベルですか。」

「是非とも日下部さんに確認をと思いまして。」

「やあ、すみませんねぇ。FAXで良かったのに。」

「いえいえ。」

 村田さんが指をみて言います。

「あれ?指輪が光ってますよ。ご結婚なされたんですか?」

「ええ、まあ。そうです。」

「それは知りませんでした。おめでとうございます。いつですか?」

「ひとつきほど前です。ありがとうございます。」

「うらやましいですな。あなたほどの美人をめとれるなんて。」

 (うーん。めとった方なんだけど・・)

「そうすると寿退社で。」

「いえいえ、やめたら食ってはいけません。」

「共働きて゜すか。ご主人様の世話との両立は大変ですね。」

「はあ・・」


「ちょっとまった!その話だと私がご主人かいな。」

「女性社員ということになっているから、否定できなくって・・」

 なんかおかしい。


 新婚当初は、夫婦で実家によく帰りますよね。初めは、私は2週間に1度、帰っていました。今日も、私達は車で私の京都の実家に帰りました。ちなみに、主人の実家は我が家の家の近くです。

 ファミリアのセダン車が泊まり運転席のドアが開きます。そこから、まず、黒のハイヒールがドアの側に置かれます。そして、スニーカーを履いた美しい2本できます。顔を出すサングラスの美女、主人です。本日は珍しくストライプのスカートを履いていました。スニーカーをハイヒールに履き替えて、スニーカーを座席にもどし、ドアをしめます。色っぽいです。


「こんちわ。また、来たてぇ。」

「ああ、いらっしゃい。」と言う母です。

 父も迎えにきました。

「昼の用意できているわ。」

「わあ。うまそう。」

 そうめんでした。卵、ハム、キュウリと彩りもきれいです。

 主人はすぐだしに目がいきます。指を突っ込んで味見しています。

「へえ。椎茸と鰹、それと・・後は何かな。これはどうして作ったんですか。」

「あのね。これは・・・」

「はいはい。それで・」

「ちょっと、台所に来て、見せるから。」

「ああ。なるほど。そうするんですか。それで。どのくらい、煮たせるんですか。」

「それはね・・・あら、口紅の色変えたの。」

「これですか。秋の新色でね。高分子アルギン酸を使った落ちない口紅なんですよ。」

「えー。そんなの有るの。また、ちょっとかして」

「拓也さん。そんなのいつのも間に買ったの。一体、何本目よ。引き出しあふれかえっいるわよ。」

「何言っているのよ。微妙な色加減があるのよね、拓也さん。化粧しないあんたにはわからないけど。」

「そんなことないわよ。ちゃんとするわよ。」

 主人とお母さんは料理とコスメで話が合います。どっちも私は入れません。これがしゅうとめ婿むこの会話でしょうか。

 なんかおかしい。


「お母さん。トイレ借りていいですか。」

「いいわよ。スイッチわかる?」

「解ります。」

 そう言って、居間から消えました。

「今日は珍しくスカートね。」とお母さんがいいました。

 確かに主人はズボン姿が多いです。

「お出かけのときは、最近、履くのようになったの。今まで、どうして履かなったか解る?」

「男だからでしょ。」

「ちがうの。オシッコがやりにくいからよ。スカートをまくり上げるが大変でしょ。」

「今だってそうでしょ。」

「あれはサイドジッパーがあるでしょ。スカートをぐるりと回して、サイドジッパーからおちんちんだすのよ。」

「ああ、なるほど。でも、パンストやパンティーを下ろすの大変じゃないの。」

「パンストはダイヤマチを切り抜いて、パンティーは女物を履かずに、男物の前あきを履いているから。」

 程なく主人がでてきました。私の実家のトイレは、アサガオ式の便器と金隠しのある和式便器が両方があります。

「トイレありがとうございました。」

「ほら、立ちションだからはやいでしょ。」

「ホントね。」

「なんか言ったか?」と不思議がる主人です。


 スカート姿で座る主人をみて、私は母に尋ねました。

「ところで、お母さん。拓也さんのことは近所にどう言っているの。」

「ああ、義理の姉の美希さんと言っているわよ。」


 ため息をつきつつ主人がいいました。

「義姉ですか。化粧して、スカートはいているからな。仕方がないなあ。」

 そらそうです。男だと言ったらややこしいです。主人の近所とは話が違います。

「結婚したと言っているでしょ。じゃ、私の旦那さんは?」

「結婚式の写真見せているわ。姉弟だから似てるでしょうと言えばみんな納得しているわよ。」

 目を丸くして私はいいました。

「え? ここに来たときは、姉さんと呼ばないといけないの。」

「まあ、そうなるわね。親戚の前でも気をつけなさいよ。」

「大変だね。隠すんじゃ無かったな。」と言う主人です。

「まあ、おいおい、親戚には本当ことをはなすから、大丈夫よ。」


 主人は大変気に入られいます。男ですから、お父さんと政治や経済のことも話せます。アッシーも気軽にやってくれます。


「千香、沢田のあたりに、長崎屋のショッピングモールができたのよ。」

「へえ、そこならば車で10分くらいじゃない。」

「そりゃ、近いなあ。どんなのかな。」と頷く主人です。

「これからみんなでいかない。」

「いいですよ。」と気楽にアッシーをしてくれます。


 はたして、ショッピングモールは大きなものでした。たくさんの専門店も入っています。主人の興味は、家電売り場と化粧品売り場らしいです。ちょっと変わっています。二人仲良く歩く姿を見て、お母さんが笑いながらいいました。

「しかし、おかしいわね。どうてして、拓也さんがハイヒールで、千香がパンプスなの。」

「ははは。」と笑ってごまかす主人です。


「この人ねえ。女性秘書時代に、ハイヒール履くように躾られたらしいの。」

「その方が、おしとやかになると言われてねえ。それ以後、癖と言おうか、習慣といおうか、染みついちゃって。」

「それで、運転用と山登り以外はハイヒールよ。」


 その後、婦人服売り場です。主人はもったいないことにあまり興味はありません。でも、何を着せても似合うので、お母さんと二人で着せ替えて楽しみます。

「これもいいわねえ。」

「ちょっと、胸があきすぎかな。」

「こっちも、雰囲気が変わっていいんじゃない。」

「これも拓也さんに買ってあげなさいよ。」

「ええ、さっき、上着を買ったからいいわよ。」

「じゃあ。私が買ってあげる。」

 つい、お母さんも自分のものを買うのを忘れて、主人に服をプレゼントしていました。ずいぶん買ってもらったので、替わりに主人はお父さんにセータをプレゼントすると主張し、我が家にはえらい出費でした。


 お父さんと主人がは、家電売り場でひげ剃り器を見ながら、なにやら言ってました。

「お父さん、こっちなんかどうです。ヘッドが動きますよ。」

「ほう、きわぞりはあるか。」

「回転式も悪くないけど、振動式も良いみたいですよ。」

 主人は電気カミソリは用は無いですが、器械には興味があるので話が合います。あの顔で、あごにひげ剃り器をあてているのですから異様な雰囲気です。当時は、女性用がほとんどありません。


 ショッピングモールから帰って、一休みしていると主人が時計を見て言いました。

「あっ、もうこんな時間だ。千香、そろそろ、帰るぞ。」

「ホントね。もう帰んないと。」

「そうね。渡すものは全部わたしたかな。」と考えるお母さんです。

「また、来るわよ。電話もする。」

「そうよね。お父さん。千香が帰るって」


 こうして、いっぱいの荷物をもって、実家を後にしました。

 新婚生活のことなんて、はるか昔のことです。どんなだったか忘れました。

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