表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/13

結婚式


 ここは新大阪ホテルです。いよいよ、主人と私の式典が始まります。新郎と新婦は別室、主人は、例によってタオルを巻いてさらしでで固めて、ナイスなボディを寸胴にします。その上からワイシャツを着て、ズボンをはき、黒革靴を履いてダンディに決めます。化粧は少し浅黒く、眉ずみで濃く太い眉にします。これって男装メイクというのでしょうか。ファンデーションも生え際、肩、首の裏まで塗り、写真館での化粧より念入りですが、男がこんなに化粧をしてもいいのでしょうか。

 新郎控え室には、親族としているのは、父、母、長女、次女だけです。お姉さん達は、既に、結婚して旦那と大きな子供がきているですが、中には入れないようにしています。


「久しぶりに見たら、すごっく、きれいになっているわ。」

「おっぱいつぶすのもったいない。」

「ホントにウェディングドレスは着ないの。」

「アホか。僕は男だよ。」

 両親はため息をついていますが、姉たちは好き勝手なことを言っています。

「お姉さんの旦那に頼んでた写真撮影、しっかり撮ってよ。」

「わかってぃるわよ。男姿の貴重な写真だものね。」


 私は、私で化粧ってこんなにするんだとあきれぐらい塗りたくられます。ビックリしましたが、披露宴はちょっと派手めに、それでいて夜の女性とならないようにやるそうです。まあ、化粧する人の好みもありますが・・

 白無垢の長襦袢を着ている頃、袴姿の主人がやってきました。もちろん、足は足袋に草履です。私は主人を男だと思っています。だから、主人に裸を見せるのが恥ずかしいのですが、主人はどこか平気です。見られるのも見るのも気にしないたちなのです。

「よう。どうだい。」

「あら、着替えおわったん。男は早くていいわね。わたしなんか大変よ。」

「そうでもないよ。ぐるぐる巻きにされて、大変なんだから。」

 着物が一番男らしく見えます。たぶん、体格が一番わかりにくいからでしょう。優男の風格十分です。


「すみません。祝電のことでお話しが・・・」と言って入ってきたのは、羽島さんです。

 台車に段ボールいっぱいの紙の束がありました。

「何これ!」と私はあきれかえります。

 主人が豪華な装丁の紙に書かれた名前を確かめます。

「この豪華なのは、製薬連合やつだ。危ねえ。『秘書』とか書いてあるぞ。ナイショの会や日スカ会という会の名前がやばい。」

「へえ、すごいわね。大手の会社の社長さんからいっぱいね。」

「羽島さん、今から製薬連合のやつは分けるから、最後に、武本薬品工業を代表に読み上げてくれたらいいよ。会社関係は、東亜製薬社長と食品研一同だけでいいよ。親族を中心にして他は省いて。」

「いいんですか?大手の社長さんばかりでしょ。」

「中身は読んだ。後でお礼言っとくから。みんな女性秘書時代の知り合いだよ。やばい。」

「はあ。」


 神前で三々九度を行いました。巫女さんの小声の指示通りですが・・。誓詞奏上を行い、指輪の交換です。これで、めでたく、婚姻が成立しました。

 

 そして、披露宴です。次々と祝辞のオンパレード、世の中こんな善男善女ばかりだったら、すばらしい世の中になるでしょう。本当のことを知っているお母さんは笑っています。


 主人の上司も、主人が女子社員として働いていることなんぞ、おくびにも出さずにうまく褒め称えています。ソフトボール大会で優勝するために1年間密かに投げ込んだ研究所時代のことを上手に話しています。口紅つけてタイツを履いて投げていたいたなんて一言も言いません。そこには、日スカ会のメンバーは一人もいませんから、大丈夫です。


 清原家の親戚も、女ぽい男程度に思ってくれたようです。お色直しのために、新郎新婦が退席しました。この時間を狙って、アッコ達は歌を歌ったそうです。そして、祝電の読み上げです。


 それを聞きながら主人の上司の田口部長と井村課長がひそひそ話をしています。

「田口部長、秘書室の人いませんね。会長はどうしたんですか?」

「2次会だ。」

「え?東亜製薬会長を2次会ですか。」

「それどころか。製薬連合会の社長や会長から直々の電話がかかってな。震え上がっちまったよ。」

「へえー。何の電話ですか。」

「場所とか日程とか清原さんはどんな人だとか聞いてくるんだよ。どうも、披露宴に出たかったらしい。」

「ここにいないというのは、断ったたんですか。」

「そうだ。女性秘書時代の知り合いは、すべて、2次会だ。」

「おれ、2次会でるのやめようかな。会長を始め、他社の社長が勢揃いしそうだ。」


 沢山の祝電が届いたらしいのですが、その大半は製薬連合会の社長や会長です。羽島さんは、それらをばっさりと省略します。招待客は、少しどよめいていましたがそんなことは一切無視です。段ボールいっぱいの祝電の山をみせてお礼を言っています。こんなの読めるかと言わんばかりです。


 私はウェディングドレスに、主人はタキシードに着替えました。ここで、キャンドルサービスとなります。ケーキの入刀が行われ、フラッシュの嵐を浴びました。最高の瞬間です。


 ここで、知人達がばらばらと挨拶にきます。アッコ達もきました。

「京都での別れ方を見て、『まるで、長距離恋愛の別れみたい』と言っていたのよ。」

「『ひょっとして結婚するかも』とか言っていたけど。まさか、本当にするとはね。」

「へへへ。」

「確かに、結ばれる運命にあったかもね。」

「こうしてみると、ダンディなハンサムボーイよね。」

「うれしいです。」

 女になりたくて、女になったのではない主人には、最高のほめ言葉です。


 その時でした。閉じられていた重い扉を開けて、花束をもったタキシード姿の男が入ってきました。

「僕の花嫁はどこだ!取り返しに来たぞ。」

「え、あの人誰だ・・・」

 主人と私は顔を見合わせます。二人とも覚えがないようです。


 その男は、主人を見て叫びます。

「日下部さん。なんて格好をしているだ!」

 その男は、主人の姿にビックリしています。

「ぼくの花嫁はどこへ行ったんだ。」

 そして、その場に座り込んでしましいました。


 やっと、男どもが反応し始めました。

「きさまは、誰だ。式場をまちがえたんじゃないのか。」

「花嫁とはだれだ?」

 そこに入ってきたのは、日スカ会の緑川貴子です。総合研究所で主人に女装を強要していたメンバーでした。たしか、合コンの話では、一番、気合いの入っていた彼女です。

 緑川さんは会場に入るなり、男から花束を奪い、男の頭をぶん殴ります。ばさりと花びらが床に広がりました。

「馬鹿!」

 そう言って、男の首を抱えて、引きづり出してしまいました。


「何だありゃ。」

「どこかの余興か?」

 会場がざわつきますが、司会の羽島さんか取り直します。

「お騒がせしました。何か式場を間違えたようですね。たまに、あるんですよね。新郎や新婦があわてて、よその宴席に飛び込んでくることがあるんです。同じような扉が並んでいますので申し訳ありません。」

「なるほどなあ。」

 会場が笑いの渦になりました。


 披露宴は何事も無かったかのように進行します。新婦からの両親への手紙が読み上げられ、しんみりとした雰囲気の中で披露宴は終了しました。新郎新婦の退場が一度退場し、親族の見送る中、招待客の退場です。


 親族を交えての3度目の記念撮影です。その後は、披露宴を出た小ホールでは記念撮影です。新婦と一緒にというのが多いはずなんですが、新郎もかなりの人気です。


 一段落すると、2次会です。同じホテルの別の宴会室で、やることになっています。主人と私は、更衣室へ引っ張られました。そこで、着替えです。

「え?着替え。何に着替えるの。」という私です。

 主人はあっという間にひんむかれて、さらしやタオルが取り除かれいます。

「わぁ。おう。え? フラジャーを付けて、何すんの。」という主人です。

「どうして、主人と私の更衣室が同じなの。」

 いかなる抗議も受け付けてくれません。みれば、ナイショの会と日スカ会の合同のようです。羽島さんも混じっています。

「女ばかりだし、いいでしょ。」

「さあ、クレンジング。ふたりとも、化粧のやり直しよ。」

「えー・・・・」


 数十分後、着替えが終わりました。

 素敵なウェディングドレス姿の主人です。きれいです。しかし、誰が借りたのでしょうか。迷惑な親切です。

 私はタキシードです。必要ないということで、さらしをまいてくれませんでした。差別だ!抗議をする。男装メイクをするかと言われましたが断りました。


「やっぱり、こうなるのね。」

「ははは。」

 主人は苦笑いしています。百合じゃないけど。きれいだ。ずっと、似合ってます。

「ところで、2次会に僕に女装することを勧めたのはだれだ。」と主人がききました。

「はい。私です。」と元気よく手を上げたのは、私の着付けをしていた羽島さんです。

「だれか、止めなかったのか。須藤さん何しているだ。」

「あら、一番、乗り気だったわよね。」

「2次会用に花束を買ってたしね。」

「はあ・・・」

 主人はため息をついています。確かに、彼女が乗ったらもう止める人は居ないでしょう。秘書会の良心ですから。


「よっしゃ!さあ、記念写真よ。」

 背の高い主人が椅子に座って4度目の記念撮影です。羽島さんまでこっそり写真を撮っています。カメラマンと値段交渉をしようとしましたが、本人了解が必要とおこらていました。


 二人で2次会の会場に行きました。私が主人の手を引いて会場へ入場します。まるで、花嫁が長身のノミ夫婦です。主人は白いベールを被り、清楚で綺麗です。


「新郎新婦の登場です。」

 また、フラッシュの嵐でした。司会は、元武山薬品工業秘書の郡山優子でした。みんなの歓声が上がります。ほとんどの親族は不参加で、それぞれの母親のみ参加です。そらそうです。日下部さんのお父さんだって、息子のウェディングドレス姿なんて見たくありませんからね。

「わあ、綺麗ねえ。」

「色っぽいよ。」

 立食パーティで、お酒は飲み放題です。1時間ほど前から既に開場しており、かなり出来上がっている人もいました。


「よお!日下部、久しぶりだな。」

「あっ。会長じゃないですか。お元気そうですね。」

 見れば、あのちっこい藤本寛次会長です。主人の顔が満面の笑みに変わります。慌てて駆け寄ろうとして、ロングスカートを引っかけます。

「わお。」

 ぞばに立っていた尾崎舞さんに、抱きついてことなきを得ました。

「ごめん。ごめん。ロングスカートは慣れなくて・・」

「そう言えば、初めてあったときもそんなふうにズッコケとったな。」

「ああ、あの時は、慣れないハイヒールを履いてたから・」

「まったく、変わっとらんなあ。」

「ははは。」

 笑うしかありません。


 ナイショ会のメンバーも勢揃いです。ほとんどは、既婚者です。みんな、無理してきてくれたみたいですね。妊婦さんもいます。

 そのお腹の大きな女性が声を掛けてきました。

「日下部さん。久しぶりね。」

「香坂さんだね。わあ、何ヶ月? えーと、今は何だっけ。」

「香坂でいいわよ。いま、6ヶ月よ。これで2人目なの。ホント、子供を産むのは大変よ。あんたもこれから苦労するわよ。」

「ははは。たぶん、僕は出産しないと思うけど。」

 本当にそうだと良いんですが、来栖先生は何をたくらんでいることやらわかりませんよ。


「ホントにきれいね。」というのは、縮れ毛の沢田さんです。

「沢田さんじゃないか。若竹社長は元気?」

「ええ、あそこにいますよ。」

 若竹社長も来ていました。相変わらずの発言です。

「おお、愛しの美希姫じゃないか。ご主人さん、美希姫の手に口づけをしていいですか。」

「社長!違うでしょ。主人じゃなくて、僕の奥さんです。」


 お母さんが、主人をみてしみじみと言いました。

「ほんとにすてきねぇ。私ももう一回やろうかしら。」

「え?だれと。」と私は驚いて母さんに聞きました。

「ふふふ。」


 日スカ会も来ていました。緑川貴子さんです。

「さっきはごめんなさいね。」

「さっきの人は?」

「ホテルの一室を借りて、ぐるぐる巻きにして放り込んだわ。」

「知り合い?」

「元彼よ。合コン以来、あんたに夢中でね。デートしてても、あんたのことばっかり・・」

「そりゃ。いやになるよね。」

「愛想つかして、別れたんだけど。」

「それがいいよ。」

「ところがね。あなたが、秘書室からもどったとき、あなたを偶然みたらしいの。そうしたら、また、燃え上がったらしいの。」

「それで、ホテルに変な電話をしたり、ストーカーまがいののことをしたのか。」

「そうそう、挙げ句の果てに、卒業という映画のまねをして、披露宴に飛び込んだわけ。ところが、奪うはずの花嫁姿のあなたがいない。」

 そらそうです。主人は新郎ですからタキシード姿です。ところで、みなさん、「卒業」と言う映画知っていますか?

「ははは・・・ところで、この姿は見てないよね。」

「ええ、大丈夫よ。」

 胸をなで下ろす主人です。


 司会の郡山優子さんが、もとい・・いやこれでいいのか、旧姓須藤さんがマイクでいいました。

「宴もたけなわなところで、そろそろ、皆様にご挨拶を頂きます。」

「わしに言わせろ!」と叫ぶ会長です。

「エート、会長は後にして、元上司の梶尾さんはどちら。」

 東亜製薬の会長の言葉をスルーするなんて大したタマです。

 梶尾さんは、初めの配属の経緯から事故での大活躍のこと話してくれました。ついで、角川さんが、花嫁修業時代の話をしてくれました。井村さんは出血騒ぎの話をします。しかし、むすっとしたままの子供じみた会長です。


「須藤さん、そろそろ、会長に回して上げて。」と主人が助け船を出しました。

 うれしそうな顔をする会長です。これで会長ですから、東亜製薬の行き先が心配です。


「実は、披露宴でしゃべりたかったができんかった。なんせ、日下部を秘書室に引っ張り込んだ張本人だからな。」

 本当は違いますけど、会長は自分の責任だと思っているのです。


「日下部の秘書能力は地上最低だった。悪筆で伝言メモは読めん。誤字脱字は多いし、連絡は忘れる。正直、秘書にしたことを後悔してくらいだ。」


「結婚式くらいはほめるものでしょ。ひどいな。」という主人です。

「そんなことないですよ。いなくなってから、ほめまくりなんですから。」と、今、秘書をしている尾崎さんがいいました。


「しかし、最低の秘書能力は、IT能力でおぎない瞬く間に能力をあげよった。人望もあり、他社の運転手達にも慕われる希有なやつだった。わしのワガママをきき、車で寝入ったわしに上着をかけていくれたり、母親のように慈愛に満ちたやさしさもあった。政治や経済にもしっかりとした見識を持ち、わしと議論することもできた。」


 ここで一呼吸おいて、会長がいいました。

「改めて言う最高の秘書だった。首にしたことを後悔しておる。」


 マイクを下げて、じっと、言葉をためていいました。

「改めて言うありがとう。お世話になりました。」

 そう言って、深々と頭をたれました。


「・・・・会長ーーー。」

 もう、涙です。一斉に、拍手がわきあがました。


 ここは数週間後の薬業年金会館です。東亜製薬の藤本会長がうれしそうに、2枚の写真を製薬連合の社長達に見せています。男女の服を取り替えた2枚の写真です。

「ほれ、これが日下部のやつが、もろうた婿さん・・・まちごうたわ、嫁さんだ。」

「へえ、かわいいじゃないですか。」

 私と主人のどっちをいっているでしょうね。

「このウェディングドレス姿もいいですな。」

 これも、私と主人のどっちをいっているでしょうね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ