結婚へ
ここは大阪のホテルです。式場を予約したホテル新大阪に主人と私か打ち合わせにきました。ブライダルコーナーで受付らしき人に声をかけます。主人は白のブラウスにスラックスとハイヒール、私は空色のワンピースでした。
「すみません。式場を予約した日下部ですが。」
「ああ、こないだお父様と予約に来られたかたですね。」
30代のショートヘアの女性でした。名刺を出してきました。
「私が担当の羽島です。こちらにお掛けください。」
小さなテーブルを前に椅子に腰掛けます。
「日下部さん。ことらの方は?」
「新婦になる清原千香です。」
「あなたは?」
「新郎の日下部拓也です。」
「????」
「・・・あのう、当ホテルといたしましは、同姓婚というは困るのですか。ホテルとしての品格がありますので」
「違うよ。僕は男だよ。」
「どこが・・・」
「そう突っ込みたくなるのはわかりますが、この人は戸籍も男なです。オカマかシーメールと思ってください。」
「へえ?うそでしょ。」
「おっぱいもあるし、化粧もしていますが、男です。7年前までは、低い声で、髭もあったんですが、突然、こんな体なっちゃて。でも、おちんちんがちゃんとあるんです。それに、ほれ、免許証を見てください。」
「・・・・・ホントですねえ。」
「これだけきれいなら男の人は引く手あまたなのに、もったいない・・」
「それってどういう意味ですか!」
「冗談ですよ。しかし、清原さんはご両親を説得するの大変だったでしょう。」
「ええ、確かにそうでした。」
「まあ、ここまで来れたということはよかったですね。おめでとうございます。これだけきれてな奥さんを・・失礼、ハンサムな旦那様と一緒になれてよかったですね。」
主人を目の前にすると、羽島さんはどうも言いにくそうです。当たり前ですか・・
「新郎だとウェディングドレス着れませんよ。もったいない。ひとつ、衣装だけ逆転させてみませんか。」
「何を言うんですか。」という私です。
「失礼しました。衣装合わせは後日相談いたしましょう。まずは、プランの選択をお願いします。」
「はい。」
「費用は、料理のグレード、参加人数、新婦のお色直し数で決まります。あとは、司会、ビデオ撮影、アトラクションなどオプションをどれだけ頼むかです。」
「お色直というのは、普通は何回やるんですか。」
「結婚式は、神式、仏式、教会が一般的ですが、神式と仏式で和装です。教会では、ドレスが普通です。その式典の後、1,2回程度やるのが普通です。和装で始めて、白無垢から色物の打ち掛けにし、洋装に変えて白ドレスから色ドレスで、3回着替える人も居ます。でもこれが限界ですね。あまりやると披露宴にほとんど新婦が居ないということになりますんで。」
「新郎はどうなんですか。」
「1回程度ですね。式典の和装から、タキシードに着替えて終わりの人が多いです。新婦の色物へのお色直しに合わせて、白のタキシードから色物に変える人もいます。日下部さんは、ドレスへもう一回いれて、2回になります。」
「え?」
「ドレス姿で新郎新婦が並んでとうするのよ。」
「へへへ、すみません。冗談ですから、流してください。」
私が悩んで、主人の顔を見ると、こう言いました。
「清原さんの好きにしていいよ。披露宴は、女として、一生に一度の晴れ舞台、男はその飾り。」
「すごい、飾りですね。」
その突っ込みはないでしょう。その後、座席表や引き出物のリストなど多量の渡されて帰りました。これからが大変です。
ここは、ホテル貸衣装室です。衣装合わせに来ました。薄手のセータを着た主人がガラスの前で新聞を読んでいます。いつもながら、化粧はばっちりしており、どう見ても男装の麗人です。そこに、先日の羽島さんが主人に声をかけました。
「あら、日下部さん。衣装合わせですか。」
「そうなんですよ。男はすぐに終わるからと、後回しにされましてね。」
「すると、今、着替え中?」
「そうですよ。」
「どうして、一緒に・・」
「あの、僕は男ですよ。清原さんは恥ずかしがるんですよ。」
「へーえ。」
「もっとも、清原さんはみたいに恥ずかしがる女の人はめずらしいですが・・」
「まあ、確かに・・ところで、ウェディングドレス着てみませんか?」
「ウェディングドレスを、僕が・・そのんな・・・」
「着るのはタダですよ。」
「男の僕が着る訳には・・・・」
「たぶん、もう、二度ときれませんよ。」
「・・・・お願いします。」
20分後のことです。いろいろ悩んでやっと、ドレスをを決めて、主人をさがすのですが見当たりません。お母さんと探すのですが一体どこへいったのでしょうか。
「おかしわね。ウチの人、どこへ行ったのかしら。」
「ほんとねぇ。さっきまではいたのに・・」
さっきまで、入り口で新聞を読んでいるをちらりとみたのですが、どこにもいません。他に、人影は・・・いました。先日のの羽島さんが長身のウェディングドレス姿の女の人となにやら話しています。
「あら、羽島さん、日下部さんを見かけませんでした?」
こちらに背を向けているウェディングドレスの女がびくりとしました。
「く、日下部さんですか。日下部さんなら・・・ここに。」
なんか、偉く狼狽しています。
「え?」
長身のウェディングドレス姿の女の人は、主人でした。
「へへへへ。きれい?」
思わず見とれる程でした。悔しいほどに・・・。豊満な胸の谷間、白いうじな、細い腰、綺麗なベールに、スカートの白い花飾り、澄んだ瞳、赤い唇と最高です。
「わあ、日下部さん。よう似合ってるわ。」というお母さんです。
「う・・・・」
しばらく、惚けていて、私はいいました。
「羽島さん。変なことさせないでください。ウェディングドレスで並ばせるきですか。日下部さんはタキシードでしょ!」
「ごめんなさい。私が見たかったので、勧めたんです。」
衣装係のひとは、何が何だかわからなくて、きょとんしています。
「この人は新郎なんです。本当は、おちんちんのある男なんです。」
「早く着替えて!」
「もうちょつと・・」といって主人は笑って逃げ出しました。
「こら!」
主人は、胸にさらしを巻いて胸をつぶし、バスタオルを何枚も腰に巻いています。眉ずみで太い眉にかえ、ブラウスを着てタキシードに着替えました。ハイヒールを黒の革靴に着替えます。
「うーん。やっぱり、男装してる女に見えるわね。」
「かなり、寸胴にしたんですがね。スタイルがよすぎるんですよ。肩パッドもいれているですよ。」
男のくせに、なんで私よりスタイルがいいんだろう。それはそれでいいけどなんとなくシャクです。
「しかたがないか。でも、かなり、男らしくなったわ。」
私としては不満でしたが、納得せざる得ません。
ここは喫茶店です。座席表で悩んでます。傍目に見ると女2人がだべっているように見えますが・・
「えー、こんなにいるの。」
主人の書いてきた参加者の名前は数ページに渡り、七十数名います。
「姉貴らに子供がいるし、特に、秘書時代の女の子がどうしても参加したいというんだ。みんな自分の式に呼んでくれた人たちだから、断りにくくてさあ。研究所の日スカ会もしつこいんだ。」
「何、その日スカ会というのは?」
「日下部拓也にスカートをはかせる会。」と主人は苦笑いします。
「それって・・・・日下部さんも、苦労してるんだ。」
「うん。」と涙目です。
主人の本人でも解読の難しい参加リストをながめつつ私はいいました。
「無茶苦茶、アンバランスになるやんか。」
「本当は、会長とか他の製薬の社長とかが、披露宴で話をしたいといっているんだ。断ってているけど。」
「モテるというのも考えものやな。それより、ほとんどが、あんたが女子社員として勤務していると承知の人たちやろ。ウチの親戚と鉢合わせになるとやばいで。」
「2次会に押し込んじゃおうか。」
「会長と秘書室の人は、どうするの。そんなことしていいの。」
「女性秘書時代の話が出るとまずい。会長も2次会に押し込んじゃえ。」と主人は笑って言います。
「えー、そんなことしていいんか。自分の会社の会長やろ。」
「いいよ。あんなセクハラじじい。」
「それよりも、2次会は女子社員勤務を知っている人限定やね。」
「うん。挨拶のをしたいという輩も2次会で挨拶させればいい。」
「いいのかな。エライ人がいっぱいいるのとちゃうか。」
「いいよ。2次会の方が話しやすいと思うよ。ろくなことしてねぇからな。」
「ふーん。なんか面白い話が聞けそうね。2次会の幹事はどうするの。」
「郡山さんに頼もうと思っている。元秘書会の長だったんで、しっかりしている。心配りもできるし、大丈夫だろう。」
ナイショの会では主人が暴走しないように手綱を引っ張る人でした。主人としては日スカ会よりはよっぽとまともな2次会にしてくれると思っていたのです。
こうして、結婚式に向かっては着々と準備が進んでいましたが、新婦は新婦で大変です。彼からプロポーズの言葉を受けると、まず、会社で結婚退職の宣言をしました。親が反対することは解ってましたので、いざとなったら押しかけ婚でもするぐらいの覚悟でした。自分を追い込んだのです。
入社してか10年仕事はベテランとなり、やめてほしいなというプレッシャーを受けていました。そこで、見合いが成功すると、すぐ寿退社をしました。でも、結婚は半年先です。
ウチのお母さんは、私の手が遅いので、家事はほとんどさせてくれません。その癖、家事をほとんどしないので心配だとのたまう母です。一応、主人ほどではありませんが、本当の花嫁修業もしました。料理教室や着付け教室へも行きました。その他、家具のの調達や新居の細々したものを買わねばなりませんが、そんなの1日で十分です。土日ごとの打ち合わせやデート以外はひまです。主人が『運転免許を取っとけ』と勧めたのが助かりました。
その頃の主人は、家が取り壊されので、自分の金でワンルームマンションを借りていました。やっぱり、女性用の下着である、ショーツ、ブラジャーとタイツなどを見られるのがいやだったようです。夕食は両親のところへ行ってましたが、もちろん、化粧を完全に落としていました。
ここは、挙式を予定している新大阪ホテルです。ブライダル担当の羽島さんと主人が打ち合わせをしております。
「急なお呼び出しをして、申し訳ありません。」と担当者の羽島さんが言いました。
「なんでしょう。」
「今日、おかしな電話がありましてね。」
「はい。」
「若い男の声で、『2人はうまくいっていないから、この挙式はキャンセルするかしれない。』と言うんですよ。」
「へえ?」
「お父さんに確かめましたが、そんなことは無いときっぱり言われました。たぶん、挙式を妨害しようとしているようなんです。元彼とかは・・・・無いですよね。熱を入れられて振った男とか覚え有りますか。」
「女ならば解るけど。男は嫌いだと公言しているから、まず、入れ込むヤツはいないと思うけどなあ。」
ふーん。女はいいんですか。ホントは男だからなあ。複雑だわ。
「当日は人員を配置して警備しますが、心当たりがないかよく調べてください。もし、解ればその親に話をつけて頂くことになりますが・・」
いろいろ、声を掛けてみたんですが、あまり広く言う訳にもいかず、結局解らずじまいでした。
結婚披露宴は準備か大変でした。『結婚披露宴は、女として、一生に一度の晴れ舞台、男はその飾りだ。』というのは、主人の言葉です。