男と女どっち?
ここは、会社です。いつものように黒録スーツ姿の主人が電話していると、田口部長が声を掛けました。
「日下部、これをコピーしてきてくれ。」
「ちょっと、失礼。」と主人は受話器を押さえ、返事します。
「わかりました。部長、そこにおいといてください。」
電話の応答が終わると、主人は資料をもってコピー室へ向かいます。しばらくして、コピーの束を届けに来ました。
「これって、運営会議の資料ですか。ウチの部も厳しいですね。」
「ああ、関連事業部長に絞られそうだ。」と机に座ったままで田口部長が返事をします。
「AKシリーズのせいでしょ。そろそろ、腹をくくる時期じゃないですか。」
コピーした書類の数字を立ってながめつつ主人が言いました。
「うーん。そうは言ってもなあ。歴史があるんで、これでないとだめだと言われるところがあるんだよ。」
「そうですか。それじゃ、撤退というのも難しいですね。」
「しかし、いつも悪いな。忙しいのに、お茶くみとかコピーもさせて。」
「いいですよ。女性秘書時代は、それだけが仕事でしたから。今は一部です。」
「そんなもばかりも、困るんだが・・・あっ、そうだ。津島化学の村田さんが見積もりもってきてぞ。」
「解りました。ファイルしておきます。うーん。高くないですか。」
「新製品だから仕方ないだろう。」と田口部長は困り顔です。
「ところで、村田さんはよく来るけど。価格の話となると部長の同席を求めますね。」
「金の話は大事だからな。最終の決定権はオレにあるしな。」
「それは良いんですけど。こないだ急な増産の話をしたとき、井村課長を呼ぶんですよ。なんだか、僕を女と思ってバカにしているみたいなんです。」
主人の顔がちょっと険しいです。
「まあまあ、売るのは営業だ。数字を確認するのには営業が一番だしな。」
そこへ、井村課長がやってきました。
「部長、来週の初め開いてますか。」
「来週か。確か・・」といってちらりと主人の方を見ます。
主人は既にノートを開いています。
「エート、午後はすぐなら、開いていますよね。」
「そういことだ・・ん、ちょっとまて、さっきコピーした運営会議は、昼からじゃなかったか。」
「え?あっそうだ。13時ですね。3時じゃないんだ。」
「おい、しっかりしてくれよ。よくそれで秘書ができたな。」
「すみません。会長によく怒られました。」
「確か、4時頃には終わるから、それでもいいか。」
「了解しました。それで調整してみます。」
ここは、ビアホールです。田口部長と井村課長とが、主人と一緒のテーブルにいます。主人はスーツにスカートとハイヒールです。
「ホントに日下部は女か男かわかんなくなるよな。」という井村課長です。
「迷わないでください。男ですから。」という主人です。
「確かに、そうなんだよな。女ならは運営会議のコピーを頼んでも、内容に興味を示さない。部の運営は、部長の考えることで人ごとだと思っている。」と田口部長が言います。
「思考も論理的ですよね。ウチの奥さんと偉い違いだ。そのくせ女ぽいところもあるだよな。」
「へえ、どんなところですか。」と主人が不思議そうに聞きました。
「今!コンパクトで化粧を確認したろう。」と井村課長が指さします。
主人の癖です。素早い動きでコンパクトを出して、化粧を確認してすぐシェルダーポケットに直します。
「あ!・・・ははは、無意識の癖なんですよ。」
「それと、そのジョッキを両手で持って見ろ。」と井村課長が畳みかけます。
「両手ですか・・」
主人は言われるまま、片手で掴んでいたジョッキの下に両手をそえます。
「ほら、足が動いた。それに前屈みなっている。」
両手でジョッキを持つと、急に膝がくっつき前屈みになります。それまでは、軽く膝を広げて、反り返って座っていました。
「あれ?」
「癖と言えば、応接室や会議室で話を聞くとき必ずしゃがみ込むだろ。」
ビールジョッキを片手に田口部長がそう言いました。
「そうそう。最初はふざけているのかと思ったけど。あれもすごい。三つ指までつくんだから。」と井村課長がいいます。
「ええ、話を聞くときはそういうものでしょ。」と主人は何を言うんだという顔です。
「おまえ、事務所では立っているぞ。」と井村課長が首を振ります。
「あっそういえばそうですよね。秘書時代の躾ですね。会長はちっこいから。そうするように躾けられたんですよ。」
そう主人は頭をかきながら言います。
「なんかスイッチみたいなものが入っちゃうんですよね。」
「でも、今みたいにビールジョッキを飲むときは完全に男だよな。」と井村課長か笑って言いました。
「はは、女性秘書としてはそんな機会がないから躾られてないです。」と主人は笑います。
「でも、姿はまったく女なんだよなあ。」と田口部長がしみじみと言います。
「うん。男であることを忘れてしまうことがある。」と井村課長も同意します。
「う・・変な気を起こさないでくださいよ。僕は男には興味ないですから。」
そう言って、主人はジト目で二人を見ます。
「姿が女だといいましたが、僕、骨格まで女なんですよ。」
「骨格?」
「来栖先生におしえてもらいました。骨の形が女性に特徴的な形に変形しているというんですよ。2次成長の前ならおかしくないけど。28歳からではありえないそうです。」
「具体的にどうなっているだ。」
「うーん。例えば、足を組んでみてください。そうですね。右足を左足の上にませて足を組んでください。」
「こうか。」とそういって、井村課長が足組をします。
「そして、右足の甲を左足の内側に入れられることできますか。」
「あいたた・・・そんなのできるか。」
主人の言うとおりにしようしますが、前屈みにってもどうしてもできません。
「男だとできないでしょ。見てて下さい。僕できます。」
主人はいとも簡単にやって見せました。これには井村課長もびっくりです。
「ホントだな。柔らかいからじゃないのか。」
「関節の柔らかさじゃないんです。骨盤の形が違うせいなんだそうです。女性は少し開いているんで簡単にできるそうです。」
「へえ。」
「それとですね。肩こりしやすくなるんです。」
「ウチの奥さんもよくそんなこと言っているな。どうしてだ?」
「なで肩のせいだそうです。腕の重みがそのまま肩胛骨の筋肉かかるためなんです。胸が大きいとその重みも肩にくるとか言われていますけど。」
私も肩こりはしますが、ああ、こんな台詞はいってみたいなあ。
「おまえは両方でたいへんだな。」
「まったく、女の体というのは、大変ですよ。生理もあるし・・・」
「前から、ひとつ聞きたかったんだが・・」と田口部長がききました。
「はい。」
「おまえの奥さんとのあっちの方はどうなんだ。」
「普通ですよ。女の裸のほうが興奮するんですから。」
「でも、それって、自分のからだもそうだろ。」
「確かにそうですね。毎日、化粧して、自分の顔を見ているのに、たまに、ショーウィンドウのガラスに映った自分に驚くんですよ。この女だれだ?」
「へぇー」
「たぶん、自分の自己イメージは男のままなんでしょうね。」
「ふーん。」
「僕って、男ですからね。」と、主人はなんか自慢げです。
ここは、喫茶店です。綺麗な女の人と主人が話をしています。藤山薬品の元秘書の加藤かなめさんです。どうも、一方的なようですが・・
「それでさあ。彼ったら・・・」
「へぇ。それは、それは、大変だね。」
「でしょう。だってね。ところで、日下部さん。あんたは・・」
「それは、いや、まだだけど。」(え? その話題なの。さっきまでと違うよ。)
「あら、そうなの。私たら・・・」
「そうなんだ。」(おいおい、反省かよ。)
「今、気がついただけど・・・」
「ふんふん。」(また、話題が変わるのかな。)
「そうよねえ。これって、私も悪いかも。だって・・・」
「それも言えるよね。」(はじめからそんなのわかっているじゃないか。)
「そうよね。ああ、すっきりした。日下部さん、ありがとう。」
「はあ。」(え? もう、いいの。結論でてないけど。)
「今日のお茶代もつわ。」
「そう?自分で払うけど。」(なんでこんなのにこだわるんだろ。)
「いい、いいってば・・」
主人が喫茶店をでて、会社にもどると秘書室の梶尾室長とばったり出会いました。
「よう、日下部、元気か。」
「ええ。」
「残念だったな。秘書室から異動しちまって。会長が未だにいうんだよ。」
「うれしいですね。」
「俺としても、後釜にと目算していたんだ。しかし、あんなことになるとはなあ。」
「ありがとうございます。」
「たまに、秘書会から電話があるけど。あの会はまだ続いているのか? えーと、なんと言ったかな。」
「ナイショの会ですか。そのメンバーのひとりと、さっきまで、話を聞いてくれというんで聞いていたところです。」
「それはご苦労さんだな。おまえは男だから苦痛だろ。」
「よくわかりますね。ほとんど、一方的に聞いているだけですよ。話題があっちこっちにとんで、勝手に納得しちゃう。」
「そうだろ。脳構造が違うんだよ。女性の会話はどんどん関連性を求めいて動いて行くんだよ。それには論理性や一貫性がない。」
「確かにそうですよね。」
「求めているのは感情の共感であって、問題解決じゃないんだ。男はそこを間違える。相談されているだと勘違いして、意見や結論をいってはいけないんだ。」
「ええ?そうなんですか。じゃなんで相談してくるんですか。はた迷惑だな。」
「いやいや、ある程度は聞いてやらないと。それは女性のコミニュケーションなんだから。女性とうまくいくこつは何をおいても、黙って真剣に話を聞くことだよ。」
「よくご存じですね。」
「ウチの部署は女性ばかりだろ。いろいろ、研究したんだよ。」
「へえ。すごいですね。僕って男性脳なのか。」
主人はなんかうれしそうにしていました。
男女の違いを述べた下りは、「話を聞かない男、地図が読めない女」アラン ピーズ、バーバラ ピーズ著の受け売りです。この本ほど画一的な男女はありません。ただ、男と女は「別の星住人だ。」と言うくらい違うという事を認めることが夫婦のうまくいく秘訣です。女のおしゃべりは、話を聞いて共感してほしいだけで、結論を求めていないことは、真実かもしれません。男性の方、聞いて上げてくださいね。




