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日下部夫婦の1日


 朝、6時半、ピピピピピッと小さな音で目覚まし時計が鳴ります。主人がぱっと止めます。私はグウグウと寝ています。これぐらいの音では起きません。

「ふぁーーあ。」と主人は大きなあくびをして、布団をはね除けます。


 後ろ手で髪の毛をゴム輪で縛りながら、トントンと階段を降りていきます。2つのベットの並んだ寝室は3階です。


 2階の洗面室で、パジャマ姿の主人はまず顔を洗います。そして、始めるのが洗濯物の仕分けです。洗濯ネットを使い、仕分けをして洗濯機を回します。

 次いで、パジャマの上にエプロンを着け、朝食の準備です。


 できあがった朝食を前に、新聞を読む頃、ジリリリリリリン!と大きな音の目覚まし時計が鳴ります。

「1回目か。起きないだろうな。」

 数秒間鳴った後、止まります。その通りです。これぐらいでは起きません。

 また、5分後、ジリリリリリリン!と大きな音の目覚まし時計が鳴ります。数秒間鳴った後、止まります。

「2回目か。まだまだ。」

 主人は、コーヒーと朝食を食しつつ、TVニュースを見ています。

 また、5分後、ジリリリリリリン!と大きな音の目覚まし時計が鳴ります。数秒間鳴った後、止まります。

「3回目か。そろそろ、着替えに行くか。」

 主人は、口の周りをぬぐって、3階に上がり身支度を調え始めます。室室の隣の洋室が主人部屋です。


 大体、5回目の音を聞く頃、スーツ姿の主人が出てきます。寝室のドアを開け、声を掛けます。

「もう、そろそろ、起きたらどうだ。」

「うむにゃ・・・・」

 主人は軽くため息をついて、自室にもどり鏡台の前に座ります。


 6回目の最後の目覚まし時計が鳴りましてが、止められました。さらに、十数分後、メイクをばっちりと決めた主人が出てきました。


 まだ、ベットの上の私に声を掛けます。

「じゃあ。行ってくるよ。」

 そう言って、私に接吻を!やーん。恥ずかしい。

 私はとれた口紅をコンパクトの鏡をみて直している主人に声を掛けます。

「忘れ物はない?」

「定期、サイフ、ハンカチ、鍵、ブラジャー・・・あっ、ブラ・・ある。あるよ。」

「はあ。良かった。」

「じゃあ。行ってきます。」

 寝室から出て行く主人を目で追いかけます。そして、もう一度寝ます。だって、眠いもん!


 主人が出かけた約1時間後、私は顔を洗い。朝ご飯を食べます。

「うーん。デリシャス。おいしいな。ダーリンのつくるのは、何入っとるか解らんけど。」

 主人の創作料理が多いです。今日は醤油とごま油で炒めたこんにゃくが挟んでありました。


 まずは、散らかった台所の後片付けです。パンくずとか野菜の切れ端とか至る所に落ちいます。半熟の卵が冷蔵庫のドアについていたりします。朝ご飯を作ってくれるので文句はいえませんが、まあ、こんなところは男です。


「さてと、洗濯物を干すか。」

 朝一番に回された洗濯機から洗濯物を取り出します。

「あれ、このブラは? 黒いからダーリンのか。いつ買ったんやろ。」

 カップの大きなブラジャーです。どうして、嫁より旦那の方が大きいんだろと思いながら干して行きます。

「相変わらず、ダーリンのはでかいなあ。こっちにも少しはわけてほしい。」

 などとブツブツ言いながら、干して行きます。パンストの他に最近は黒のレースのパンティも混じっています。

「ありゃ。こんなのまで買っている。ダーリンのは黒ばかりやな。わかりやすうてええけど。こんなセクシーの履いてるかいな。」


ここは、会社です。主人が電話で応対しています。グレーのブラウスに黒のスーツとスカートで、足は黒のパンストとハイヒールです。ちょっと、セクシーですがいやらしさはありません。

「それは、大丈夫です。食品添加物として、認可されているもので、法律的に問題ありません。」

「・・・・」

「いえ、そうではないんですよ。それはですね。厚生省のQ&Aによりますと・・・」

毎度のことながら、難しい会話をしています。とてもついては行けません。なんどきいても主人の仕事は人には説明できません。


 電話が終わると、井村課長がやってきました。

「おう、日下部、電話終わったか。部長に来客なんだ。第2応接にお茶をたのむって。」

「はあい。2人ですか?」

「いや、部長を含めて、3人だったと思う。」

「了解。」

「ところで、部長の来週の初めの予定はわかるか。月曜日は空いているかな。」

 主人はノートを広げて見ています。

「昼からなら大丈夫でしょう。」

「OK、そのあたりで調整するか。ほとんど、秘書だな。」

「ははは。ここでもそんなことするとは思いませんでしたけど。」


その頃、私は買い物の最中です。京都では買い物は原付バイクがなくてはいけませんでしたが、ここは商店街のうら通り、買い物はすぐそばです。

結婚前に、ゴミ箱とかハンガーとかを買うために、バイクで往復しました。ところが、新居に移ってみると、歩いて3分のところに金物屋があるではありませんか。ひどく落ち込みました。


 夕方は、ピアノの生徒がきます。大体、日に一人ぐらいです。昔からピアノをずっとやっていたので、近所の人に話をすると、それならばウチの子に教えてほしいという話があり、数人の生徒がいます。


結婚当初、料理を作るのがうれしくて、料理本を見て毎晩違う料理をしていました。何しろ、私のお母さんは、台所では何もさせないのです。結婚して、初めて台所を任されて、やり放題です。午後から用意を始めて、数時間かけて料理をし、レシピをノートに記載していました。まあ、違う料理が続いた数ヶ月ほどでしたが・・。


 数時間かかった料理が完成したころ、主人が帰ってきます。新婚当初ですよ。新妻の最大の仕事だったんです。

「ただいま。」

「お帰りなさい。」

 そう言って、主人と私は抱き合ってキッスをします。今朝は眠くてできませんでした。新婚です。これくらい甘いのは当然です。


 その後、主人は3階に着替えに上がります。


まもなく、取り込んだ洗濯物を抱えて主人が降りてきました。TVを見ながら洗濯物を畳んでいます。

 本日は、タンシチューです。新婚です。手間暇や家計なんて度外視は当然です。

「ダーリン。ごはんできたでぇ。」

「わかった。」と言って台所へ向かいます。

「今日はタンシチューやで、5時間煮込んだからやわらかいやろ。」

「へえ、すごいなあ。」

 主人も笑顔です。

「毎晩、違う料理だというとうらやましがれるんだよ。」

「そうでしょ。このままだと、1年で三百種類、3年で千種類覚えられるよ。料理研究家になれるで。」

「そうだといいね。友達は、『ウチの場合、夏は冷や奴、冬は湯豆腐ばかりだ。』といっていたけど。」

「ふーん。ウチはそんなことないわよ。」

 他人事ではありませんでした。今では、1品としてよくやります。簡単ですからね。


 食事の後はTVです。こたつに入って、主人の太ももの上で寝て見ます。奥さんの膝枕で旦那の耳掃除なんてシーンがありますが、ウチは逆です。主人の膝枕は気持ちいいです。

「あっ、電話や。」

 私がそう言うと、まもなく電話の呼び出し音がしました。

「すごい。予知能力かい?」

「違うよ。呼び出し音の前に、カチッという音が聞こえるでしょ。」

「わかんないなあ。」

 私が電話にでると、知らない女の人でした。

「はい、日下部です。主人ですか・・ちょっと、お待ちください。」

主人を呼んでくれというので、受話器を渡します。

「ああ、君かあ。」

「・・・・」

「ああ、いいよ。明日の昼だね。」

「・・・・」

「了解。じゃあ、明日、例の喫茶店で待っているよ。」

 そう言って、電話が切れました。

「ほうほう、妻の目の前で堂々と浮気の約束かい?」

「違うよ。ナイショの会の女の子だよ。時々、話を聞いてくれと言って呼び出されるんだ。」

「ナイショの会はきれいなひとばかりだから心配だわ。」

「違うってば、亭主や彼氏の愚痴を聞かされるんだ。」

「ホントかなあ。」


 ややこしいですが、主人の場合、男は嫌いですから、男は大丈夫です。女は危険です。以前、ナイショの会のメンバーを家に呼んだときは、びっくりしました。綺麗さのレベルが違います。主人より美人の人がゴロゴロいます。まあ、大丈夫と思っていますが、女にももてる主人です。でも、ちょっと、心配です。


「おっ、風呂がわいたなあ。」

「え? そんな音した。」

「あの、チャイムが聞こえないのか。電話よりよっぽどはっきりしているぞ。」

「そうかな。」

「さてと、さきに入っていいか?」

 そう言って、風呂へ行きました。


 主人が風呂へ行ったのを見計らって、私は台所を片付けます。そこは、男です。主人の風呂は速いです。10分も立たないうちにでてきます。どこを洗っているでしょうか。不思議です。

「いい湯だった。」とにこにこして出てきました。

 頭にタオルを巻いて、バスタオルを首からぶら下げ、パンティー1枚です。

「ほんまに速いなあ。どこあらっているんや。」

「ちゃんと、洗っているよ。化粧もおとしたし。」

 そう言いながら、リビングのこたつの上に腰掛けます。

「おっぱい、丸出しやで、はよ、服きぃな。」

「ははは、ちょっとまってね。」

 あわてて、寝間着を着る主人です。

「髪も乾かすんやで。」といって、ドライヤーを主人に渡します。

「はあい。」

 大きな音をたてて、主人はドライヤーで髪を乾かし始めました。


 1時間ほどして、風呂からで出来ました。ん?長いですか。普通ですよね。女の子ですものねぇ。

 見ると主人は自分のブラウスにアイロンをしていますではありませんか。

「あっ、アイロンしている。私がやるのに・・」

「いやあ。目に付いたから・・」と笑っていました。

 主人は前をはだけたまま、アイロンを掛けています。

「それより、寝間着をちゃんと着なさいよ。」

「ははは、ごめんなさい。」


 夜です。ダブルベッドではありませんが、シングルを2つぴったりくっつけています。

「ちょっと、そっちにいっていい?」

「いいよ。」

「うふ・・・拓也さん・・」

 主人がキッスをしてくれました。

「腕貸して・・」

 腕に巻き付くようにして、目をつむります。いい匂いがします。

「お母さん・・」

「え?」

 間違えた・・・まあいいか。



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