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夏にきえた声  作者: Marimo
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5.行方不明


『永連さまに殺されちゃうよ』




「-っ!!」

連ちゃんの声が耳元で囁くように聞こえて跳ね起きた。

汗だくの体と上がった息が夢であったことを理解させる。


「夢か……びっくりした」

あまりにもリアルな声に心臓が脈打つのを感じる。夜中なのかあたりも暗く街頭の明かりや虫の鳴き声が響いている。

「寝れねーよ」

誰にともなく呟いて枕元に置いた携帯を見ると1時を過ぎていると分かった。

汗がひんやりとして気持ち悪いせいか、眠気が覚めた俺はなにかを飲もうと部屋を出て、隣の部屋の扉が開いているのに気づいた。

「……」

見るつもりはなかったけれど、つい目に入ってしまった。

……そこに羽野さんの姿が見えなかったからだ。



キッチンで水を飲んで部屋に戻ってきても、羽野さんの部屋に変化はなかった。

夕食も一緒に食べたし、帰るにしてもバスはない。散歩にしてはこんな時間に無防備じゃないのかなんて心配をしてしまう。


ふと連ちゃんの言葉が頭をよぎった。

「どちらかはうそつき」

嘘……彼女が気づいていたかは別として、実際に羽野さんが嘘をついていた。

永連さまの逆鱗に触れてしまったのだろうか。

そもそも本当に実在するのだろうか……大抵こういった話は村の誰かが粛清をするというが、もしそうだとしたら宿のおばちゃんなんかは特にやりやすいのでは。


「なんてな」

そこまで考えて思考を止めた。

もしそうなら、俺だってどうにかなるはずだろうし、少し扉が開いていただけで死角に寝ていたのかもしれない。

そう思うことに決めると、あっという間に眠ってしまった。

それでも翌日に、それは異変であったとも理解した。




「おはようございますー」

朝になると羽野さんの部屋の扉は閉じられていた。

帰ってきたのかどうか分からないが、あの後戻ってきたのならまだ寝ているだろうと思って声はかけなかった。

「あれ……」

挨拶とともに入った食堂におばちゃんの姿はなく、代わりにきちんと用意された朝ごはんと手紙があった。

「”朝から用事があってでかけるので食べてください、食器はそのままで大丈夫です”って、いくら田舎の民宿でも無防備すぎないかな」


その手紙の通り、少し冷めた朝食を食べる。食器は隣り合ったキッチンに戻して水をつけておいた。

「羽野さん寝てるだろうし、写真でも取ってまわろうかな。午後にはここを出ないといけないし」

部屋に戻って荷物をまとめて入り口に置いておき、まずは神社へ向かおうと歩き出した。


しばらく歩いた先にある富音河の流れは涼しげな音を立てている。


「ん?」

午前中の暑くなる前の時間帯だが、河にかかる橋から上流の山に向かって何名かの村人が走っていくのがみえた。

とっさに俺を追い越していくおじさんに声をかける。


「あのー、なにかあったんですか?」

「ん?あ、あぁ!観光のお兄さんか。いやどうも行方不明の人が出たんだそうだ、あんたのツレじゃないのか?」

「ツレ……ではないけれど、羽野さんが!?」

「宿のおばちゃんが朝いないから心配して村の人に聞いてたらどこにもいないってんだ、あとは立ち入り禁止の鍾乳洞くらいだし……」

「え……」

その言葉に昨日入った鍾乳洞と、夜中の開いていた扉と、連ちゃんの言葉が頭のなかをぐるぐると回る。

「とにかくこれから山に入るんだ、兄ちゃんも人目のつくところにいてくれな!」

「あ、はい……あ!」

一緒に行くことを思いついたときにはおじさんはもう走り出していた。

「とりあえず、神社なら連ちゃんとかいるだろうし……」

そういって俺は再び歩き出した。


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