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夏にきえた声  作者: Marimo
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4-2 永富村(永富神社)


村の見知った風景が戻ってきた頃、

「昨日のお兄さんだー!」

と聞き覚えのある声が向かう先の下流の方から聞こえてきた。

山の風景を見ていた顔を前に向けると、昨日神社であった連ちゃんがこちらへ駆け寄ってきていた。

昨日と同じく耳の上で左右に髪を結び、ワンピースを着ている。


「知らないお兄さんも一緒、お友達?」

「あー……えっと同じ宿に泊まっている羽野さんだよ。羽野さん、この子ですよ昨日おばちゃんが言ってた巫女の連ちゃんって」

「こんにちは」

「こんにちはー、どこいってたの?山の方は大人と一緒じゃなきゃダメなんだよ?」

連ちゃんは俺と羽野さんを交互に見ながら首を傾げている。

その無邪気さの裏側に昨日感じた違和感を思い出して反応できずに居た俺の横から彼女の目線に屈んだ羽野さんが驚いた反応をする。

「え?そうなんだ……お兄ちゃんたちもう大人なんだけどそれでもダメなのかな」

「さぁ?村の大人じゃないとだめなんじゃないかな。河の流れが早くなる場所があったりして危ないって言われたよ」

「そっか、さっき山の手前まで言ってきたんだけど、山の中よく分からないから戻ってきたんだ。せっかくだし、観光案内してくれない?」

上手に嘘を吐いた羽野さんは、また上手に話題を変えてまるでナンパのように連ちゃんに言い寄っていた。


「いいよ、じゃあまずは神社から!」

そういうと神社の方を指差して歩き出した。


……俺は昨日のことを忘れていない、そう、あの階段のことも。



***



「はぁっ、はぁっ」

「ひぃ……ふぅ……」

「大人なのに息切れるんだねー」

軽々と上がっていく連ちゃんの少し後ろを俺と羽野さんはほぼ同じ位置でのぼる。


「……大人、だから、息が、切れるん、だよ……」

「なにか言ったー?」

陽気な声は聞こえたのかそうでないのか分からないが一言目よりもさらに上から聞こえてきた。

普通の石段よりも幅が狭く高さのあるせいか、足も上げなきゃいけない、背筋をまっすぐしても不安定という悪条件が悪いんだと思いながらのぼりきった時には、賽銭箱の前で手を合わせている連ちゃんが見え、息ひとつ乱していないことに体力というか……経験の差を感じた。


「ふぅ……これが、永連さまのいる場所か」

「そうだよ、ここに来たらちゃんとお参りしないとだめなの」

「あ、俺昨日やってないや……」

「じゃあ昨日の分も今お参りしてね」

連ちゃんに言われた通り、羽野さんと並んでお賽銭を入れて手を合わせる。


……こういうときになにを思えばいいのかいつも悩む、自己紹介するのも違うし願掛けはもっと違うような気がしたから、とりあえず「研究といっても簡単なものなのでご迷惑おかけしません」と無難なことを頭に浮かべた。


「ここすっごく景色がいいね」

登ってきた階段から村を見下ろすとほぼ全体が見え、見晴らしはとてもよかった。

「うん、だからここに永連さまがいるの。村の全部が見えるから……悪いことしてもお見通しなんだよ」

連ちゃんは、さっきの羽野さんの言葉を信じたのだろうか……それとも知っているうえでこういったプレッシャーをかけているのだろうか、どちらにしてもこの子から出る不思議な雰囲気は年齢にそぐわない気がする。これも巫女としての特別な力のせいなのかもしれない。


「連ちゃんは、巫女としてどういう声を聞くの?」

「そうだなぁー、色々だよ」

「じゃあ、最近はどんな声を聞いたの?」


連ちゃんは数歩後ろに下がって、あの笑顔を浮かべて俺と羽野さんのどっちともつかない位置を指差す。


「二人が来ることを教えてもらったよ、どちらかは救ってくれる存在でどちらかはうそつき」


「え……」

思わず二人とも同じ反応をしてしまった。

冷や汗が首の後ろを流れるのも感じる、そんなことを他所に元の表情に戻った連ちゃんは自分の結んだ髪を撫でながら


「なんてね、これは嘘かな?本当かな?」

と首を傾げていた。

頬に垂れてきた汗を拭っていると、急に現実に引き戻された気がした。

隣の羽野さんもさすがに反応が返せなかったようで、頭を掻くようにして上げた手のまま固まっていた。



「連、神社にいるのー?」

階段の下の方から女性の声が響くと、連ちゃんは慌てて階段へ駆け寄ると声の主の方へ手を振った。

「ママ!」

どちらともなく羽野さんと階段の方へよると階段の中間にある石畳のところで短い黒髪の女性が手を振り返していて、俺たちに気づくと小さく頭を下げた。

「もう帰らなくちゃ、また遊んでね」

それだけ言うと連ちゃんは階段をぴょんぴょんと飛びはねながら降りていった。


しばらくして二人が見えなくなった頃に、羽野さんと俺は階段を降りて宿へ向かい始めた。

そして今の出来事を振り返っていた。

「……たしかに、不思議な子だったね」

「昨日似たようなことがあったんですけど気のせいかと思って……でも、二人一緒に体験したのなら、本当にあの子が不思議な子だってことですね」

「うん……鍾乳洞のこととっさに嘘ついちゃったけど、まぁ二人の秘密ってことで」

そういって羽野さんは話題を打ち切った。


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