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夏にきえた声  作者: Marimo
4/10

4-1 永富村(鍾乳洞)

翌日。


「うー……頭いてぇ」

正直、酒は強い方ではない。

でもつい飲みすぎてしまう……今まで記憶が無くなるほどの飲んだことはないし、昨日聞いた嘘か本当か分からない話もちゃんと覚えている。

洗面所で顔を洗っていると、ちょっと焦げたような魚の匂いと炊きたてのご飯という家庭的な朝食の香りがしてきた。


「おはようございます」

食堂ではおばちゃんが食事を運んできていた。

羽野さんの姿はない、まだ寝ているのだろうか。

「おはよう、なんだかすっきりしない顔だね。寝れなかった?」

「いえ……羽野さんとちょっと夜呑んでたもんで」

「あら、言ってくれたらおつまみでも作ったのに……ということは二日酔いだね」

「まぁ……そんなかんじです」

昨日と同じ席に座ると階段から足音がして俺よりは顔色が良さそうな羽野さんが姿を現した。

「おはようございます、良いにおいだ」

「おはよう、お味噌汁持ってくるからご飯は各自好きなだけどうぞ」

案の定、俺の二日酔い顔を笑い飛ばした羽野さんとともに食事を取る。

味噌汁や手作りの漬物は体に優しい気がした。



***



「やっぱりこの時期の水は冷たくて気持ちいいな」

宿を出て、富音河の上流を目指して歩き出したところで羽野さんは水の中に手を入れていた。


朝食のあと、部屋で寝転んでいた俺を引っ張りだした羽野さんと街を歩くことになった……一人で居ても二日酔いを理由にゴロゴロするだけで終わりそうだったのでちょうどよかったと言えばちょうどいい。


「大体こういう場所の上流に鍾乳洞があるもんだよね」

「立ち入り禁止がどうとか言ってませんでしたっけ」

「まー、入らなきゃ大丈夫ならせっかくだしちょっと行ってみようよ」

俺の返答を待たずにさらに上流目指して歩き出した羽野さんについていこうと踏み出す。


平野から山へ向かうと、入るものを拒むかのように森になっていた。

富音河も上流は少しずつ細くなってきていて、本筋から分流された山沿いを歩くと鍾乳洞はすぐに見つかった。

歩いてきた道を振り返ると木の合間に村が見える、村で一番大きな永富家の裏側だろう。

息を落ち着ける俺を他所に羽野さんは踏み込んでいく。

「ちょっと羽野さん!ここ立ち入り禁止じゃ……」

「そんな看板どこにもないだろ、それにほら」

羽野さんが体をどかして指差した場所には、奥に向かってロープが張られているのが見えた。ちょうど腰の高さくらいの位置にあるので手すり代わりとしてあるのだろう。

人一人分の入り口から先は光も入らない暗闇になっていて、少し前を進み始めた羽野さんの影がやっと分かるくらいになっていた。

「暗いから気をつけてね」

「は、はい」

結局流されるまま二人で中を進んでいく。

足元は見えないけれど濡れているらしく気を抜くと滑って転びそうになりながら進むと、羽野さんが急に止まりこちらを向いて声をかけてきた。


「……この先、かなり狭いからここまでしか行けないみたいだ。せっかくだけど戻ろうか」

肩越しに先を見ても暗くて分からない。

「分かりました、じゃあこのまま反対向きます」

そう返事をしてから体の向きを入り口に戻して歩き出し、入ったときよりも早く外に戻ってきた。

次いで出てきた羽野さんも近くの河で手についた汚れを洗いながら心底残念そうに

「うーん、思ったよりあっけなかったなぁ」

と漏らしていた。


「まだ時間あるし、他の場所に行こうか」

立ち上がって下流に向かって歩きた羽野さんの背中を見ながら、つい俺より細身なのにかなり体力があると思ってしまった……別に俺の息が上がってきたわけではないが。


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