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夏にきえた声  作者: Marimo
10/10

9.永連さま

「じゃあ、また来ます。といってもすぐは難しいかもしれないんですが」

「気長に待ってるよ、あの村には時折顔出そうと思っているから、そこの警察に連絡でもくれれば送迎してあげるよ」

「あの……凛ちゃんと村のこと俺書いたりしませんから」

「そうしてくれると助かるよ。あの子もまだまだ子供だし、これからが一番肝心だ」

念のため連絡先を交換して俺は羽野さんに別れを告げた。


帰りの電車にはなんとか間に合い、とても長く感じた三日がやっと終わろうとしていた。

そういえば……と、おばちゃんが持ってきてくれた荷物を開けて中身を確認しようとすると、一枚の手紙が無造作に入っていた。

「……おばちゃんか?」

宛名も差出人もなにもないその白い封筒をあけて手紙を読み始めた。



”お兄さんへ”

と、書かれた出だしから凛ちゃんが書いたものだと思う。

あの年齢としては上手なほど丁寧な手紙だ。



"お兄さんへ


この手紙を読んでいるなら、私はちゃんとお兄さんを救えたんだと思うな。

ママが、お兄さんたちになにかしようとしているのは分かっていたんだ。だから、私は私のことを話してお兄さんたちを救おうと思った。

そして、それが無事にできたのなら、私は私を救ってもらうためにこの手紙を書きます。

なにを言っているか分からないよね。

でも、きっとこの先を読んでくれたら分かると思う。”


「……」

祭壇で話した大人びた様子の彼女が思い浮かぶ。

あの子はあの場所でこの手紙を書いていたのだろうか。


”私が最初に嘘をついたのは、巫女の力が確認される儀式のときだよ。

手紙の内容を教えてもらったのは私だったのに、儀式のときにあの子がどうして当たっていたのか分からなかった。

だから、聞いたんだよ。河の上のほうで二人で遊んでいるときに……そうしたらあの子は私のことを笑ってた。

永連さまが私の悪さを教えてくれたんだって。そして手紙の内容も教えてもらえたと。

でも、私が手紙を入れ替えたことは知らなかったみたいだった。


私が誰だかわかる? 連かな?凛かな?

……何度も入れ替わっていて分からなくなってきちゃったよ。

でも、その儀式のとき、私は”連”だった。巫女としてみんなから祝福されていた。


ひどい言葉ばっかり浴びせられるあの子を見たときに、ごめんなさいって思ったけれど、私のしたことを知っていたあの子が怖かった、選ばれたのは私なのに、惨めなのはあの子なのに……そうして気づいたらあの子は血まみれで、私は何度も何度も喉に尖った石をつき立てていた。

そこから逃げて急いで祭壇に着替えに行った私は、どうにかして見つからないようにしようと神社へのあの通路を走っていたよ。

ちょうど神社で息を落ち着けてるときに、村の人に会ったんだ、巫女として敬ってくれた。そしておうちの使用人が河の上のほうに向かっていくのが神社から見えたの。

それから……”



それからは、母親から聞いた話と同じだった。

小さな彼女が精一杯に隠してついた嘘が、まだ頭の中でもつれている。



”永連さまの声なんて聞こえてないんだよ。

……でもね、お兄さんたちにあったときに、お兄さんたちを助けることができたら、私も救われるんだと思った。これこそ、きっと永連さまのお声なんだって思った。

その救いが、この手紙で全てを吐き出せたことなのか、それとも私がいなくなることなのかは分からないけれど、もう疲れきっちゃったんだ。

お兄さんが言ってた、”嘘つきよばわりされた”ってお話を聞いたときに、

すっごくドキドキしたんだ。私のことかと思ってしまったの。

だからね、お兄さんがこの手紙を読んでくれるだろうなと思ったら……私は”




「”私は、私を終わりにしようと思います。”……」


手紙はそこで終わっていた。

彼女の懺悔が、ここに詰まっていた。

目を覚ました彼女が伝えようとしていたのは、俺の無事の確認と……この手紙を指差していたのだろう。

そして彼女は手紙の通り、俺が手紙を読むことを予測できたんだ。だから……最後の言葉の意味を理解した瞬間に、ここが電車内だということも忘れて羽野さんへと連絡をしていた。



***




掻き毟った喉が痛くて熱い。

目の前も霞んでいる。


お兄さんは、きっと手紙を読んでくれただろう。

そして、そう思うだけで私は救われた気持ちになった。


もうどっちかなんてどうでもよくなっていた。

嘘が足元にからみついて、立っていられなかったから。


”もう休んでいいよ”という言葉は、本当に聞こえていた。

私がそう思い込んだだけかもしれないけれど、

もしかしたらあの子の声だったのかもしれない。





それでも、もう……声は聞こえない。








fin


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