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夏にきえた声  作者: Marimo
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1.永富村

 夏、都心から電車とバスを乗り継ぎ俺は山間の永富村へと向かっていた。

俺の名前は一之瀬 和也(いちのせ かずや )

大学のオカルトサークルの題材として、永富村(ながとみむら)に奉られている童謡の神様を選び、夏休みを利用して来ることとなった。



これは、その村での出来事。


***



「なんもないなぁ」

古い型のバスは、騒がしいエンジン音と整備されてない道路の振動を絶え間無く発していた。

乗客は運転手と俺を含めて4人、一番後ろの広い座席に座った俺と運転席の後ろにある向かい合った席に老夫婦が並んで、ぼんやりと外を眺めている。


駅員のいない駅からこのバスに乗り、揺らされること約一時間。

山の間を抜け、広い畑の真ん中の道路を抜け、二つ目の山を越える。

バス停はあったけれど待ってる人も降りる人もいないため、ほぼノンストップで走っていた。


山間を抜けて、大きな橋渡ったときに、目的地の村が見えた。

橋の下は大きな河になっていて、山から流れていく先に小さな集落が見える。

その後もバスはスピードを出せないように左右に蛇行した山道を下っていく。前の座席についている手すりに捕まっても揺らされる事に慣れてきた頃、やっと集落の入り口を告げる アナウンスが聞こえた。


トタンで簡単な日よけを作られたバス停で降りると、夏独特のムッとした熱気が体にまとわりつく。俺を下ろしたバスは砂ぼこりを上げて走り抜けた。


「え~っと…」

チラッと見えたバスの時刻表は朝は7時20分から、1時間ごとに夕方4時までとシンプルなものだった。

「ま、こんなもんだろ」

大きく伸びをして荷物を背負うと、畑道から先に広がる集落と山に向かって歩き出す。

橋から見えた河は、バス停から集落を越えた先に見え、傾いてきた太陽の光が反射している。



「あらあら、いらっしゃい。こんな田舎まで」

村唯一の民宿である「永富荘(ながとみそう )」は村に入って少し進んだところにあった。

出迎えてくれたおばちゃんは、白い割烹着に手ぬぐいのようなものを頭に巻いていて化粧っ気のない、見事に田舎のおばちゃん代表といった風貌で優しい笑顔をしていた。


「お兄さんのお部屋は二階の奥ね」

二階建ての宿は階段をあがった左側にトイレとベランダ、右側に手前と奥の二部屋で、客室側は山と河が見えた。

その気になれば簡単に開けられるような鍵を受けとる。

「お風呂は一回の階段後ろのほうで、その隣が食堂になっているの。18時くらいにお夕飯用意するけど大丈夫かしら?」

「はい、ありがとうございます」

「それじゃ、ごゆっくりね」



扉が閉められると、開けられた窓へ近づいて地図と場所を確認していく。

どこかから風鈴の音がするが、その風には涼しさはあまりなかった。


「あれが、バスから見えた富音河( とみねがわ)か…」

周辺を山に囲まれた永富村は、村の北部から東側の山間に沿って大きな河が流れている。橋から見えたとおり、山の頂上の方から流れる川は富音河と呼ばれている。

富音河の西側には今居る集落になっており、奥から地主で村長の永富家(ながとみけ )がある。

河の西側から北の山のほうはほとんど永富家の敷地だとかでかなり広大な土地になっている。

ただ、本家である家の近く以外はとくに塀などがないらしい。

永富家から南が他の住民の家が並び、この永富荘や八百屋なんかもある。

住んでいる人も100人にも満たないそうで、本当に小さな村のようだ。


「んで……あれが永富神社(ながとみじんじゃ )


市街地から富音河にかかる橋の先は畑道が続いており、そこから山に少し上がったところに長い階段が見える。

階段を登った先が、今回の目的の永富神社だ。

まだ午後の陽射しが強いせいか、窓越しにじりじりとした熱気を感じる。


「ま、あとで歩いてみるか」

暑さに耐え切れなくなり、畳に寝転んだ俺は廊下から聞こえる心地よい風鈴の音にぼんやりと呟く

「夏ってかんじだなぁ」


しばらくうとうとしていると、トントンと階段を昇る音が聞こえる。

「お部屋はこちらです」

足音は部屋の手前で止まる、隣の部屋に誰かが入ったのが分かった。


「一度にお二人もお客さまが来るなんて嬉しいわね、お夕飯は18時くらいでいいかしら?」

「はい、ありがとうございます。先にお風呂いいですか?」

「えぇ、もちろん。それではごゆっくり」


薄い壁を通しておばちゃんと、若い男の声が聞こえる。

扉が閉まる音と階段を降りていく音。

「ま、安さからするとこんなもんだろ」

普段一人暮らしのアパートでも、隣の生活音は聞こえてくるせいか気にせず寝返りを打つ。


リュックから覗く携帯を取り出すが見事に圏外のマーク。

「別に誰も連絡取らないけどさ」

携帯を閉じるとリュックへ放る。

壁にかかった時計は15時半を過ぎた頃で、このまま寝るには中途半端だった。


「せっかくだし、神社くらいは散歩してみるか」

体を起こして、財布とカメラ替わりの携帯をズボンに突っ込むと部屋を出た。

夕飯の支度をするおばちゃんに声をかけ靴を履く、外は昼過ぎよりも少しはラクになっていたが、ジリジリと焼ける暑さを感じる。

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