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色褪せない想い……。

 日記を閉じた悠は、ふぅとため息を吐く。

 彼女が無理に自分を二階に上げた理由が理解できた。

 そして、目的も。

 本当はいますぐに彼女の元へ走りたい。

 けれど、知ってしまった事実に気持ちが混乱していた。

 美琴が牧夫とどういう気持ちで付き合っていたのか、自分をどうみていたのか。

 波のように揺れる彼女の感情と、それを読み取れずにいた浅はかな自分。

 恥ずかしさと後悔、自己満足に浸っていた彼のプライドを、ゆっくりと砕いた。

 美琴の為になにができたのか。

 本当はただ、和子に乗せられ、弘樹に汚れ役を押し付けただけ。

 ただのピエロ。

 そんな自分が、美琴の手を握ることができるのだろうか?

 失恋と罪悪感でうなだれる彼女に言い寄る、卑しい自分。

 もともとそういうことを期待していただけに、それを見透かされた日記の最後に、悠はどうしようもなかった。


「……まだ決まらんの?」


 ドア越しに美琴の声がした。

 彼女の気配に気付かないほど、熱中して読んでいたのだろう。

 ただ、悠はそれほど驚いていなかった。

 騙されるのにはもう慣れっこになったのかもしれない。

「ああ。悪い……すぐ済むから」

「そ」

 美琴をずるいと思う。けれど、それはお互い様。

 悠はドアを開けると、彼女を抱きしめ、そのままベッドに倒れ込む。

「悠……」

「ごめん、遅くなって……」

「うん……」

「俺、ずっと言えなかったけど、ず前のこと好きだ」

「知ってる」

「そうか?」

「うん。多分」

「そうだね」

「ウチはどう思ってると思う?」

「好き」

「自信過剰」

「そうだな。でも、もういいよ。俺達、遠回りしたし、脱線したけど、でも、やっぱり一緒にいたほうがいい」

「そうだね」

「俺、将来は美琴のこと、お嫁さんにするから」

「じゃあ、ウチは悠のところにいってあげる」

「ああ。それまで、がっちり立派な男になる」

「ふふ、こんな中古品でもよろしいですか?」

「俺は美琴が好きなんだ。だから、もう、誰にも渡さない」

「じゃあウチも……」

 長い睫と切れ長の瞳、キスをするとき邪魔になりそうなくらい整った鼻を交差させ、やわらかい時間を過ごす二人。

 舌先がちょんと彼女の唇に触れると、彼女は「だめ」という感じで首を振った。

 悠にとって初めての体験は、彼女主導の幼い、恋慕によるキス。

 それでも良いと思えるのは、誰も彼らの間を邪魔できないから。


 しばらくお互いの感触を楽しんだあと、美琴はごはんの支度を済ませると部屋を出る。

 悠はキスの余韻に浸ってそのままベッドに横になっていた。

 ベッドカバーが乱れて捲れた場所にはふわふわしたものがあった。

 白いはずのそれはいつのまにか薄汚れており、なにか饐えたような臭いがする。

 子供の頃に大切にしていたタオルのような、そんな感じの臭い。

 例の事件からの数日間、彼女を慰めていたのはコイツなのだと、少し嫉妬する。

「ご苦労様……」

 悠はモフ太を美琴の机の上に置くと、これからのことを見られないように、後ろを向かせる。

 今はただ、美琴が彼を呼ぶのを待つばかり。

 腕によりをかけた夕飯は、果たしてなにものぞ?

 それよりも、その後のデザートはきっと……。


これにて完結です。


ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。


ご意見、ご感想などお待ちしております。

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