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がたくたの山

 L氏は、ある古い屋敷の片付けを依頼された「清掃業者」だった。

 

 この時代の清掃は徹底している。

 住人の死後、価値のある遺産はすべてデータ化され、それ以外の「思い出」という名のガラクタは焼却炉で跡形もなく消し去るのがルールだった。


「やれやれ、今回もひどいゴミの山だ」


 L氏は、依頼主の老人が残した山のような遺品を次々とシュレッダーへ放り込んでいった。

 色褪せた写真、手書きのメモ、宛先不明の古い手紙。

 どれもこれも、現代の効率的な社会では「一円の価値もないゴミ」だった。


 

 作業の終盤、クローゼットの奥から、奇妙な箱が見つかった。

 小さいのにずっしりと重く、厳重に鍵がかけられている。



 「ほう、へそくりか。あるいは、隠しておきたかった『悪行』の証拠か」


 L氏は期待に胸を躍らせ、特殊な工具で鍵を壊した。

 

 かつてパンドラが箱を開けた時、あらゆる災厄が飛び出したという。

 ならば、この強欲な現代社会の老人が隠していた箱からは、一体どんなドロドロとした醜悪なものが出てくるのだろう。


 だが、蓋を開けたL氏は拍子抜けしてしまった。


 中に入っていたのは、立派な宝石でもなければ、スキャンダラスな秘密でもなかった。

 それは、数枚の「手描きの絵」だった。


 幼い子供が描いたような、歪な線で描かれた男の顔。

 『いつもありがとう』と拙い文字で書かれた、色褪せたボロボロのメッセージカード。

 くしゃくしゃになった写真。


 「なんだ、ただのゴミじゃないか」


 L氏はため息をつき、それらをすべてシュレッターへ放り込もうとした。

 だが、その指が、最後の一枚の紙に触れた時、奇妙な感覚に襲われた。


 そこには、老人の筆跡でこう記されていた。


 『私は、人生のすべての時間を効率と利益のために使い、多くの人を蹴落とし、莫大な富を築いた。だが、死を前にして、私の心に最後に残った『熱』は、この箱の中にある無価値なものたちだけだった』


 L氏は、ふと手を止めた。

 シュレッターは、すぐそこでバリバリと音を立てている。

 この紙を投げ込めば、仕事は完了だ。この世から「無駄」は完全に消え去り、完璧にクリーンな世界が戻ってくる。



 しかし。

 L氏は、自分の胸の奥が、ほんの僅かにチリチリと熱くなるのを感じた。

 効率や利益とは無縁の、説明のつかない感情。


 彼は周囲を警戒するように見回すと、その小さな箱を、ゴミ袋ではなく、自分のカバンの奥深くに隠した。


 


 作業を終え、屋敷を出たL氏は、夕暮れの街を歩いた。

 相変わらず街は冷たく、人々は無表情にスマホを眺め、効率的な人生を競い合っている。


 だが、L氏のカバンの中には、世界でたった一つの「無駄」が、確かな重みを持って存在していた。


 彼は家路につきながら、ふと思った。

 

 明日、自分も何か「無駄なもの」を箱の中へ入れてみようか。

 いつか自分が死んだ後、誰かをほんの少しだけ困らせるような、救いようのない、温かいガラクタを。


 灰色の空の向こうに、一番星がひとつだけ、場違いなほど明るく輝いていた。

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