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予知装置

 天才と呼ばれた青年がいた。 その若さにして量子演算・確率場理論を応用し、未来の観測を可能にする装置()()()()を完成させた。




 装置は彼の主観的な未来――彼の意識が到達しうる限りの時間を、正確に映し出す。




 つまり、彼が生きて体験する未来を、事前にすべて知ることができるということだった。




 初めはその能力に酔いしれた。


 


 装置が完成した自分は、未来での宝くじの当選番号や急成長を遂げる企業を過去の自分に見せつけるように眺めており、今後生み出される新技術の仕組みや、これから出会う恋人の好み、気になっていた映画や小説を誰よりも先に楽しむ事が出来る。






 彼の人生は、未来の彼がなぞった通りに進み、比類なき成功者としてその名を馳せた。


 未来を知るのは自分一人だけ、競合のライバルが密かに進めている計画も、これから起こる自然災害も起きる戦争も、その結末も全て知っている。


 


 何が起ころうとも全て知っているが故に心構えも済んでおり、取り乱す事が無かった。






 だが、それは同時に全ての娯楽が味気ない物となる事を意味していた。




 映画や小説のラストを知ったうえで観る行為。 サプライズを知って祝われる誕生日。 自身の結婚式。


 友人の事故による死別さえ、未来の()()()()として薄く受け流されてしまう。




 彼の人生から、驚きと感動が、音を立てて消えていった。






*     *      *






 そんなある日、ふと未来を覗いていて、彼は気付いてしまった。




 ――ある年数以降、未来が映らない。




 画面は真っ黒。 数年後、ある一点から先が完全な闇になっているのだ。




「……これは、死……か?」




 それとも、世界の終わりか。




 装置に問いかけても、応答はない。 その先の彼の意識が存在しない以上、装置は何も観測できなかった。




 彼は震えた。




 これまで、すべてを知ることで人生から恐れを追い出してきたはずだった。 だが今や、何も見えない未来が、最大の恐怖として彼の心に巣食っていた。




 彼はそれでも生き続けた。


 


 恐怖を紛らわそうと赴いた新作の映画も、ベストセラーも、話題のゲームも、すべて未来で一度味わい済みだった。




 どれも退屈だった。 新しい感動はなく、心の動きもない。




 唯一残された未知は、未来の終端。




 その時、何が起きるのか。 それを知る手段は、ただ一つ。




 彼が、自らの意識をそこまで運ぶことだけだった。




 いつか来る、その瞬間。




 彼はただ、目を背けるように微笑んだ。




「……これは、最初で最後のサプライズだ」








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