おさるの上司
むかしむかし、ある森に、たくさんのおさるたちがくらしていました。
毎日バナナを食べて、木の上でお昼寝。とっても平和な毎日です。
そんなある日、ひとりの若いおさるが言いました。
「ねえ、ぼくたち、いつまでもこうして遊んでるだけでいいのかな?
人間みたいに働いたら、もっとえらくなれるかもしれないよ!」
その言葉に、みんなは目を輝かせました。
「わぁ、すごい! ぼくたちもやってみよう!」
——こうして、森の会社が生まれました。
* * *
おさるたちは木の上にオフィスをつくり、ヤシの実を机に、竹筒を電話に見立てて働きはじめました。
役職も決めました。社長ざる、部長ざる、係長ざる、一般ざる。
みんなが偉くなりたくて、ぴょんぴょんと木から木へ飛びまわります。
「進ちょくどうなってる?」
「えっと……まだバナナ、実ってます」
「じゃあ、実る方向でよろしく」
何を言っているのかは、誰にも分かりませんでした。
それでも、なんだか賢くなった気がしたのです。
* * *
つぎに、『効率化委員会』ができました。
「しごとを分担しよう!」
「バナナを洗う係、数える係、見まもる係!」
「見まもる係を見まもる係も必要だ!」
こうして、働くおさるより見ているおさるが増えました。
部長ざるは満足気に言いました。
「うむ、これがそしきってやつだ」
* * *
ある日、社長ざるが宣言しました。
「これからは成果しゅぎだ! 昨日より多くバナナを集めたやつがしょうしんする!」
群れは燃え上がりました。
バナナの為に喧嘩をし、木から落ちるおさるまで出ました。
それでも上司達は言いました。
「競争があるから成長があるのだ!」
そのうち、森の木はほとんどはげ山になりました。
でも社長ざるは胸をはって言いました。
「心配するな、数字は右肩あがりだ!」
* * *
数日後、人間の観光客が森を訪れました。
そこには、バナナの一本も残っていない木の上に、
一枚の葉っぱがペタリと貼られていました。
『定例会ぎ 本日もけいぞく中』
観光客は笑って言いました。
「おさるにしてはよくできてる。……いや、うちの会社と同じか」




