瞬きの間に
PV数ってそのまま僕の作品を読んでくれてる人って認識でいいんですか……???
「――お前ら誰だよ!!」
声を張り上げて喉を震わせて、まさしく渾身の訴え。この状況に対しても、勝手につれてきたファランに対しても、飛びかかってくる機械人間にも、今この瞬間だけは世界の全てに抗議をする勢いでレンは叫んだ。
だが、悲しいかな、その必死の叫びを世界は聞き入れず、状況が止まることはない。
飛びかかってくる機械人間の拳が開かれ平和的な握手を求めてくるようになるわけでもなければ、ファランがレンを闘技場からほっぽりだしてくれるわけでもない。
ただ一つ、レンの願いに少しだけ応えた存在があるといえば――、
「オレはファラン。こいつはヴルムンドだ! よろしくね!」
ファランが、せめて名前を教えてくれたことぐらいだろうか。
「らァッ!』
迫る拳。最早迫る壁とも幻視できるほどに迫力がある。おそらく持ち上げることすら成人男性一人ならば叶わないだろう程ある重量のそれを機械人間――ヴルムンドは文字通り軽々しく手足のように行使する。
軽々しく振るわれたとて、重量が変わるわけではない。このまま棒立ちでいれば、ファランもレンも赤く滲んだ肉塊に早変わりだ。
――だが、そんな未来はやってこない。何故ならば、
「毎度思うけど凄いね! 君の鉄! 馬力がないのが弱点だけど」
「てめえが勝ッてる部分ヲ弱点ッつーのやめろ! 苛ツくんだよ!』
超重量の拳は止まった――否、止められたのだ。ファランの左手に握られた、月の出ていない夜闇のように黒い刀身によって。
腰に目を向ければ右の鞘が空になっている。つまり、拳が迫るあの一瞬で剣を抜き、そしてブルムンドの攻撃を受け止めたということか。
「……なんも、わかんなかった」
何一つ、リアルタイムで観測が叶わなかった。
――世界は広いとわかってはいたが、まさかこれほどとは。
余裕綽々といった様子のファランのピアスが揺れる。汗一つもかかず、焦っている様子にも見えない。まさしく強者の余裕だ。
拳を受け止められたヴルムンドは飛び退き、ファランから距離を取る。見た目は鈍重な機械の塊なのに、その動きは驚くほどスムーズで、更に駆動音など全くと言っていいほど聞こえない。
それがどこかちぐはぐな印象を与えてくる。
「まぁ、敵ウわけ無エよな。わかってる。――その為ノ団体戦ダ』
取った距離はそのまま、ファランから一切目を離さずに、ヴルムンドは腕を挙げた。
何故挙げられたのか。そんな思考をレンが始めるより早く、その腕は振り下ろされる。
「行ケ! あいつがやれりゃあ俺ラの勝チだ!!』
振り下ろすと同時に響く声。なんだかその内容が、まるでレンを狙えと言っているように思えて。
「さあさあさあ! 団員の皆々諸君! ご指名が入ったよ! この僕に! 副隊長であるこの僕に! 続きたまえ!」
そのヴルムンドの行動に続くのは、自分に酔っているような声と共に此方へ向かってくる人影だ。
その人影は一や二では飽き足らない。先程ヴルムンドの後ろに控えていた人々。その全員がこちらに走り始めている。
――その先頭を走るのが先の声の主。
どうやら彼が副団長という地位に立つ人間らしい。
高そうな、黒を基調としてアクセントに白が入ったローブに身を包む、やけに髪艶の良い青年だ。
その手には何も握られておらず、他の人々に比べれば装備が足りていないと言える風貌をしているが――、
「手始めだ! ミドル・ファイア!」
走りながらこちらに向けた掌。何の武器も握られていないその手に、こぶし大ほどの火球が表れた。
「なんだあれ!?」
思っても居なかった光景に、心に留まらずレンは驚きが声に出る。
その火球は前触れも無く射出される。狙いは勿論レンだ。
ブレることなく、狙い違わずレンへと火球が向かってくる。
矢のような速度で飛んでくるそれが、レンには見たこともない物であるが故に対処に回す思考が遅れてしまう。
――だが、驚き固まるレンの数メートル先で火球は真っ二つに斬られ、消失する。
「心配ご無用! 大丈夫だよ! ……そう言えば君、名前は?」
「え? レン、だ」
「よし、レン! 全部オレに任せとけ!」
火球があった所に、代わりに在るのは黒い刀身。それの所持主など先程と変わるわけがない。
まるで豆腐でも切るかのように、いとも簡単にファランが火球を斬ったのだ。
火球を斬り伏せるファランはレンへ頼もしい言葉を投げかけてくれる。
投げかけてくれるが、任せるも何も巻き込んだのはファランであることをレンは忘れていない。
「ちっ、相変わらずデタラメな! この僕の魔法を斬るなど!」
「中々凄い魔法だけど、速度が無いのが弱点だね!」
「人に追えるような速度で放ってないんだがね!」
レンの前に立つファラン。彼に向けて、副団長とやらは人差し指を向ける。
「ハイ・ウォーター!」
指先程に大きさが絞られた水球が生成、先程とは比べ物にならない速度で放たれる。
それも、一二という単位ではなく、軽く十は超えるだろう数の水球を。
石やレンガなど軽々しく貫くだろうその速度は、防ぐという行動そのものが悪手になりかねない。
「早いね、俺の次に」
そして、ファランは防がない。
左手に握られ続ける黒の剣。それを水平に凪ぎ、それに追随する事象は超常の現象だ。
――それ即ち、水が斬られること。
先端が目で追えない程の速度の投擲物を、朝飯前とでもいうようにファランが斬り伏せていく。
十も二十もあった、指先ほどの水球がみるみるうちに斬られ、消失していく。
「彼……レンは付き合ってもらってる立場。傷を負わせるわけにはいかないんだ!」
魔法を斬り伏せ、そう言い放つファラン。
だが魔法だけがファランに迫る攻撃では無い。
彼に迫るのは、先程の水球のように二十を超える人数だ。その手に様々な武器を持った、多様な人々が今にもファランに襲いかかり――、
「……よっし。『一歩目は遥か遠く』」
刹那。本当に、本当に刹那だ。レンは一度だけ。ファランに大人数が迫る光景を十数歩後ろで見ている立ち位置で、一度だけ――瞬きをした。
その、一度の瞬き。その刹那の瞬間に――、
「――重ねて、デタラメだな」
副団長が、冷や汗をかきながらそう小さく呟いた。その首元には剣が添えられている。ファランの、剣が。
だが副団長が冷や汗をかく理由はそれだけではない。むしろそれはおまけと言える。
当たり前だろう。
――だって、彼と共にファランに迫った二十にも及ぶだろう人々は皆、全員、一人残らず、武器を取り上げられて気絶させられていたのだから。
「ヴルムンド! 団体戦は団長が撃破されるか、団員全員が戦闘不能になった方の負けだったよな!」
「ああ』
「――じゃ、オレの勝ちだな!」
肩から出ている標準器がしまわれる。ヴルムンド自体に傷はなく、満身創痍でもない。
けれど、どうやら決着がついたらしい。
何もわからず戦闘が始まり、何もわからずに終了した。
「……なあ」
「ん?」
「取り敢えず、お前ら誰?」
「だから、オレはファランでこいつはヴルムン……」
「いや名前を聞いてるんじゃなくて……」
なんというかこう、存在を聞いているのだ。どんな立ち位置の、何をしている誰なのか。
だが質問の意図をレンが詳しく説明し直す前に、
「――あ! レン!」
中性的な声。見れば闘技場の入り口に立つのは、ここにいるファランやヴルムンドに比べればかなり見慣れた顔の部類であるシュウの姿だった。
「なんだってこんな所に」
「いや……なんか、このファランってやつとヴルムンドってやつの戦いに巻き込まれて」
「……六芒星?」
「は?」
またしても、レンの知らない言葉がシュウの口から紡がれる。
こちらに小走りで近寄ってくるシュウは、レンの言葉を聞きながらレンの傍らに立つファランに目を向けた。
今日一日でわからない単語が出すぎだ。
六芒星? 団体戦? そろそろ頭が困惑に包まれきってしまう。
「六芒星のファランと、ヴルムンド……! 知らない?」
全く全然これっぽっちも、と返答しようとし、しかしレンの口は直後にシュウが伝える内容によって口を閉じ、驚愕することになる。
なにせ、たった今レンが間近で目撃した戦いは――、
「六芒星の一等星と、四等星――この世で一番強い人と、四番目に強い人だよ!」
――この世の頂上の決戦だったのだから。
多分ヴルムンドは一対一でやったほうが良い勝負できます。負けるけど。




