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一縷の望みをこそ貴方に  作者: みけたろー
一章:感謝と慈しみを貴方に。
2/12

世界についてのお勉強

鉄は熱いうちにうて!

やる気はあるうちに使え!

――夢を見た。眦に涙を浮かべて泣き喚く自分を置いて、どこかに行ってしまう父親と母親の背中に手を伸ばす夢。

伸ばした手は両親などには届かず、ただ虚空を撫でるだけで終わってしまう。

置いていかないでほしい。一人にしないで欲しい。

けれどそんな願いは夢の中の幻覚になんて届かず。

そもそもきっと、レンが生まれたときから居なかった両親は既に奴隷として死んでいるのだろう。物心がつくまで両親が無事な保証などこの世の何処にも無いのだから。


「……ん」


目を開けば、そこには数え切れないほどの煌々とした星々。背中に感じる草と土の感触は、自分が自由の身であることを変わらず伝え続けてくれる。

そうして、寝ていた上半身を起こして漸く、レンの意識は確立された。

逃げたのだ。逃げ出してやったのだ。もうあの日々に戻ることは無い。

そんな感慨を胸に、レンの思考はこれからにピントを合わせ始める。


これからどうするべきか。逃げて一人で生きていく以上自分で食料や金を稼がなければならない。

それにレンはあまりにもこの世界についての知識を持っていない。

となればやはりまずは適当な街を目指していき、そこで地盤を整えるべき――、


「こんな所で何してるの?」


それはまるで、仲のいい友達に軽く挨拶をするような気軽さだった。

気さくな声音、明るい雰囲気。

そのどれもが、今の状況に不釣り合いだ。

なにより、姿が見えない。恐らく木の陰にでも隠れているのだろう。


「そっちこそ」


何も知らないことと、警戒しないことは繋がらない。むしろこの広大な世界に何も知らないからこそ全てを疑うべきとも言える。

だからこそ、レンはその気さくな挨拶に小さく短い返答を返したのだ。


「あー、そっか、そりゃそっか」

「……?」


木の陰からずけずけと歩いてくる声の主。

それはまるで、自分に落ち度があることを確認したかのような声音で。


「僕の名前はシュウ。なにも君に危害を加えようとかしてるわけじゃない」


表れたのは、綺麗な銀髪をした、青色の瞳をした少年だった。

丁度、レンと同じくらいの身長だろうか。加えると年も近く見える。


「ならなんで俺に話しかけたんだよ」

「それは……あー、それをしないと始まらないから」


――噛み合っていない。主語を聞いているのに、主語がない返答をされてしまう。

月の光を反射させ、キラキラと光る銀髪は、彼――シュウに裏がないことを示しているようで。

そしてそんな月の光を反射させているシュウは、どうすればレンの警戒を解けるかと腕を組んで「あれを……」「いやーでも……」「うーん」と、独り言をぶつぶつと呟く始末。


「よし、わかった。まずは僕のことを教えよう」


俯く顔を跳ねるように上げて、シュウはレンにそう提案をしてきた。まず自分を知れば、警戒も多少は薄れるだろうと。


「さっきも言ったけど、僕はシュウって言うんだ。――そして、()()を持ってる!」


どうだ驚くだろうとでも言いたげにドヤ顔をしてシュウは胸をはる。

――それは凄いことなんだろうか。人に伝えれば驚き、尊敬されるものなのだろうか。

はたまたそれを聞いたら大抵の人は恐れ慄くのだろうか。


数秒、無言の時間が流れる。木の葉を揺らす風の音がよく聞こえるほど、その数秒間は静かで。


「……しんかくって、なんだ?」


それがレンにできる精一杯の返答だった。

そんな返答をされると思っていなかったのか、信じられないものでも見るような目でシュウはレンを見てきた。

そんな顔をされたところで知らないものは知らないのだからしょうがない。


――そして困ったことに、知らないものには興味が湧いてしまう。

警戒心は未だ残したままに、レンはその神格とやらに興味と好奇心を持ってしまった。 


「ええ……? 神格を知らない……?」


無言で頷く。その後の間を、説明を欲している間だと察してくれたのか、シュウは眉間にシワを寄せて、異物を見るような目はそのままに説明を開始してくれた。


「なんて言うだろうな……魔法とかとは違ってその人にしか使えない、固有の能力っていう」

「待った」

「ん?」


わかりやすく噛み砕いて説明してくれたのだろうが、それでも一つ、レンには引っかかる言葉があった。


「まほうってなんだ」

「君……マジ……??」


人間を見る目じゃなくなった。


1


――曰く、人の体内には魔力が内包されている。

それは生まれつき総量が定まっており、増えるこことは無いという。

その魔力により生み出される超常の現象、それを魔法と呼ぶ。

超常の現象には火や水を創造するものから、自分の身体能力を向上させるものまで様々である。


「そして」


シュウは付け加え、


「『挫けぬ盾(シールド)』」


右手の掌を広げて、小さく呟く。途端、シュウの掌に青色の半透明の何かが生成された。


「これが神格だよ」


――曰く、その人だけの、固有名の能力。

それを神格と呼ぶ。


「神格を持ってる人間はあんまり居ないんだ」


成程。先程ドヤ顔をしながら神格を持っていると告げた行動に、レンは合点がいった。


「僕のことはこのくらい。どう? 信用してもらえた?」


両手を広げて、敵意がないことを示すシュウ。

信用ができるかできないかで言ったら、完全にはできないというのがレンの総合評価だ。

けれど、即座に殺してくることもないだろうと、そんな評価を下すこともできる。

ならば――、


「わかった。ちょっとは信用するよ」

「やった!」


ここまで情報を開示してくれた気概を、丸々全て無碍にするわけにもいかない。

それに当然だが、シュウはレンよりもこの世界に詳しい。色々と聞ける存在がいれば便利だ。


嬉しそうに飛び跳ねるシュウを見ながら、あまり警戒し続けるのも野暮かもしれないとレンは思い始める。


「じゃあ、これからよろしく! レン!」


ひとしきり飛び跳ねて満足したのか、シュウは右手を差し出して、握手を求めてきた。


「……うん、よろしく!」


鬱蒼と生い茂る森林の中、二人の少年ががっちりと、握手を交わした。


2


「それでこれからどーすんの?」


固い握手を交わした後に、レンはシュウにそう尋ねた。

行動を共にする以上、シュウが何を求めるのかは知っておきたい。


「レンはどうしたいの?」


――即答で、質問が返ってきた。

さっきからちょくちょく会話がずれてるのは素なんだろうか。

そんなことを思いながら、レンは改めてこの先やりたいことを明瞭に考え始める。



「俺……は」


――レンは、世界が広いことを知っている。

――レンは、世界がここだけで完結しないことを知っている。

――レンは、自分が世界に憧れていることをわかっている。


だからこそ、考える。

自分は何をしたいのか。何をして、何を為したいのか。


「――やっぱり、冒険したいかな。この世界を、もっと知りたい」


――結局、結論は変わらない。

世界を知るために冒険がしたい。それがレンの願いだった。

それを聞いて、シュウは


「成程……なら、取り敢えず一番近い都市――王都ラースに行ってみる?」


そう、提案をしてきた。

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