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一縷の望みをこそ貴方に  作者: みけたろー
一章:感謝と慈しみを貴方に。
15/16

違和感の正体

定期テストで書く時間こんなになくなるとは思わなかった。

街路を歩く二人に差す陽光は柔らかく、それを遮る雲は無い。今日は絶好の快晴日。

空を見据えて、レンは幸先が良いと笑みを浮かべる。


「取り敢えず支援部? に行ってみようぜ。無駄骨かもしれねえけど」


例のガキ攫いとやらが全くティルア(仮)に繋がらなかった場合、何もかもが再び降り出しとなるが、調べてみるに越したことはない。世界を知ることができる情報などいくらあっても良いのだから。


笑顔で進むレンとは異なり、シュウは手で太陽を遮りながらその足を動かしている。


「でもシュウにも知らねえことあるんだな!」


先導するシュウに、レンはふと思い返したように呟いた。


この町に来たときに衛兵と親しくしていた姿を思い浮かべる。身分もわからない、怪しさ満点のレンを、知り合いだからで通せる程衛兵と仲が親密なのだ。

それはつまり、そうなれるほどこの町に滞在しいるということだ。

そんな長期間滞在しているだろうシュウでも知らない、大事になっていそうな事件があることにレンは驚いていた。


「直近は町を出てたから。最近の依頼ってなると僕もわかんないんだ」


横目を流して、シュウは通行人にティルア(仮)が居ないかどうかを確かめている。

当然見つかるはずもなく、わかりきった結果を味わいながらシュウは言葉を続けた。


「ま、丁度いいかな。依頼ならお金貰えるし」

「――!」


歩く速度が上がった。



■■■



鎧、盾、剣、弓。猫耳、犬耳、トカゲの風貌。多様な武器を持った多様な人種が、扉を開いて中に吸い込まれていく。


建物は戦争でも想定しているのか石造りで、しかし人々には堅牢性より風靡性をより強く伝えてくる。

恐らく目測三階建てであり、一体中で何人が動いているのか想像も付かない。

特別な建物であると、十分すぎるほどに見た目でそう伝えてくる眼の前のこれが――、


「支援部。正式名称はダンジョン探索支援支部だね。長いから皆支援部って呼んでるけど」


シュウはどこか誇らしげに、レンに支援部を紹介した。


「おおおぉ――! でけえ!」


見上げるほどに大きな支援部へ、レンは目を輝かせて突撃する。


――やはり大きいという特徴はそれだけで人の興味をそそらせる何か格別の魅力がある。

そんな事を考えながら中に入れば、まず目に入るのは多くの人が並ぶカウンターだ。

更には隅に置かれる植物など、先のシュウの宿泊兼酒場とは違う所ばかりだ。


「あそこの掲示板から依頼書を取ってくるんだよ」


内装に目を奪われているレンにシュウが声をかける。

シュウが指差した方を向けば、そこにはコルクボードに何枚かの紙が釘打たれている。


近づいてみると、そこには『行方不明子供捜索依頼』という題と共に、居なくなった子供の似顔絵が描かれていた。坊主頭のわんぱくそうな子供や、金髪の物静かそうな少女など、計七人。

――もしかしたら表に出ていないだけでもっといるかもしれないが。


その中にティルアに似た顔は――、


「……無えな」

「無いね」


二人の脳裏に、徒労の二文字が浮かぶ。

とはいえ、乗りかかった船だ。人を探すことに変わりは無いので、この似顔絵の子供たちもついでに探そうとレンは紙に手を置いて滑らせる。


「ん……でも良く考えりゃ無駄でもねえのか」


何度か瞬きをして、弾かれたようにゆっくりと気づきの声をあげる。


そう、別に似顔絵の中にルティアの顔が無かろうがこの依頼にルティアが関わっている可能性はあり得るのだ。

なぜなら、ルティアが攫われた側ではなく攫う側――つまり敵組織の所属である可能性があるのだから。


故にレンは、気骨を失わない。


「これ……どうすりゃいいんだ?」

「取ればいいよ。取った紙をあそこまでもっていくんだ」


依頼を受けると決めたレンが、受けるためにはどうすればいいかと尋ねると、シュウからシンプルな答えが返ってくる。

シュウが指差した先は、五つのカウンター。しかしそのどれもに大人数が並んでいる。


「そしたら、詳細、聞きに行こうか」


行列を見るレンの目は、おぞましいものを見る目そのものだ。

しかしそれに気づかない――わざと気にしていないシュウは容赦なくその列に並びに足を運ぶ。


「ほんとにあれに並ぶのか……?」

「御名答。さ、行くよレン」


――二十分並んだ。



■■■



一人目。坊主頭のわんぱく子供はカルデといった。いつも外を走り回り、服をどろんこにして帰ってくる、ダンジョンに挑む冒険者に憧れる可愛らしい子供だ。

そんなわんぱく男の子の親は、王都の大通りを一本外れた少し人気(ひとけ)の減った道沿いに住んでいた。


「夜遅くまで、いつも遊んでいて……私に、危機感が足りてないせいで……っ! うっ、う、うっ……」


未だ薄れぬ喪失感と罪悪感から涙ぐむカルデの母親の言葉に、夜遅くまで外にいたのだろうカルデを責める色は微塵も無い。むしろ自分の身を焼き殺すほど、強い自戒の念を抱いていることが二人には強く伝わった。


不利益だけを押し付けられている人間の様を目の当たりにして、不平等を強く感じているレンは、しかし今はシュウの後ろにその姿を置いている。


「カルデ君のよく行く場所とか、良く遊ぶ友達とか、わかりますか?」


家の前に立つ二人のうち、前に立つシュウが口火を切って質問をする。

むしろ事前にレンはシュウに、話を聞き出すのは苦手そうだから自分がやると言われているので、レンは口を出す気はない。


真剣に質問を投げかけるシュウに、カルデの母親がまるで感情の波を飲み込むようにつばを飲み込む。


「近くの広場で、良くリーシャという幼馴染の子と遊んでいました。攫われた日も、そこに行くといって……けど、探したんですが……広場には何もなく、リーシャちゃんも行方不明に……っ」


リーシャ。確か、似顔絵一覧にあった金髪ロングの物静かそうな少女だ。


「……わかりました。ありがとうございます。必ず、見つけます」


シュウが丁寧にお辞儀をして、その場を二人はあとにした。


温かい日差しの落ちる広場には、しかし不気味な程に人がいない。

まるで踏み込めばその瞬間に攫われるとでも言うように、そこは静寂に満ちている。

そよ風は人の足を遠ざけ、草葉が人の本能を拒絶する。そんな、どこか嫌な雰囲気の満ち満ちている。


――おそらく攫われた二人の子供が一番よく使っていたという情報が出回りきっているのだろう。


「――」


そんな広場にシュウは躊躇いなく踏み入り、何やら地面に屈んで手をかざす。


「スキャン」


次の瞬間、奇想天外なことには慣れ始めていたと思っていたレンは、無言で目を見開くことになる。


だって、当たり前だろう。


何をしているのかと眉を潜めるレンを他所に呟くシュウの手が、まるでその言葉に呼応するように薄く光り始めたのだから。


「えっ、なにそれ、えっ!?」


思わず疑問が口をついた。

思考と口が直結されて、思ったことがそのまま口に出るほどに、その光景はレンの探究心をくすぐってきた。


そんな目を輝かせるレンとは対象的に、シュウは物静かに、目を瞑る。


やがて手のあたりで薄く輝いているのみだった光が、その形を揺らし始めたかと思えば――次の瞬間、風も起こさずに辺りへ波紋のように広がった。


「……やっぱり無いや」

「ちょ、一人で話を進めるな! 今何したんだ……!?」


空振りの落胆に肩を落とすシュウの両肩に手を置いて、レンは感情に任せてシュウを揺らした。


初めて見る現象に疑問が尽きないというのに、何故目の前の少年は楽しそうに少しニヤけ面をしているのか。


そんな悪戯を楽しむ子供のような雰囲気で、どこか楽しんでいる節をレンはシュウから感じ取った。


それに次いで心に生まれるのは、自分の反応を見て楽しんでいるのではないかという懐疑心だ。


「ねえレン、見て見て」


体を揺らされて呑気な悲鳴をあげていたシュウは、そのいたずらっ子のような笑みを浮かべたまま、レンの目の前に自分の広げていた手のひらをおもむろに見せる。

困惑の尽きないレンの眼の前でそれを握って拳を作り――それに連動するように、波紋を広げた光が霧散した。


「おい説明しろよ! 気になるだろっ!」


半分腹を立てるような態度になるが仕方ない。だって教えてくれないから。ひどいと思う。


「いやー、僕の意見が蔑ろにされたから、()()をチラつかせてやろうと思って」

「ひでえっ! ごめんって!」


そんな小さな子供の癇癪にも重なりそうなレンの態度を見て、シュウはニヤケ面はそのままに、意趣返しに満足したのか漸く口を開いて説明をしてくれた。


「――さっきのは探知魔法だよ。ここで魔法を使われたらそれがわかるんだけど……でも反応はなかったからね。犯人は魔法を使わずに攫ったか――」


ふざけた雰囲気から一転、自分を揺らしていたレンの手を外したシュウは真面目な声音で説明を続ける。


「ここが攫われた場所じゃないか、だね。多分、ここが()()()の可能性の方が高いよ」

「なんで? あの子供……カルデとリーシャはここに来て攫われたんだろ?」


反射的に疑問を投げかけるレンに、シュウは「理想の質問だね」とまるで先生にでもなったかのように返す。

その言葉に続いて握った手の人差し指だけを立てて、


「子供でも、日常魔法は使えるんだ。ちっちゃい火や水とかは出せるんだよ」


かいつまんだような情報をレンに与えてくるシュウの態度は、自分で答えを導けと言っているようで。

それに従って、レンは今の状況を脳内で箇条書きにして挙げていく。


眉を潜めて、顎に手を当てて頭を回す。

手渡された情報の破片を脳内で一つづつ組み上げて――


「そうか! 探知魔法に子供が使うかもしれない魔法が引っかかってないから!」

「せいかーい。じゃ、次の家に聞き込みにいこっか」

「おう!」


答えを導けたレンは、満足気にシュウの後ろに着いていった。

疑問の答えを、餌をもらう雛のように教えてもらうのではなく、手助けがありながらも自分でしっかりと考えて手に入れた。

その、得も言えぬ達成感はレンの心をじんわりと満たして、自然とレンは笑顔になった。



■■■



三人目の行方不明の子供の家は、王都ラースを一望できるような位置にある、見通しのいい立地に建てられていた。


「それで……お子さんのルアドさんはいつ?」


同じくシュウが、ボサボサ髪の少年の似顔絵を持ちながら尋ねる。レンは人から聞き出すべき情報を判断できないと、相変わらず後方待機に徹している。


「一週間ほど前に……」


先の家と同じように涙ぐんでいる母親の鼻と耳は赤く、泣き腫らしたのか目は軽く腫れていた。


「仲の良い、シュアルも、一緒に……」

「――!」


漏れ出る情報は、シュウの目を見開かせる。

――シュアル。行方不明の欄に入っている、少女の一人だ。


「頼みます……以前の方は、音沙汰無くなってしまって……どうか、どうか……っ!」


強く両手を握られるシュウは、無言で力強く頷いた。



■■■



「今日中に回れそうだな」

「……うん。でも多分、これ」

「幼馴染の男女が狙われてる?」

「――うん。僕もそう思う」


既に太陽は沈み始めている。


――馬鹿でもわかると言わんばかりに、今の状況はシンプルだ。幼馴染の男女二人が誘拐されている。これが真実でも偶然でも、一先ず残りの家に聞き込みをしなければ始まらない。

もし幼馴染が狙われていたとしても、此方には誰と誰が幼馴染なのかが皆目検討もつかないからだ。


全員に聞き込みをして、未だ幼馴染が攫われていない奇数の一人――それを、見つけなければならない。


「にしても、支援部の雰囲気、嫌な感じだったよね」


伸びる影と鼻をくすぐる夕食の匂いに包まれながら、ふとシュウが口を開く。


「んー、まあジロジロ見られてる感じはあったな」


レンは他者からの視線を気にしないので機微には疎いが、それでも依頼を受ける際に、確かに()()()()()()雰囲気を少なからず感じていた。

その視線には、小馬鹿にするようなものだったり、憐れむようなものだったり、とにかくマイナス方面の色々な視線が混ざり合っていた。


まあ、今更気にしてもしょうがないことだと思うが。


「なんか気になるのか?」

「気になる……ってより、引っかかるって感じなんだけど、うーん……」


どうにも歯切れが悪い。なにかレンに言えないところで悩んでいるのだろうか。


「――」


そういえば、この依頼を受けているのは自分たちが初めてではないのだと、レンはふと思い出す。

先の、ルアドという子供の母親が、前任の人に一瞬触れていた。


「違和感なんだ。王都を歩き回るような依頼なんて珍しくないのに視線を感じたし……それに、こんな簡単な法則性、依頼を受けた前の人が気づかないわけないのに――」


刹那、夕食のスープに紛れようもない、人の匂い。シュウのものでも、ましてやレンのものでもない。

違和感と命の危機を、二人は同時に感じ取る。


その匂いが背後から流れてくるものであることに気づいた二人は、それをとっかかりにして背後に感じる人の気配の正体を探ろうと振り返り――瞬間、レンの腹部に鈍い衝撃が走った。


「お、一人は骨ありそうにゃあ」


高い声。おそらく女性。しかしそんな呑気なことに頭を回している暇はない。


数メートル吹っ飛び、えずきを無理やりに飲み込んで前を見れば、シュウは自身の腹部に『挫けぬ盾(シールド)』を展開しており、迫る人影の拳を防いでいた。


警戒を途切らせぬままシュウは後ろへ飛び退き、レンの隣へ並び立つ。


――夕日の落ち始める、石畳の人気のない路地裏。二人の前に立つ人物はフードを深く被って顔を見せないが、そのフードには人間ならば不自然な膨らみが二つ。


「――獣人族。……道理で、魔力なんか残らないわけだ」

「獣人族?」

「魔力がない代わりに身体能力が高い種族だよ」


腹部の痛みが弱まり始めるレンが投げる質問に、一触即発の雰囲気の中シュウが小声で答えを返す。


「こそこそ(はにゃ)して、さっそく作戦会議にゃ?」


牙を見せて獰猛に笑うフードを被る獣人にレンは視線をやる。


「てめえが犯人か……!」

「――前任者が音沙汰無くなったのは、つまりそういうわけか……」


力強く質問を投げつけるレンに、小声で思考をまとめるシュウと、二人はどこまでも対照的だ。


しかし小声のシュウの声は獣人には届かず、届いているのはレンの質問だけ。

その質問に対して、


「んーにゃ、攫ったのはアタシじゃねーにゃ」


と、獣人は軽く否定をした。

カチカチと鳴らす牙の音とは対象的に、その否定の声音はどこかのんびりとしている。しかし、その発言は裏を返せば攫った人物の関係者であることを認めていて。


ガキ攫いの関係者が目の前におり、その人物は敵対している。

つまり、情報が欲しくば、


「ぶっ倒せってことだな!」


依頼に手を出して以来、一番わかり易い状況を前にして、レンは元気を取り戻す。

その元気はそのまま闘志に変換され、レンは半身で一人の敵に対して構えて――、


「別に敵は一人じゃねーぞ」


声が耳朶を打つより早く、レンの視界がぐちゃぐちゃに歪む。

逆転した天地を見て吹っ飛ばされたのだと気づき、着地をしてから更に気づく。


自分とシュウの間に、更に一人。獣人と合わせると合計二人が割り込んでいる。


着地をして向き直ったレンの目の前に佇むのは、先の獣人と同じように黒いフードを深く被って顔を隠している。


つまり、今この状況は――、


「分断された……」


狭い路地裏。状況確認をして、レンは短く、息を吐く。

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