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誰もが絶句するような

そして祝祭。そして狂乱。そして食事が終わる。そして、遍羅が祝祭の座に入る。


「……う、わ…………」


祝祭の座に入った瞬間、誰しもが言葉を失った。

いつにも増して最悪の惨状だった。遍羅としてある程度慣れている者でも怯むほどの。


あたりに散らばる肉片はナギサが引き裂かれたもの。細切れなんてものじゃない。

反面、首は切り落とされたまま残されている。だがそれはせめてもの敬意でも何でもない。ただの征服の御印だ。砂の上に転がり、無残に踏み荒らされている。

四肢をもぎ取られた胴は、胸と腰で分断されていた。そこかしこに生々しい肉片。


その惨状から、そこで何があったのか理解してしまった遍羅の誰もが言葉を失った。


祝祭の狂乱の中、欲望に突き動かされた者たちが蛮行を重ねたのだろう。もはや理性ある人間とは思えないほどの凶暴性を少女に向けた。

ただ引き裂いて血肉を啜るだけでなく、人間としての尊厳までもを踏みにじった。様相を書き連ねるにはあまりにも酷な行為を強いた。


「ぅえ……」


目の前に広がる惨状を見、何が起きたのかを悟り、たまらず、誰かがその場で吐いた。

遍羅の仕事を取り仕切る留紺の男でさえ絶句している。


何も見なかったことにしたい。この場から目を逸らしたい。逃げ出したいとさえ思う。

そんな感情を抱いてしまいそうになる惨状を前に、一歩踏み出したのはシノノメだった。


「っつっても。誰かがやらねぇといけないんだ。さっさとやろうぜ」


慣れた者でも怯むような大惨事だが、だからといってこんな場所で立ち尽くしていたら何も始まらないし終わらない。

自分たちは遍羅なのだ。祝祭の後始末をすることが仕事。這いずりながら肉片の残滓を啜ろうとしている瓶覗どもを始末しないといけないし、ナギサだって回収しなければいけない。それを怠ることはできないのだ。


「俺たちにできることなんて、これくらいなんだからさ」


苦々しく、そう呟いた。感情を抑えすぎて感情が失せたような声だった。



***



神域に戻り、自分の住まいへ。そこで限界を迎えた。


「ぅ……ぇ……っ」


殺していた精神が現実に追いつく。気を緩めた瞬間に一気に反動がきた。

胃の中のものを床にぶちまける。咳き込み、何度も吐く。腹筋が痛む。喘鳴が漏れる。


どうして。どうしてあの子はあんな目に。どうしてだ。

罪があるからか。『最も罪深い』から当然だと。汚らしい欲望に晒されても仕方ないというのか。

罪があるから過酷な目に遭わせるというが、あんなことまで受け入れなければいけないのか。


その残虐さに吐き気がする。しかしそれ以上に、自分に反吐が出る。

あの場で撤回できていれば。いや、そもそも突き放すべきではなかった。独りにしないで、とあの言葉に手を取ればよかった。

そうしなかった自分に後悔が押し寄せて押し潰されそうになる。

距離を取ったのは、自罰感情で可哀想な自分に酔っていただけ。彼女のことを考えていたわけではなかった。どの面下げての言葉ですべてを正当化していただけ。どこまでいっても自己中心的な自分はまさに罪人だ。


気にしないで。いつものこと。そう言って笑っていたのは虚勢だと知っていたのに。

本当は震えるほど怖いのだと知っていたのに。

自罰感情で自分を正当化して突き放し、絶望のまま送り出してしまった。しかも今回はあんなにひどい。生命だけでなく尊厳すら踏みにじられて穢された。


「っぁ……!!」


自分のせいでそんな目に遭わせてしまったのだ。すさまじい後悔が喉の奥からせり上がる。感情のままに叫び散らしそうになって、しかし声が出なくなる。お前のせいで。お前のせいで。お前のせいで。お前のせいで。繰り返す言葉で自分を殴りつける。もし自分を自分の手で殺せるなら何回殺していただろう。

下劣な罪人め。あぁ、鯨神が欲深く穢らわしい人間を憎悪する気持ちがよくわかる。罪深い、許されてはならない。

あぁ、ほら、こうやってまた自罰に走る。結局この自罰感情は自分を守るためのもので、可哀想な自分に酔って現実逃避するためのものだというのに。


俺なんか。

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