【第4話】潜入 ― 背信の聖堂
前書き
神を信じる者が、闇に堕ちるとき――。
王都に根を張る宗教団体《聖光の輪》の正体に迫るべく、クリスは騎士リオネルと接触する。だが、互いをまだ信用しきれない中、無防備な潜入が始まろうとしていた。
「このままじゃ、街そのものが飲み込まれるぞ」
リオネルの言葉が、霧のように重く、空気を凍らせた。王都で信仰を集める《聖光の輪》。その内情を探っていた彼は、数日前に消息を絶った同僚騎士の存在を口にした。
「神の名を借りて民を集めているが、裏では“浄化”と称して人を消しているらしい」
「……どこまで掴んでる?」
「証拠はない。だが俺は、仲間の死体を礼拝堂の地下で見た。神官の衣を着せられ、まるで生贄のように……」
クリスは拳を握った。
この世界は、善とされるものが、最も醜く歪む世界なのか。
「潜入は俺がやる」
そう言いかけたとき、リオネルが眉をひそめる。
「お前も十分怪しい。だが、あの夜――お前が化け物を一撃で倒したのを見た。正直、放っておくには惜しい力だ」
「じゃあ利用するつもりか?」
「互いにだろ」
にらみ合いの末、二人は無言で頷き合った。
⸻
その夜、《聖光の輪》の礼拝堂に灯がともる。
クリスは信者を装い、静かに列の最後尾へと加わる。堂内には神秘的な香が漂い、十数名の信者が座して祈りを捧げていた。
「兄弟姉妹よ……今宵、神の啓示が降りる……」
神官が壇上に立ち、ゆったりとした口調で語る。その笑みは不気味なまでに滑らかで、演技じみた威厳をまとっていた。
リオネルは一足先に、神殿内の別室に侵入していた。
その手には、失踪した騎士の紋章入りのペンダント。
『間違いない……ここが奴らの巣だ』
だが次の瞬間――鈍い音。背後で扉が閉まった。
「ようこそ、“外道の騎士”」
振り向けば、仮面をかぶった数名の神官が立ちふさがっていた。
⸻
礼拝堂では、クリスが頭痛に襲われていた。
(……妙だ。人間の気配が、不自然に“整いすぎて”いる)
まるで全員が、同じリズムで呼吸している。
そのとき、壇上の神官が彼を指差した。
「そこの君……」
ぞくりと背中を冷たい刃物がなぞったような感覚。
「君に……“神の選定”を受ける資格があると、我らは視た」
その瞬間、礼拝堂の空気が変わる。信者たちの目が、異様な光を帯びる。理性のない、狂信的な輝き――。
(……やばい、これ、“都市伝説”じゃない。カルトそのものだ)
とっさに立ち上がるクリス。
その瞳が、ゆらりと金に染まった。
あとがき
闇に光を灯すのは、信仰か、それとも力か――。
第5話では、礼拝堂の真実が暴かれます。
裏切り、囁き、そして龍の咆哮。ご期待ください。