七話「望んでいた言葉」
「お、お邪魔します……」
緊張を隠せていないアイラがエリザの家に来たのは、冬休みに入って三日が経った頃だった。
城に行く前に、一度二人で話がしたいから時間が欲しいと言い出したアイラの為、エリザは自宅に招待する事にしたのだ。
「そう緊張しなくても……学友の家に遊びに来ただけでしょう?」
「名門ドーラム公爵家にお招きいただけるなんて……緊張するのは当然です」
挙動不審になりながら、アイラは視線をうろうろさせて玄関ホールを見渡している。使用人たちが毎日綺麗に整えているホールは、恐らくアイラにとっても当然の日常の筈。男爵家と公爵家では格が違うとはいえ、どちらも貴族である事に変わりはない。屋敷を整える使用人がいて、彼らが仕事をするのは当然の事なのだから。
「別に変わった事なんて無いでしょう?お城の玄関ホールをそんなに見ていたら笑われるわ」
「だ、だって……こんなに大きなお屋敷初めてで……!お城みたい」
「まさか。普通の屋敷よ」
城はこんなものではないと笑って、エリザは客人を迎える支度を済ませた応接間にアイラを案内する。ぎこちない動きで付いてくるアイラは、歩きながら屋敷の中をあちこち見ているようだが、これを城でもやってしまったら本当に影で何を言われるかわかったものではない。
今のうちにやめさせるべきなのかもしれないが、今は興味津々で目を輝かせているアイラの可愛らしさを堪能したい。
「さあどうぞ。お掛けになって」
使用人が扉を開き、エリザはするりと応接間に入る。大きなソファーとテーブル。火が入った暖炉のおかげで部屋はほんのりと暖かく、薪の燃える香りが気持ちを落ち着けてくれた。
「凄い……」
「貴方のお家にも応接間くらいあるでしょうに」
「ありますけれど……こんなに広くて綺麗ではありません」
恥ずかしそうにそう言って、アイラは勧められたソファーに腰を降ろす。ドレスの裾を自然な動きで直すのは、教え込まれた通りの所作だろう。不自然さは微塵も感じられなかった。
「それで?私に時間を取らせてどうしたいのかしら?」
「お城に行く前に、私の所作に問題がないか見ていただきたくて」
「問題なら無いでしょう。普段学園で貴方を見ているけれど、貴方の所作やマナーは完璧よ」
何を言っているのと小首を傾げたが、アイラは真面目な顔で俯きながら、ドレスをぎゅっと握る。
「私、自信が無くて」
「自信?」
「ご存知かと思いますが、私は……孤児院で育ちました」
ぽつぽつと話し始めたアイラは、自分がたった二年で淑女としての教育を詰め込んだ事、城にいる人々から見たら、無様なのではないかと不安な事を静かに語る。
「……意味が分からないわ」
「え?」
「自分に自信がない事は分かったわ。でも、だからといってどうして私にそれを話すの?キャリーさんでも良かったじゃない」
もっと寄り添ってやれ!と胸の内で自分を叱責しつつ、エリザはどうして親友に話さないのかと疑問を投げかける。
「キャリーは……その、私の言う事を殆ど否定しません。貴方は充分凄い、殿下の心を射止める事が出来るんだからって」
俯いたままのアイラは、ドレスを握りしめる手をもじもじと動かしながら、キャリーの事を話し始めた。
「キャリーは……まるで少し先の未来を見ているような事を言うんです。この時間にあそこに行けば、殿下に会えるとか」
「へえ……」
「ジョージ様と会える筈だとか、どうしたら仲良くなれるとか、訳の分からない事を言います。嫌がられているのに、ジョージ様に付きまとったり……」
「ああ……その話は聞いたわ。あの子、ジョージに気があるのね」
「すみません、止めてはいるんですけど」
すっと深く息を吸い込むと、アイラは真直ぐにエリザを見つめる。ピンク色の瞳がキラキラと輝いて、まるで星のように見えた。
「私、ジョージ様はエリザ様がお隣にいる時が一番素敵だと思うのです」
「は……?」
「お二人共、綺麗なお顔をされていますでしょう?言葉は悪いですが、気の強そうなお顔をされているのに、お二人で並んでいると途端に雰囲気が柔らかくなると言いますか……」
うっとりとした表情をしながら語るアイラは、どこか既視感がある。
アイラとルイスが並んでいるところを眺めている時のエリザと同じだ。
「キャリーじゃないんです。キャリーは……ジョージ様の隣には立てません」
「何故、そう思うの?」
「分かりません。でも、ジョージ様の隣に並ぶのは、エリザさんじゃなきゃダメだと思うんです」
「答えになっていないわね」
口ではそう言うが、アイラの言いたい事は何となく分かる。推しカプに萌えを感じているオタクの気持ちだ。
何故、アイラがエリザとジョージのカップルに萌えを感じているのかは分からないが、その気持ちは分からなくもない。
「貴方が私とジョージの仲を望んでいる事に関して、今は何も言うつもりは無いわ。それよりも、今回の相談事をキャリーさんにしない事への答えにはなっていない」
眉間に皺を寄せながら、エリザは腕を組んで背凭れに体を預ける。静かに部屋に入ってきた使用人が二人の前に温かい紅茶を置いたが、苛立っているエリザに僅かに怯えているように見えた。
「上手く言えないんですが、時々……キャリーが怖いと思う時があるんです」
そう言うと、アイラは堰を切ったように話し出す。
初めて話をした日、キャリーはまるで、昔からアイラを知っているかのように話してきた。何故孤児院で育ったのか、どうして男爵令嬢になったのか、学園の誰にも話していない事を、スラスラと話して聞かせてきた。それが、とても怖かったと。
「キャリーは私の事を何でも知っているみたいに話します。私の好きなもの、苦手なこと……他にも、上手く言葉に出来ないけれど、怖いというか……不気味、というか」
「大事なお友達に、随分な言い様ね?」
「友達です!大事なお友達ですけれど……でも、怖いと思ってしまう事が、あって」
だから、エリザに助けを求めたのだろう。
もしキャリーに頼めば、きっと大喜びで相談に乗ってくれた筈。城に行っても恥ずかしくない所作が出来ているか確認してくれただろう。だが、それをしなかったのは、アイラなりに何かを考えての事だったのかもしれない。
「怖いから、私に相談したの」
「……何となく、エリザさんなら助けてくれると思ったんです。キャリーは、エリザさんはとても怖い人だから近寄ってはいけないと言うけれど、私の知るエリザさんは、とても優しい人だと思うから」
真直ぐ見つめてくる瞳の力強さに、思わず目を細めた。ゲームシナリオで、この強い意思を感じる目は、どの攻略キャラクターも魅せられていた。これが、愛される為に生み出されたヒロインの持つ魅力なのだろうか。
アイラの視線から逃れるように、エリザはゆっくりとカップを傾け、紅茶を一口含む。ふわりと香る紅茶は香り豊かで、普段エリザが好む茶葉が使われているとすぐに分かった。
「私は優しくなんてないわ。キャリーさんの言う通りの女よ」
「でも、お城に一緒に行ってくださるんですよね?私が、相談したから」
「お城に行くのは私に利益があるからよ。将来ジョージと結婚すれば、私は公爵夫人として城に出入りする。今から顔を売っておかないとね」
ふふんと鼻を鳴らして笑うと、アイラはぱちくりと目を瞬かせる。
「まさか、本当に貴方を心配して一緒に付いて行くとでも思っていたの?そんなわけないじゃない」
ただ、推しカプ二人の仲睦まじい会話を目の前で眺める事が出来るのなら、絶対に逃さず見ておきたい。それが目的だ。
アイラを心配する気持ちは殆ど無い。彼女は城でも通用する程の所作を見に付けているし、ルイスと結ばれるルートに入っているのだから何かあったとしてもルイスが助けてくれる筈。
シナリオ内でも、緊張からティースプーンを落としてしまったアイラが慌てていると、すぐさまルイスも同じようにティースプーンを落とし、「まるで魚だ」と冗談を言うシーンがあった。是非このシーンは目の前で見ておきたい。
「相談はもう良いかしら?」
「う……色々、聞いていただけたら嬉しいのですが……」
「お礼はきっちりしてもらいますからね」
音を立てずにお茶を飲みながら、エリザはにっこりと微笑んだ。少しの間くらい、少しくらい、友人のように穏やかにお茶を楽しんだって良いだろう。
たとえ、ヒロインと悪役令嬢という、本来は敵対する間柄だったとしても。
◆◆◆
城の中は、御伽噺に出てくる世界そのものだった。どこを見ても煌びやかで、当たり前のように使用人がいて、警備をする兵士がいて、その誰もがルイスに向かって頭を下げる。
「よく来たね、皆」
ニコニコと嬉しそうに微笑みながら、ルイスは出されたお茶を一口含む。緊張で動きの固いアイラは、「はい」とやや上ずった声で返事をして以降、殆ど声を出せずにいた。
城の談話室は想像していたよりも狭い。とはいえ、走り回れる程の広さはある部屋なのだが、大広間のような部屋程広くはない。ルイスが言うに、この部屋は私的な客人をもてなす為の部屋らしい。
「ハボット嬢、そんなに緊張しなくて良いよ。ここには僕たちしかいないし、肩の力を抜いて」
穏やかに微笑むルイスの隣で、アイラはぎこちない笑みを浮かべた。緊張するなという方が無理だろうと、エリザは小さな溜息を吐く。ジョージは城に来る事に慣れているようで、エリザの隣で静かにお茶を楽しんでいる。
「殿下、本日は私もお招きいただき、感謝いたします」
「構わないさ。ジョージが君もと言うからね、歓迎するよ」
召し上がれとテーブルに広げられた茶菓子を手で示して、ルイスは小さな焼き菓子を一つ摘まむ。その仕草はとても優雅で、王子らしい気品を感じる。ただ微笑みながらティーカップを傾けるだけでこれだけ絵になる人間がこの世に存在する事に心の中で感動しているが、今この場で取り乱す事は出来ない。
頬の内側を噛みしめて必死で耐えながら、エリザはにっこりと穏やかに微笑んだ。
「あの……殿下、何故私をお誘いくださったのですか?」
「え?君ともっと話してみたかったんだよ。学園で話すと……ほら、目立つだろう?」
困ったように笑ったルイスは、アイラに小さなクッキーを差し出す。
テーブルの下でぎゅっと拳を握りしめながらその様子を凝視するエリザの足を、ジョージがこつんと軽く蹴った。
「お話、ですか」
もじもじしながらクッキーを受け取ったアイラは、チラチラとエリザの方を見る。食べて良いのか分からず困惑しているようで、エリザは小さく頷いて「食べて良い」と促した。
「君はずっと町にいたのだろう?町での暮らしはどうだった?」
「えっと……楽しかった、です」
ルイスはテーブルに肘を突き、柔らかな表情をアイラに向ける。その目はまるで、愛おしい者を見つめる視線のように見えた。
「孤児院では、身の回りの事は皆でします。料理も、洗濯も、掃除も……」
「そうなのか。大変じゃないかい?僕は料理も洗濯も掃除もした事がない」
「大変ですが、それが当たり前ですから。孤児院に使用人はいませんもの」
受け取ったクッキーをぱくりと食べ、アイラは懐かしむような視線をテーブルに向けた。
「僕には想像も出来ない生活だ。他にどんな事をしていたんだい?」
「そうですね……小さい子供もいましたから、子供の世話をしました。歩けない赤ちゃんのお世話もしていたのですよ」
「へえ!乳母はいないのかい?」
「殿下、平民は子供を自分で育てます。乳母はおりません」
クスクスと笑うアイラは、目の前で目をキラキラとさせている王子様が面白くなってきたらしい。
何を話しても興味深そうに反応をするルイスに、アイラは沢山の事を話していた。近所のパン屋で古くなったパンを安く譲ってもらい、それをスープに浸して柔らかくして食べていた事。古くなった服は生地が擦り切れて薄くなったところに当て布をして、何人もの子供が着ていた事。森で果物を探している時に迷子になった経験がある事。
お茶を楽しみながら話すアイラの表情は、時々とても寂しそうに見えた。
「エリザ」
「なんです?」
「目が怖い」
「網膜に焼き付けておりますのでご勘弁を」
瞬きをするのも煩わしい。出来るだけこの光景の全てを目に焼き付けておきたくて、エリザは目を見開いたまま二人の会話を聞いていた。
「私ももっと聞きたいわ。町にはどのようなお店があるのかしら」
自然に会話に参加しながら、エリザは少し離れた使用人に向かってひらりと軽く手を振る。視線はルイスとアイラの方に向けたまま、自然な動きで使用人に見えるようにルイスの方へ手を向ける。ルイスのカップが殆ど空になっていたのだ。
公の場であれば、給仕専門の使用人がいて、指示されずともすぐに新しいお茶が用意される。だが、この場は非公式の場で、私的な客人をもてなす為の部屋。使用人は出入り口の傍に控えていて、テーブルの状況までは見えていない。
「私が好きだったのは花屋です。いつも色とりどりのお花があって、貴族のお客様やお金持ちのお家の使用人の方が買い物に来ていて……」
「お花屋さん!素敵ね。うちにも時々町の花屋が花を持ってきてくれるわ。貴方のお家もそうよね?」
会話に混ざれていないジョージに話を振りながら、そうよね?と小首を傾げた。
「ああ。母上が玄関ホールの花は絶やすなと煩いからな」
「確か、お好きなお花はラナンキュラスだったかしら?」
「……よく覚えているな」
感心したように息を吐いたジョージは、ちらりとアイラの方に視線を移す。
「その花屋はどのような?貴族が利用しているのなら、それなりに名の知れた店かと思うが」
「小さな花屋です。でも、質が良いと評判だったようで……お花を売るだけではなくて、依頼されればお庭の手入れもされていますよ」
「へえ、花屋というのは面白いね。城にも来てもらおうかな?」
「殿下、庭師に恨まれます」
「それもそうだ」
ジョージに諫められクスクスと笑ったルイスは、使用人が新しく淹れ直したお茶に口を付ける。カップを傾ければ温かいお茶が入っているのは彼にとって当たり前の事で、エリザが使用人に指示をしていた事など気にもしていない。
「一度で良いから、平民の暮らしというものを体験してみたいな」
カップをソーサーに戻したルイスがそう言うと、また何か面倒な事を言いだしたぞとジョージが僅かに眉間に皺を寄せた。
「朝一番にパンを作るんだろう?窯に入れたら洗濯をして、干し終わったら家の掃除をして……」
「殿下、それは結婚している女性の一日です。男性なら、薪割りをして外に仕事に行くのですよ」
「仕事か……僕は何なら出来ると思う?」
「ええと……そう、ですね」
王子が一体何をするのだと言いたいだろうに、アイラは言葉を選ぼうと視線をうろつかせて困っている。チラチラとエリザに助けを求めるように視線を向けており、エリザは呆れたように溜息を吐きながら助け舟を出す事にした。
「殿下は絵を描くのがお上手ですから、画家はいかがでしょう?アトリエで素晴らしい作品を仕上げ、貴族の屋敷や城に飾るのです」
「ううん……あれは僕の趣味というか、息抜きだからなあ。仕事にはしたくないな」
その気持ちは分からなくもない。好きな事はあくまで趣味としておいた方が良いという話は、昔からよく聞く話だ。
「ジョージ、君なら僕はどんな仕事をするように見える?」
「殿下はこの国を統べるのが仕事です」
「つまらない答えだこと」
堅物めと軽く睨みながら、エリザは言葉を挟む。ルイスはそれもそうだと笑っているが、少しくらい想像をして遊んでやっても良い筈だ。
「ジョージなら憲兵か?毎日町中に目を光らせて、なんてことはない小さな事で市民を叱るから恐れられている……なんてね」
「ふふ、本当にそうなりそうですわね」
「想像出来てしまいました」
エリザとアイラがそう言って笑うと、ジョージはやや気まずそうに眉間に皺を寄せ、紅茶を飲み切る。今度は使用人が自分で気付いてくれたようで、エリザが合図を出す前に近寄ってくるのが見えた。
「殿下はどのようなお仕事をされたいですか?」
「そうだなあ……牛飼いかな。楽しそうじゃないかい?毎日大きな牛の世話をして、乳しぼりをして、ミルクを業者に売るんだ。生き物の世話をした事がないから、うまく出来るか分からないけれど」
「牛……」
「殿下、牛飼いになってもチーズを好きなだけ食べる事は出来ません」
「おっと、ジョージにはお見通しだったか」
きょとんとしているアイラに、エリザはルイスがチーズ好きである事をこっそりと教えてやった。
「チーズがお好きなら、チーズ店の店主になったら宜しいかと。町にもございますよ、チーズ専門店」
「楽園のようじゃないか。行ってみたいな、チーズ専門店」
目をキラキラとさせるルイスは、その店はどこにあって、どのような店で、どれくらいのチーズがあるのかをアイラに問う。まるで子供のようだとアイラに笑われているが、二人が話している姿を見る限り、ルイスはアイラに心を許しているように見えた。
◆◆◆
話しているうちに緊張が解けたらしいアイラは、楽しそうに、懐かしそうにしながらルイスに町の事を話して聞かせた。
ルイスも嬉しそうにしながらアイラの話を聞き、時々驚いたように目を見開く事もあった。
「とても楽しかったよ。また遊びに来てくれたら嬉しいな」
お茶を終え、談話室にいたエリザたちは、帰りの馬車を待つ為に玄関ホールにいた。本当は既に到着している筈だったのだが、道が混んでいて遅れているようだ。
「……ジョージ、君の婚約者を少し借りるぞ」
「はい、殿下」
「バートレイ嬢、少し良いかな」
「はい」
四人で固まっていたのだが、ルイスはエリザを少し離れた場所に誘う。アイラとジョージの姿は見えるが、声は聞こえない距離まで移動すると、ルイスはじっとエリザを見つめて口を開いた。
「何故、君は僕を追いかける事を辞めたんだい?僕に気に入られようと、付きまとっていたと思うのだけれど」
びくりとエリザの肩が揺れる。ジョージが不審がっていたのだから、追いかけ回されていた側のルイスも不審に思うだろう。
「その……本当に、その節は大変申し訳ございませんでした。本来であれば私は殿下の前に姿を見せる事すら許されないような事をしておりました」
「正直少し鬱陶しかったね。君は婚約者であるジョージが一緒にいても、僕に気に入られようとしていたから」
「はい。愚かな事をいたしました」
この体になる前のエリザがしていた事とはいえ、ルイスからしてみれば今目の前にいる女に付きまとわれていたというのが現実。
私じゃない!と言えたら楽なのだが、「エリザ」がやった事なのだから否定も出来なかった。
「以前の君は苦手だったけれど……今の君は嫌いじゃない。どう?君がまだ王妃の座を望んでいるのなら、君を僕の婚約者にしたいと父に願い出ても良い」
「は……?」
「君は王妃になりたかったんだろう?良いよ、君が望むのなら」
じっと見つめてくる紺碧の瞳に温度は無い。夕方の風がエリザとルイスの間に流れ、頬をひやりと冷やす。
「私が、王妃……」
胸の奥がざわめく。腹の底から込み上げてくる何かが、頭の中を沸騰させるような気がした。
なれる。王妃になれる。この人の妻になれる。
この国で一番偉い女になれる。誰にも跪かなくて良い。私が跪かれる側になれる。
頭の中で、エリザが歓喜の声を上げていた。
今回長いですね、すみません(楽しかった)
いつも評価、ブクマ、いいねありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。