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その日からグレーとは学舎から帰宅した時間に俺の部屋で話すことになった。
初めて話した時は夜中であったがまだ子供の俺にとっては大切な睡眠時間を削られてはたまらないともう夜中には来ないで欲しいと言うとあっさり聞き入れられ、学舎終わりの時間ならと提案すればそれもあっさりと受け入れ承諾した。
さらには子供の俺にとっては皆と遊ぶ時間も大切なのでさすがに毎日とはいかなかったが、それでも大体一週間に一度は会って話しをしていた。
グレーがここにいるのはいろいろな調査のためで、元々は観光目的でアクアに来たと言っていた。面白いことに、無宙ではアクアへの観光がかなりの人気ということだった。
俺たちが未確認飛行物体と呼んでいるもので調査や観光に来るものもいれば、エネルギー体で直に入ってくるものもいて、本当にいろいろだが単に個の好みだからなんでもありだということらしい。
そしてあまりよく理解できずに不貞腐れる俺に、グレーはよりわかりやすい例えで説明してくれた。
俺たちの世界でもどこかに出かける際には歩きや自転車、バスや電車、車や船、飛行機など、好きに移動手段を考えるのとまったく同じなのだとグレーに半ば呆れた様子で説明されてしまったわけだが‥‥
たとえば一人だけどものすごいデカい乗り物で行きたいとか、逆にコンパクトにスケートボードみたいなものに乗っかって行きたいとか、そんな面倒くさいことはまったく考えず、そのままパッといってパッと帰ってきたいとかそういうことで、ただ本人次第なだけなので限りない数の手段があることをまず理解しろということだった。
ちなみにアクア内で発見される未確認飛行物体と認識されているもののほとんどが無宙存在に教えられてアクア内の人間により製造され意図的に飛ばされているものだそうである。
しかも無宙存在たちはそれを見てとても面白がっているらしい。
そして無宙存在たちから大人気のアクア観光ということで、俺はその理由を尋ねてみると、元はアクア自体がパラダイスそのものであり、俺たちでいうバケーション的な感じの癒されに行く場所であったそうであるが、とあるとても頭の良い無宙存在が金の採掘のために来て人間を作って以降はガラッと変わってしまい、それまでのように純粋に観光として訪れるものは激減してしまったということだった。
さらにはその無宙存在に無自覚に支配されている人間たちがとても興味深いので様々な無宙存在の種族がグレーのようにそれぞれ調査や観光目的で訪れているそうだ。
俺のようになぜか見えないはずの彼らが見えてしまう人間は割といて、様々な種族とコミュニケーションをとっているとも言っていた。
当時の俺は自分たちがある無宙存在の種族の一部のものたちにより作られたと言われてもチンプンカンプンで、さらには彼らに支配されているということを知らされてもまったく理解できなかった。
だが成長し、最後にグレーとコミュニケーションをとった高等学園一年時頃に、再度そのことについて尋ねてみるとやはり同じ答えで、その時にはさすがに理解はできたがどうしても納得することはできなかった。
それは俺たちが教育を受けてきた中で教えられた内容とはまるで違っていたからであるが、グレーからはそれこそがお前たち人間が彼らに支配されている証拠なのだと言い切られた。
無宙全体において、個に対する自由への介入はできないため、相手を洗脳することで介入ではなく、自ら望んで自由を奪われている状態に持っていく存在がいるそうだ。まさに俺たちのこの世界がその状態にあり、人間どうしで自由への介入を行うぶんには問題ないので彼らが選んだ一部の人間に国や神の存在を創造させ、できる限りの自由を奪うよう指示を出している。彼らはあくまで自由への介入はしていないことを強調し、自らの手は汚さず支配コントロールを継続できるという理想の世界を楽しんでいるという。
俺はそれを聞いて絶望しかけたが、グレーはそれすらも彼らの思う壺であり、奴隷側の人間が支配者側の人間に逆らって戦いになろうが真実に気づいて諦め絶望し、そのまま死ぬまで今の状態でいようが結局彼らにとっては全くの無問題でただ都合がよいのだと言った。そして絶望から解き放たれるとても単純な方法がいつまでも見いだせないでいる人間にはいつも呆れるばかりだと言いながらも感情豊かな人間が愛おしくもあるのだとその答えを教えてくれた。
誰にも従わない
たったこれだけのことなのだが人間たちが誰一人そうしないことが本当に不思議で仕方がないそうだ。
確かに人間という型を創造したのはその支配とコントロールを望むものたちであるが、型だけでは人間として存在することはできない。意識が入ってこその存在なのである。
その意識がアクアの人間に入ったのは他の無宙存在たちと同様、好きなことをしに自ら望んで選んできているからなのに、彼らの策にまんまと嵌り、教育という名の洗脳で個性を潰され、思考を同じ方向に向けさせられて本来自分がやろうと計画していたことを思い出させないよう檻の中の囚人のような生き方しかできないようになっている。無宙存在たちからそんな俺らを見ると、それがものすごく面白くもありとても不思議に映るらしく、だからこそ研究対象になりやすいのだという。
そして俺がコミュニケーションをとっていたグレーのように研究調査目的で淡々と話すだけで他に何もしないものもいれば、面白がってあることないこと適当な話を吹き込んで揶揄うだけ揶揄って人間がどんな状態になるのかを観察して楽しんで飽きればそのまま放置して消え去るタイプのものもいると言っていた。
俺はグレーでよかったと、今更ながらに思った。
だが俺は実際、高等学園に進学して以降、様々なことに興味を持ち始め、徐々にグレーと会うことが面倒くさくなっていき、最終的には約束した場所へ向かうこともなくなり会わないようになってしまったのだ。
そして現在、グレーが俺の前に姿を見せることもなくなり、俺もグレーを意識することがなくなって気づけば十年以上が経っていたというわけである。
社会に出て、本当に今更のようにグレーから教えてもらったことがいかにその通りであったかということを実感させられている。当時グレーが言った「誰にも従わず、それぞれ自分が好きなように生きればよい」という言葉に対して俺が冗談のつもりで放った「赤信号、みんなで渡れば怖くないってか?」という返しにはっきりとその通りだと告げ、いつしか政治家の言うことも義務も常識もルールもすべて放棄した人間だらけになる日が来るとすれば、アクアは元のパラダイスに戻れるかもしれないと、グレーの懐かしそうなやさしいエネルギーを思い出すのだ。
ここまでお読みいただきありがとうございました。




