便利の罠
「お母さん!ちょっと来て!」
私はキッチンで探し物をしていた。
子供の頃はあのなんとも言えない匂いが苦手で、あのおいしい漬物がなんでこんなに臭いところでできるのかと不思議だった。
そう。ぬか床である。
確かこの辺りに置かれていたはずと、流し台下にあるスペースを探しているのだが見つからない。
「まったく‥‥何の連絡もなしに突然来たかと思ったらぬか床?そんなものはとっくの昔に捨ててしまってもうないわよ」
「‥‥‥‥‥」
ショックのあまり呆然とする私を放置して母は冷蔵庫から何かを取り出しテーブルの上に置いた。
「もしかしてぬか漬けが食べたくてわざわざここに来たの?今は自分でやらなくてもスーパーでもコンビニでも行けばいくらでも売っているじゃない。ほら、これも近所のスーパーで買ってきたぬか漬け。これでも食べてなさい」
違う‥‥そうじゃない。
でも私はそれは口に出さず椅子に座り、そのぬか漬けの裏面を見てみた。
やっぱり‥‥
添加物だらけでもはや発酵漬物ではなく、なんちゃって発酵風漬物だ。
「ねえお母さん、これ見て。スーパーやコンビニで買える漬物は味や見た目を良くするためにほぼ全部添加物が入っているんだよ。口にするものはできるだけ自然のものが良いでしょ?だから今日は自宅で作る本物のぬか漬けを食べたくてぬか床を分けてもらいにきたんだ」
「いまさら?もうあなたを含めて子供たちは皆家を出てお父さんも亡くなり私一人になってぬか床の手入れが面倒になったから捨てたのよ。ぬか床の手入れには結構な労力がいるの。簡単ではないのよ」
母は実は父がまだ生きている頃には捨てていて、スーパーで購入した漬物を二人で食べていたという。当時は自分で何でもやらずとも、手軽にスーパーで何でも買えてしまう便利さに感動し、何も疑問を持たずに購入しては食べていたと話した。
だがある時、自分が漬けていたものとは何か異なっていることに気が付き、なんとなく裏面を見てみたのだという。その時、合成着色料だとか科学調味料とか書いてあって頭に?が浮かんだが、人間が口にするもので店で堂々と売られていてお金を払って購入するものなのだから絶対に体には安全なはずだとそう考えたそうだ。
「そうだよね?当時はまだ科学調味料ってちゃんと書いてあったと思うけど、今はうまみ調味料やただ調味料としか書かれなくなってなんかあまり危ない感じがしない細工がされちゃっているよね?他にもなんとか酸だとか聞いたことのないカタカナの名前とか、とにかく科学的に作られた自然ではない何かには間違いなくて、安全だとか安全なわけがないとかの議論はずっと続いている。私も最近になってようやくスーパーで売られているものにはほとんど添加物が入れられているって知って驚愕したんだ。それにもう完全に自然のものなんて売られていないって言っても過言ではないかもしれない」
母は感覚的には何かがおかしいといつも訴えてくるという。
でもテレビでも新聞でも偉そうな学者だとか専門家だとかが安全だと明言しているのを見て、頭が大丈夫だとその感覚を打ち消してしまい、結局購入したものを食べ続けている。だが改めて私から化学調味料だと言われてモヤモヤが戻ってきたと言った。
「そういえば昔、まだスーパーなんてなかった頃は商店街っていうのがあってお肉屋さん、お魚屋さん、お米屋さん、豆腐屋さん、八百屋さん、パン屋さんって全部個別の専門店で賞味期限なんて言葉もなかったわね。鮮度がおちればおまけってただでもらえたり安く買えたりもして何も問題なく日常が送れていた。でもスーパーマーケットという便利な何でも屋の台頭でそんな日常も様変わりしていった。商店街はシャッターが下りた店だらけになり、町からは次々に専門店が消えていった。消費者である私たちは一見なんの変わりもなかったけれど、便利という魔法の言葉に踊らされ、安さばかりに目が行くようになって一番大事な何かを忘れていったのね、きっと‥‥」
大事な何か‥‥
それは地域の人と人のつながりであり、小さな専門店だからこその安心と信頼、そして裏面など見る必要もない完全無添加食材の提供。
スーパーマーケットは品数も揃っていて安さを競っているので価格も魅力的だ。でもだからこそ少しでも利益をあげるために科学的な方法を用いてできるだけ長く鮮度を保たせ、自然なものよりも格安で同等の味と香りづけが可能な商品が作られるのだ。
私たちは知らず時代の流れのせいにして、便利になっていくことが当たり前でその裏で静かに失われていく大切な物を思い出すこともないまま人生を終えるのかもしれない。
考えてみればまだ他にも生活の中で便利にはなったがその代わりに失うことになったものは多いのではないだろうか?
たとえばクレジットカード。
現金を持ち歩かずに済むという利点はまあ確かにあるかもしれないが、使用するに当たって自分のお金だというのになぜか金融機関の都合で引き出しの制限やら期限やらが設けられている。さらには使用明細が通知されるのだからその買い物内容等の個人情報を握られていることにもなる。
そして振り込まれる給料の額を数字で確認するだけで実際にお金を手にしているわけではないので本当に金融機関に実物があるのかさえ疑問だ。それにいつか金融機関がなんらかの事情で一斉に引き出しをストップさせる状況にならないと言い切れるだろうか?
あとついこの前思ったことだが外食でのオーダーが人ではなく、どこでも客自身によるタッチパネル方式に代わっているのもおかしな感じがした。
本当に皆、それで便利になったと思っているのだろうか?
そう思っている人もいればそう思っていない人もいるかもしれないが、何でもそういった操作が容易にできるのが当たり前だと言う風潮がそもそもおかしいのであって、世の中に当たり前なことなど何一つないのである。人間はいろいろな人がいて、不器用で細かい作業が苦手だとか、手が不自由だとか、目が不自由だとか、字が読めないだとか、人とのコミュニケーションによる協力が必要な人はたくさんいる。なんでもかんでも機械操作にすれば効率的で便利になるというわけではないのだ。
それでもそういった傾向が止むことはないだろう。
私にはできる限り人と人とのコミュニケーションを失くしてわざとそのような流れに持って行こうと動いているものたちの存在を感じられるからだ。
人のストレスが大好物で、その重いエネルギーを糧に生きるものたちからの命令は絶対だと思い込んでいる人間たちがいる。このアクアに作った世界というピラミッド社会において、一番の目的が下からこの重いエネルギーを吸い上げることであり、下のものたちが決して軽いエネルギーを意識しないよう常にストレス状態をキープさせる必要があるためあれこれ画策しているというわけだ。
私たちが平和に幸せに暮らすためにはピラミッド社会の上層にいる狂人たちが人々をあの手この手でエネルギーヴァンパイアにして他人と協力関係を築いたり絶対に軽いエネルギーを意識させないよう常に動いているということにさえ気が付けばよいだけのことなのだがこれが本当に難しいのだ。
実際、途方もない莫大な金を手にし、その強力なカリスマ性に目を付けられ、狂人たちの仲間に引き入れられてしまったが逆らい、そのことを世界の皆に気が付かせ、拡散させようと、自身の世界的人気と知名度を活かし、動き始めていた超有名アーティスト二名は酷い噂や事実無根の話をでっち上げられた挙句の果てにこの世から抹殺されてしまった。
物質社会であるこの三次元世界においては対立してしまえばどうあっても力のあるものたちに様々な形で追いやられてしまうということは理解できるだろう。そのためにお金で成り立つ世界を作り上げ、政治家や警察等の権力組織を確立させ、簡単に人を殺めることができる銃など武器の製造が止むことなく、毒物や生物兵器の研究が日々進められているのだから。
私はもう誰の言葉にも惑わされず、自身の体に一番の信頼を置き、その心と感覚ですべてを判断していく。マナーもルールーも常識も知ったこっちゃない。
それでは秩序が乱れ世の中が混乱する?
それこそがピラミッド社会による最大の洗脳だ。
人々、いや、すべての生き物がそれぞれ元々このアクアの好きな場所で自由に楽しくやっていた頃こそ皆が平和で幸せな生き方ができていたのだ。それは本来、自身が望んだ通りに生まれる場所も環境も、自身の容姿も細部に至るまですべて己の意識が決めてアクアへ来ているのだから、そのままですでにすべてが計画通りで完璧だからである。
だがそれに気づかれてしまうとアクア内の人間すべての支配コントロールを望み、国や企業、王族貴族、家庭といったピラミッド社会ベースのピラミッド世界を執念で創造させ、必死に教育という名の洗脳をさせてきた彼らにとっては非常に不都合となってしまう。気づかれてしまえば生まれたその場所こそが自分にとっての幸福を実現できる場所であることをすぐに理解するので現在の常識など、無理やり本来の価値観を捻じ曲げられた状態から解放され、自然と軽いエネルギーが循環するまるい世界になっていってしまうからだ。
だからこそ、学校教育やメディアを使い意識コントロールで美意識やらお金を得れば得るほど望むものも手にできるという幸福の定義を刷り込んで洗脳し、グローバルという言葉で単一民族撲滅やその文化の消滅を図り、人権や差別等の言葉を巧みに操りながら文化や価値観の違うものたちを混在させ、決してストレスフリーにさせないようあの手この手で必死なのだ。
世の中をどんどん機械化していけば便利になっていく?
熊の住処である森林を伐採し、ソーラーパネルだらけにすればエコ?
移民でグローバル化を図り、単一民族国家の消滅で人種差別がなくなる?
貧乏と言われる国への支援や戦争難民受け入れは人間としての義務?
それが世界の人々の幸せにつながる?
ホントに?
それは世界統一が目的の彼らが仕組んだ策略の一つに過ぎない完全な罠である。
ここまでお読みいただきありがとうございました。




