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「もしかして私が自分の稼ぎを期待するなと言ったことが気に入らなかったのか?そりゃ~私の稼ぎで何でも買えるし何でもできると思い込んでるからだと思うが私の希望なんだから尊重すべきなのではないか?私を尊重する気がないのはお前たちの方だろう?」
私がそう言うと四人ともまたぽか~んとしている。
だがすぐに妻が苦笑しながら「あらホント。パパの言う通りだわね」とつぶやいた。
「私たちはパパが働いてお金を稼ぐのは当然だと思っているのよ。しかも質の悪いことに無自覚でね。だって本来、父親だろうが別にお金を稼がなくたっていいわけよ。稼ぎたいとか稼ぐのが得意な人がやればいい。私だって母親だろうが家事なんてしなくてもよくて同じようにあなたたちだって学校に通って勉強なんてしなくてもいいの。でもそれが普通だと、常識のように周囲もそうやって生活しているから皆同じじゃないと変な感じがするからまるでロボットのような生き方をしてしまっているのよ。だから誰のことも尊重していない、自分のことさえわからなくなって大切にできない状態になっているのではないかしら?」
「それはそうかもしれないが仕方がないだろう?この世はそういう社会なんだから。そういう社会に生まれてしまった以上、そこに合わせて生きるしかないじゃないか!」
これまで黙って聞いていた長男がそう怒りをぶつけてきた。
「仕方がないことなんて何一つない。もしお前が本心から今の社会が自分に合っていて好きだというならそれでいいんだ。だが今、仕方がないと言ったということは本当は嫌なのではないか?できるならもっと違う生き方をしたいと思っているのではないのか?」
「‥‥‥‥‥」
長男は唇を噛みしめ拳を握っていた。
「それなら今からやりたいようにやればいい。残念ながらこの世はお金がないと生活できないように構築されてしまっているからある程度はまだそのことも考えなければいけないが、そっちをメインに考えるのは本末転倒だ。自分が好きなこと、得意なこと、もしくはやってみたいことで稼ぐこと。決して給料が良いからとその仕事を選ぶのではないということだ。そうやって私たちは互いに好きなことをして暮らして行こう!それに当たり前なことなど何一つないのだと理解して生きることができれば自然に感謝の気持ちは芽生えてくるものだ。だから今よりずっと心穏やかで幸せを感じられる日々を送れるようになる」
「それじゃあ私はどうすればいいの?軽い気持ちで海外留学を考えているわけじゃない!本気で学んで翻訳の仕事をしてみたいと思っているの‥‥でも今からそのお金を稼ぐ方法がわからない。できる自信もない。家族に頼らず自分の力だけで生きるなんて私にはとても‥‥‥」
次女は先ほどまでのイラつきは消え、不安げな表情でそう口を開いた。
「馬鹿ね?大丈夫よ、頼ればいいじゃないの!お願いすればいいの、協力してくださいって。私もようやくパパの言いたいことがわかったわ。協力が必要になった時はお願いすればいい。そしてその分自分も何かできることで協力する。そうやって生活していけば誰も不幸にならない。確かに互いに感謝しながら気持ちよく生きられそうね」
長女が次女の肩を抱き寄せながらそう言うと、次女は抱き着いて泣き出した。
「よかった‥‥さっきも言ったが家族とはいえ、私たちは他人同士だ。だから当然それぞれ持っている価値観は違う。物事の捉え方も感じ方も違うだろう。だから私が自分の価値観で提案したことを受け入れてもらえるかどうかは話し合ってみなければわからないことだった。最初はやっぱり難しいかと諦めるしかないとも思ったが、皆が真剣に考えてくれてなんとなくでも理解してくれたことはうれしかった。これからはこの五人でお互いを尊重しながら協力し合って暮らしていこう。皆に感謝する。本当にありがとう!」
私は立ち上がって頭を下げた。
すると皆一斉に立ち上がり同じように頭を下げ、頭を上げた時に顔を見合わせて声を出して笑いあった。
翌日、朝起きるといつものように妻が皆の朝食の準備をしていた。
「おはよう。昨日はだいぶ遅かったのに大丈夫か?無理するな。皆もう一人で自分の朝食くらい用意できるのだからやらなくていいんだぞ?」
私がそう声をかけると妻は楽し気に「なんかね?いつもと同じことをしているのに今日はすごく楽しいの。不思議よね?なんていうか、私って家事が好きだったみたい。でもこれまでは例えば体の調子が良くない時でも休めなかったり、今日はちょっと家事はやりたくないな、なんて思う日があっても母親という義務感で無理していたせいでどこかやらされていると感じてしまって楽しいとは思えなかったのね。でもこれからは協力をお願いして頼んでみればいいっていう安心感?があるからかな?」と言い、でも確かにもしかしたら本当は朝は食べたくないけど私が作っているから仕方なく食べていたとかあるかもしれないから皆に聞いてみなくちゃねとウインクが返ってきた。
妻が私にウインク‥‥‥
なんだかそれだけで今日も一日仕事が頑張れそうだ。
妻が作ってくれた朝食を有難くいただき、玄関で見送ってもらい会社へと向かった。いつもと変わらないはずの朝の景色がなぜかとてもキラキラとして見え、それだけで感動して涙が出そうだった。
そして駅までの道でよく見かけていた家の前を掃除しているおばあさんと初めて目が合い、私は立ち止まって頭を下げながら「毎朝ご苦労様です」と明るく告げると「はい。どうぞお気を付けていってらっしゃい。良い一日を」とやさしい笑顔が返ってきた。
駅では早朝から仕事に励んでくれている駅員さんたちに軽く会釈をしながら挨拶したり、会社に着けば目が合う人たちに自ら率先して笑顔で挨拶をして職場へと向かった。もしも口うるさい上司に無理難題を押し付けられそうになったらきちんと断り、適当な新人さんたちには協力をお願いしながら楽しく仕事をやっていこう。
それでもしどこかに飛ばされたり辞めさせられたとしてもそれはそれで楽しそうだ‥‥
私は思わず口元が緩んでしまった。
今の私はすべてが当たり前だと思っていないのですべてに感謝できる。
そのため何も怖くないし辛いとも感じない。
そうだな‥‥その時はどこかおいしいお米の採れる田舎で農家の方々に教えていただきながら野菜を育てて野良犬さんや野良猫さん、虫さんたちと挨拶を交わしたりして仲良く暮らすなんてのも楽しそうだ。
私は父親なんだからという呪文を唱えられることもなくなり、父親としてという呪縛からも解放され、ようやくヤスユキの人生を取り戻すことができた。
それでも世の中にはまだ多くの呪文と呪縛に病んでしまいそうになっている人たち、病んでしまった人たちがいるのだろう。
どうか一刻でも早く自分を救えるのは自分だけなのだと思い出し、思考を変え、助けが必要ならば待つのではなく自らお願いに動き、自分は大丈夫なのだという本来の自信を取り戻して欲しい。そしてその多くの人々が〇〇なんだから、〇〇として、〇〇しなければならない、〇〇すべきなどという様々な呪文や呪縛から逃れられるようにと祈らずにはいられない。
ここまでお読みいただきありがとうございました。




