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エナジーヴァンパイアワールド  作者: あずきなこ


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⒈ 父親なんだから 父親として~呪文と呪縛~

 「あ~疲れた‥‥‥」


 私は帰宅ラッシュの人であふれる電車から降り、階段に向かって歩きながら思わず漏れ出た呟きである。今朝はもっと人、人、人だらけの満員の電車を乗り継ぎ会社へ向かい、口うるさい上司と適当すぎる下の若いものらに挟まれ、昼飯を詰め込みその日やるべきことをやり終えようやく帰路についたのだ。


 私はかれこれこのような毎日を二十年以上送っている。

 私には結婚して二十年になる妻と長男、長女と次女がいて、五人家族で古い賃貸マンションに住んでいる。


 その自宅マンションの玄関口に到着すると、ちょうどうちの真下に当たる部屋に住んでいる若い家族の奥さんとばったり会ってしまった。


 「あら?今お帰りですか?随分お早いお帰りですね?」


 私は定時に会社を出て、どこにも寄ることなく帰ってくるので大体いつもこの時間である。だが彼女にとっては早い帰りとなるらしく、何度かこのタイミングで会ったが毎回そのように言われてしまう。しかも彼女からは一度我が家へクレームが入っていて、その際は私が謝罪のために彼女の家に出向いている。


 その内容はちょうど真上に当たる上階に住む私たちの生活音(足音)がうるさいということで、できるだけ物音を立てないように室内も静かに歩くと謝罪した。彼女は私たち家族がほぼ全員大人であり、その大人が五人も狭い空間で行ったり来たりすれば仕方がないと失笑し、最後は庭のついた大きな一軒家を建てて引越しされる予定はないのかとの嫌味で締め括った。


 エレベーターを降り、自宅玄関前に着くと今度は中から長女が出てきて「あ、おかえり」と一言告げ、そのままエレベーターの方へと行ってしまった。私は長女が閉めてしまったドアを開け、靴を脱いでキッチンの方へ向かった。


 「ただいま」そう言って鞄を足元に置き、冷蔵庫を開けビールを取り出していると「ちょっと邪魔」と言いながら妻が鞄を足でよけ、テーブルの上に餡の入った大きなガラスボールを乗せて座った。おかえりよりも邪魔と言われることに傷つくことはもうないが、せめて顔を見て話して欲しいと思うのは贅沢なのだろうか?


 そんなことを思いながら鞄とビールを手にリビングのソファーに腰を下ろすと今度は「先に着替えて。というか、ご飯まではまだ時間があるからお風呂を済ませてゆっくりすれば?」と、やはり目が合わないままそう告げられた。


 私は手にしている開けようとしていたビールを見つめ、一つ深いため息をついてから立ち上がり、冷蔵庫にそれを戻して寝室へと向かった。そして着替えを用意しバスルームに入ると洗濯籠に脱いだものを入れ、シャワーヘッドに手を掛けた。


 その後追い炊きの操作を行い少し冷めた湯を温めながら浸かっていると大学から戻ったらしい長男の声が聞こえてきた。


 「おやじ?俺もシャワーに入って出かけるから早くして」


 息子は私の返事も待たずに行ってしまったようだ。

 私はもう少しゆっくり浸かっていたかったが仕方がないのでバスタブから立ち上がり、もう一度シャワーを浴びて着替えてからバスルームを出た。


 入れ違いでバスルームに入っていった息子の後ろ姿を見ながら思わずため息が漏れたがすぐに気を取り直してビールを取りにキッチンへ向かった。そしてリビングのテレビをつけ、ソファーにドカッと腰を下ろすと冷えたビールの栓を開けた。


 「あ~うまい!」


 基本、いつでもビールはうまいのだが、暑くなってきた季節と風呂上りというこのシチュエーションは最高にうまいと感じる瞬間の一つである。


 テレビの画面はニュース番組で、年々気温が上昇しており今年の夏も最高気温を更新するという予測が立てられていた。俺はふと、そんな風に前もって嫌な予想を立てられるから見た人たちの気分が重くなったりそう思い込んで余計に暑く感じることになるのではと思ってしまった。いっそニュース番組なんて無くなってしまえば自然災害も事故も事件も少なくなるのではないだろうか?


 しばらくすると夕食の支度を終えた妻から「できましたよ」と声がかかり、テーブル席へと移動した。すると間もなく自室から出てきた次女もキッチンに入ってきて席についた。


 「ママ、これ中にガーリックは入れてないよね?」


 「もちろん。あなたたちのリクエストがあってからはもう入れていないわよ」


 目の前にあるのは焼き立ての餃子であるがニンニク無し餃子である。

 リクエストをしたという妻の言うあなたたちの中に私は入っていない。


 「俺はニンニク入りの餃子が好きだな~」


 だからなんとなくそう口にしてみたところ、即座に妻からそれならニンニク入り餃子を出してくれる店なんてたくさんあるだろうから友達とでも行ってくればいいと言われてしまった。さらに次女からは「パパも仕事で臭いって思われたくないでしょ?ガーリックって食べた人にはわからないけど周りの人には相当迷惑かけてるからね?」と、とても嫌そうな顔で告げられてしまった。


 まあ確かに私も以前、知人のニンニク臭さにあまり長く会話をしていられないとなんとかさっさと終わらせた経験があった。それでもやっぱり餃子はニンニク入りの方がうまいんだよな~と心の中で思っていると、次女が突然、高校を出たら外国に留学したいと言い出した。


 「え⁉海外留学なんていろいろ大変じゃない!それになんでいきなり海外?まずは国内の大学に進学してそれから考えればいいんじゃないの?」


 妻は驚きながらも兄や姉と同様、国内の大学への進学を勧めた。

 私は次女の急な海外留学希望にももちろん驚いたが、それよりも妻が当たり前に大学進学を考えていてそこからまた海外に出て学ぶという選択肢を当然のように与えたことが信じられなかった。


 「いや、ちょっと待て。そんな簡単に海外留学も大学進学も決められないだろう?費用はどうするんだ?学費だけではなく、生活費だってそのほかにかかる費用のこともあるんだぞ?」


 そう口を開いた私に返ってきた次女の言葉は「()()()()()()()自分の娘の学費を払うのは当たり前でしょ?まさか自分でなんとかしろなんて言わないよね?」であった。


 さらに妻からは「学費を支払うのは()()()()()当然でしょ?あなたは()()()()()のその責務を放棄するつもり?」と問い詰められてしまう。


 私はその瞬間、自身の中で何かが吹き飛んでいった感覚になり、父親というキャラクターの定義についてなぜか今、改めて考えてみたくなった。




ここまでお読みいただきありがとうございました。

続きは来週投稿予定です。

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