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 母と話した後、そのまま仕事の長に辞意を伝えに行った。

 長は驚いて何があったのかと尋ねたが、傍にいた仲間の一人が自分たちは近いうちに中央へ労働のために召集されることになるからと、自身も辞めることになると横から口を出した。


 「いや、そうではなく、単に私は仕事として建築に携わることを止めたいのでそう申し出た。中央への召集も無視するので、今から村のまとめ役のところへ行ってそれも伝えるつもりだ」


 「お前、一体自分がなにを言っているのかわかっているのか⁉すでに町からお偉いさんが来て、皇帝の勅命だと言っていたではないか!それに逆らって命があるとでも?まったくいい加減にしろ!」


 「逆らわずとも中央に行けば命の保証などない。彼らは()()()()()()()()()()とはっきり口にしていた。それは死んでしまって代わりが必要だからということに他ならない。私は絶対に中央へは行かないし、ここで自由に好きなように生きることに決めたんだ」


 「まあ二人とも落ち着きなさい。私も隣町からお偉いさんが来たことは知っている。明日、この村の全体集会があるのでそこで話があるだろうと思っていたが‥‥とにかく今から私もシザスに同行して話し合いをしてこようと思う。そしてシザスの辞意は理解したが、詳しい話を聞きたいので後でまたここに来てもらってもよいだろうか?」


 「はい。もちろんです」


 その日の仕事はすべてキャンセルになり、結局皆で村のまとめ役のところに向かうことになった。だが私たちが到着する前にすでにほかの村人たちもいて、かなり騒がしい状況となっていた。どうやら噂を聞きつけ明日まで待ちきれなくなったものたちが殺到してしまったようである。


 そして私たちもそこに加わったことでかなりの人数となってしまい、まとめ役はこの際だから明日ではなく、今から話し合いをしようと言い、皆に連携を取って他の村人たちに伝え、集まれるものだけでもここに連れてくるよう指示を出した。


 それから間もなくほとんどの村人が集まり、まとめ役は皆に向けてよく通る声で話し始めた。


 「先日隣町からお偉いさんたちがわざわざここを訪れた。その理由は皇帝からの勅命を我々に伝えるためだった。そしてその勅命の内容は中央の労働者としてこの村の若い男は皆、召集されるとのことだった。私は勅命を確かに聞いた旨の了承はしたが、とにかく村人たちと話し合いが必要だと言って帰ってもらった。私としてはこんな小さな田舎の村から男手がなくなってしまったら村の存続にかかわるので勅命などという理不尽極まりない指図を受けるつもりはない。だから今後のことで皆とよく話し合いたいと思っている」


 「勅命って絶対に逆らってはならない皇帝直々の命令だろ?従わなければ俺たち若い男だけではなく、恐らくこの村のもの全員が処刑されてしまう!」


 「だからって俺たちが中央に行ったところで命の保証はあるのか?この村の皆もだ。中央の上層のやつらはとにかく残忍なことで有名じゃないか!奴隷と称して各地から人を攫ってきては使い捨てで働かせているとも聞いている。どちらにしろ俺たちの命の保証などない!」


 このようにしばらくの間、勅命に従うか従わないかの言い合いが続いていたが、私は仕事仲間たちからの視線を受けてついに口を開いた。


 「私は絶対に中央へは行きません!ほかの皆にも行かない選択を勧めます。そして極論にはなりますが、考え方はひとそれぞれですので行きたいと思う人は行くべきだし、行きたくないと思う人は残ればいいだけだとも思います。それと村の全員の考えが同じとならないのは当たり前なので、多数決というろくでもない方式で自分の人生をかけさせるような真似だけは絶対に断固反対いたします」


 昔からこの村では何か問題が起きれば話し合いで解決してきたが、その際意見が分かれると必ず多数決という数が多い方の意見を採用する方式が取られてきた。当時はなんとなくそれしかないだろうと諦めの気持ちで受け入れていたが、今となってはなんと馬鹿らしいと思わざるを得ない。この村の人々は穏やかでのんびりとした気質のものが多く、大変幸運なことに一度も暴力沙汰や村からの追放なども起きたことがない。だからこそ、そのような方式でもうまく機能してきたと言えよう。


 「シザス、今日はいつもとどこかお前の雰囲気が違うように感じるが、悪くないぞ。それとお前の意見にわしは賛同する。今回ははっきり言って命の問題だ。とても多数決などで解決されるべきものではない。本音で言えば全員ここに残ってもらい、今まで通りの暮らしを続けていきたいが、皇帝の勅命ということから判断をしかねるものが多く出てくるに違いない。よって最終的には個人でどうするかを判断し、村に関係なく決断してもらおうと思う」

 

 「ちょと待ってくれ!俺も皇帝の勅命でさえなければ中央なんか行きたくない!どっちにしろ命の保証はないとしても、誰も行かなければ怪しまれてすぐに軍隊を向けられるのではないか?」


 「いや、それはないと思う。私としては中央の上層部の人間がこんな田舎の小さな村のことを知っているとはとても思えない。というより全く興味はないだろう。恐らく伝言ゲームのようなもので各地の有力者たちを勅命で脅し、労働力になりそうなものを勝手に中央へ送ってくるよう仕向けているだけだろうと思う。だから少なくとも私たちが中央に目を付けられるような行動さえ起こさなければ大丈夫だろう」


 「シザス、お前確かに何か変わったな。まるで別人のように自信にあふれているように見える。だからなのか、お前の言うことが正しいように思えてきてしまう。それでもやはり中央に対する恐怖心は消えない。俺たちは一体どうすることが最善なのか‥‥‥」


 その後私たちはしばらく話し合いを続け、最終的にはとりあえず皆村に残り、これまで通りの暮らしをしていくことになった。そして私は最後に話し合いの最中にふと思い出したことを皆に告げることにした。


 「これからは自分の幸せのことだけをイメージして、中央や好まない物事については無関心でいること。関心を向けてしまうとエネルギーは繋がってしまうので、万が一相手がこちらに関心を抱いた時には見つかりやすくなってしまうからだ。まあ何も難しく考えることはない、あまり考えずに感覚を優先して好きに過ごしていればいいだけだ」


 なぜか唖然と私を見ている皆に微笑み踵を返して長の家に戻った。

 そして仕事の長の家に戻れば早速仲間たちに囲まれ質問攻めにあってしまう。私の特異性については昔から皆よく知っているので、アッシュとのコンタクトの話に関しては特に驚かれることはなかったが、アッシュから得た情報については反応は様々で、その内容を受け入れられず、反発して疑うものがほとんどであった。それは予測できたことで、むしろこれが普通の反応であるともいえよう。だが、長がひとり腕を組み「なるほど‥‥‥」と、腑に落ちているような様子は予想外であり、大変驚かされた。


 聞けば彼は私のような特異性があるわけではないが、昔からこの世界に対しては懐疑的であり、納得できる答えを探し続けていたような不思議な感覚があったのだという。一見するととんでもない私の話に、彼はスッと腑に落ちるという言葉そのものの感覚を得たと言い、私と同様にずっと目の前を覆っていた靄が消え、ようやく視界良好になった気分だと喜んでいた。



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