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「フミちゃんはテレビはよく見る方?」
そんなよくわからない質問から入る私にただ素直に答えをくれる彼女。
「う~んよくは見ないけれど、ニュースとか天気予報は見ているかな?」
「じゃあ今年に入ってすぐ起きた空港での事故のニュースは覚えている?」
「え⁉まあもちろん覚えてはいるけどそれほど詳しくは‥‥」
「あれはね、私が出演しているフェイクニュースなんだよ!」
私はフミちゃんの言葉を遮るようにそう叫んだ。
「フェ、フェイク⁉カオちゃん何を言ってるの?私は確かに映像で流れているのをこの目で見ているんだよ?」
「そうね。フミちゃんは間違いなくテレビの画面をその目で見た。でもそれは映像であってフミちゃん自身がその目で見た目の前で起きている現実ではないでしょ?」
その表情だけで彼女が非常に困惑しているということは見てとれた。
私は沸き上がってくる罪悪感を押しとどめながらゆっくり言葉を紡いだ。
「本来、私があの仕事に関与することはなかったはずなんだけど、時期が時期で人員調達がうまくいかず、仕方なく私のところにも話が回ってきて現場に赴くことになったの。最初、詳しいことは何も知らされず、ただいつも通りの出演として指示通りに動いただけだった。でも撮影後にそれが編集されてテレビやネットでニュースとして流されると知って愕然とした‥‥」
私は続けてそういう意図的に作られ、流される映像に専門で出演する契約をしている人たちがいるということを知っていたこと、そしてそういう人たちは世界中に存在していると言うことを説明した。
「‥‥‥そんな人たちがいるなんて信じられない。というか信じたくない。でも私にはカオちゃんが嘘を言ってるようにも思えない。でももしそれが事実だとしてそれなら一体誰がそんなことをさせているの?理由はなに?」
「誰かなんて恐らく関係者でもトップが知らされていればまだましな方で、ほとんど知らされることなんてないんだよ。でもそういうことが難なくできてしまうのだから大体の想像はつくよね?普通の金持ちレベルではない超がいつくもつくような富裕層の誰かだってことは。それに理由なんてあればまだいい方で、ないってことも十分にあり得ると思う。だってそういうことをさせる時点でもう精神とか思考が別で狂っているとわかるでしょ?」
彼女からは静かな、それでいて確かな怒りのエネルギーが感じられた。
それでもなんとかその感情に押し流されないよう理性で言葉を選びながら自身も納得できる答えを見つけ出そうとしているようだった。
「はっきり言って富裕層って王族や貴族、それに連なる権力者たちのことだよね?そんなことあるわけないってすぐに否定できない自分も悲しいけれど、正直、彼らならやりかねないって思っている自分がいて、そういう感覚を認めてしまうのがずっと怖かったんだと思う。私ね、実は子供の頃にテレビで見た王族や貴族、王国議員の存在がものすごく疑問で家族になんであの人たちはえらいと言われているのか、なんで皆が頭を下げなくてはならないのか聞いたりしてよく叱られていたんだ。その当時のことがカオちゃんの話を聞いていて頭の中に蘇ってきてほらやっぱりねっていう感覚になった」
「そう!そうだよね?やっぱり子供の頃って誰しも一度は彼らの存在に疑問を抱いて親に聞いていたんじゃないかって思う。私も思い返せばテレビに映る王族を見てこの人たち誰?って絶対親に聞いた記憶あるし。しかも当時の第一王子を見てものすごい違和感を覚えていたのも今はっきり思い出したわ!」
そうだった。それに今でも同じそのような感覚は残っている。
言葉にするのは難しいが、とにかく関わってはいけないという危険を察知したかような感覚になるのだ。そんなことを彼女に話すと彼女も畏れ多いという意味での近寄れないではなく、生理的な意味での強烈な近寄れないという感覚なのだと思うと言って同意した。
「でもさ、やっぱりこういう話って世の中では陰謀論とか結論づけられて終わってしまうでしょ?だからフミちゃんみたいに頭じゃなくて感覚で捉えて信じることができる人って本当に少ないと思うんだよ‥‥実際私だって自分が演じているからこそのことであって、もしそうじゃなかったら誰かからそんな話を聞いたとしても絶対に信じなかったと思うから‥‥」
私も自分がエキストラの仕事を受けていなければ恐らくそういう話を聞いてもただの陰謀論だと片付けすぐに忘れたはずである。だって今の世は完全にそういう仕組みが出来上がっていて、大昔のようにメディアなんて存在しない情報網の発達以前の話であればまったく必要なかったであろう情報コントロールが必要不可欠となっている時代であるからだ。
「そうかもしれないね?でもちゃんと気づいた今の自分のことをう~んと褒めてあげて喜べばいいんじゃない?」
そう言って微笑む彼女にやはり今日彼女に会えてよかったと心から思った。
「うん!フミちゃんの言う通りだね!自分を褒めて喜ぶことにする!」
そう返し、いつの間にか消えていた罪悪感や緊張感を不思議に思っていると、ちょうど注文した料理が目の前に運ばれてきた。私たちはどちらからともなく高等学園時代の懐かしい話をし始め、おいしい料理を堪能しながらとても盛り上がった。
そしてちゃんとデザートもオーダーし、無料のコーヒーのおかわりも頂いて大満足の中、彼女はほんの少しだけ言いにくそうにしながら声を掛けてきた。
「あのさ、カオちゃんはこの後何か用事とかってある?」
「ぜんぜんない」私は即答した。
するとフミちゃんはなぜかほっとしたような顔になった。
「よかった~!じゃあ、この後うちに来ない?子供が学舎から戻る前には家に帰らないといけないからさ、カオちゃんが一緒に来てくれたら助かる!」
彼女はまだ私とゆっくり話がしたいのにこのままだとそれが叶わないと落ち込みかけたが、自分の家に連れて行けばよいのだと閃きそう提案してきたという。実のところまだ話し足りないと思っていた自分ももちろん喜んでその提案を受け入れ二人一緒に彼女の自宅へと向かうことになった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
続きは11月1日投稿予定です。




