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エナジーヴァンパイアワールド  作者: あずきなこ


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⒈ リアルフェイク

 ズズッとストローから音がして我に返った。

 あっという間に飲み干してしまったグラスの淵に泡が残るクリームソーダ。

 シロップ漬けの赤いさくらんぼもすでに食べ終えている。


 今日はふと思い立っていつも駅との往復で見かける古びた佇まいの喫茶店に足を運んでみた。そして迷わずテーブル上にあった小さなメニューに書かれていたクリームソーダを注文した。クリームソーダを飲むのは一体いつ以来だろうか?そんなことを考えながら窓の外を眺めていた。


 昔、私が子供の頃、裕福ではなかった実家でもたまの週末休みには家族揃って外食に出ていた。そして私が頼むのは毎回決まっていてシーフードドリアとクリームソーダであった。当時は今ほどあちこちどこにでも飲食店があったわけではなく、車を運転する父に助手席に座る母が指示を出し、レストランの場所まで導いていた。


 そんな懐かしい光景までもが思い出され、知らず口元が緩んでいた。


 そして今では現金の取り扱いを拒否した電子マネー決済の店が増え続けている中、真逆の()()()()()()()であると大きく書かれた紙が貼られているレジで「現金での支払いができるお店で安心しました」と告げ、会計を済ませて店を出た。


 そこから家までは徒歩十分ほど。

 私はその十分間を懐かしい高等学園時代の友人たちの顔を思い浮かべながらのんびりと歩いていた。


 そうだ。今夜、彼女たちに電話をしてみよう。

 

 そんな決心をして夜までの時間を最近マイブームとなっているネットの動画を見ながらゴロゴロしていた。そして昔から大好きな怖い話をメインで取り扱っている動画をいつくか続けて視聴していた時、視聴者からの投稿話として取り上げられた話が流れてきた。それを聞いた私はなんともいえない感情が押し寄せてきて我慢できずに視聴を止めた。


 私の出演作がリアルな(現実に起こった)出来事として取り上げられていた。

 もちろん大々的にテレビやネットでも報道され、新聞にも載った()()で、世間では当然実際に起こった事故として多くの人に認知されている。


 だがその事故が起こったとされる場所にいた関係者はすべて()()であり、フェイクであることを最初から理解している。さらにはそれが()()()として映像で流されるということも知っている。だから私が見た動画内で紹介されていたその場にいた人物とはただの演者の一人であり、その者が携帯で撮影したとされる映像ももちろんフェイクで当時の緊迫した状況について語るなどというのはまったくの創作話にすぎない。


 なぜそのような行動に出たのかは謎であるが、下火になってしまった皆の恐怖心を煽りたかったのか、単に本当はフェイクなのにリアルだと信じ込んでいる人たちを馬鹿にしたい気持ちがあったのだろうか?


 とにかく、自分が出演していたのは確かでそんなことを言う資格はないと思うがこんな最低なことを計画し実行させ、テレビやネットの画面や新聞等の紙面に載せて人々の恐怖心を煽るのを楽しんでいる超富裕層の存在には反吐が出る。


 私は嫌な気分を一掃するためいつもより少し早めのバスタイムでゆっくり湯船につかることに決めた。そしてお気に入りの香りに包まれ全身がすっきりさっぱりすると冷えたビールを片手にソファーに腰を沈めた。


 今夜の私のミッションは携帯に登録されている高等学園時代の友人に片っ端から当たってみる!である。それで砕けようがそれ以前に繋がらなかろうが笑って残念一人鍋パーティーでも開催しようかと思っている。


 まずは一番仲の良かった子から!

 と、そう思い携帯を操作するも、そもそも登録されている友人の数自体がとても少ないことに今更ながら思い至った。それでもその少ない何人かのうち、一人でも繋がり話ができればミラクルではないかとポジティブに捉え気合を入れて電話をかけはじめた。


 一人目。留守電に切り替わってしまった。残念。

 二人目。番号を変えたようで繋がらず。残念。

 三人目。呼び出しはしている。よし!出て出てお願い!と念じる。


 「はい。サナダです!」


 お~出てくれた~!私は思わずソファーから立ち上がり、興奮して携帯を持っていない方の手を拳にして空間を叩いていた。


 「フミちゃん⁉私、カオル!久しぶり~!」


 「カオちゃん?うわ~何年ぶり?どうしたの、急に?びっくりしたよ!」


 フミちゃんは結婚して高等学園時代とは苗字が変わっているけれど声はそのまま。懐かしくてつながったこともうれしくて早口で話し始めた。


 「あのね、私来月からおばあちゃんが住んでる田舎に移住する予定なの。それでその前に高等学園時代の友達に会って懐かしい話とかできたらいいなって思って急だけど登録されている番号にかけてみたんだ」


 「え⁉カオちゃん田舎に住むの?でもお仕事とかどうするの?」


 「うん。そういうお話もしたくてね、誰か会ってお話できないかな~って電話したの。だからもしフミちゃんの都合がつけばどこかで会えないかと思っているんだけどどうかな?」


 フミちゃんは小等学舎に通うお子さんがいるのでその時間内か、それ以外なら旦那さんか両親に子供を預けられそうな日なら会えると言ってくれた。誰かに会いたいと急にアクションを起こしたのにも関わらず、実のところ多分皆に断られるだろうと半ば諦めモードでいた私は本当にミラクルが起こったと感激していた。


 そしてフミちゃんと話し合い、来週どこかでランチを一緒に食べようということになった。彼女はママ友さんたちとの付き合いでいろいろなお店を知っていて、私にもぜひ紹介したいおいしいランチの店があるというので彼女の車で連れて行ってもらうことになった。彼女と私は近くの駅で落ち合う約束をした。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

続きは来週投稿予定です。

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