3
腹が満たされた俺たちはその後店を出て、その昔、とても美しかったという現状とてもそうは思えない川べりにやってきた。そして見つけたちょうど段差になっているコンクリートの上に腰を下ろし、店での話の続きをすることにした。
「そういえばあの店の大将は過去一度も王国選挙には行ったことがないって言っておっさんたちに叱られていたな?」
「あ~あれには驚いた!まさか大将みたいな人が、王国選挙に一度も行ったことがないなんてな‥‥それにおっさんたちに叱られて、今回は絶対に行け!って言われても肯定も否定もせず、うま~く流していたのはさすがだった」
あの後、王国議員選挙のことで再度おっさんらが盛り上がっていた時、ずっと聞き役に徹していた大将に話が振られ、その時に彼が口にしたのが投票の経験がないという衝撃的な話だったのだ。そしてなぜか説教を受けていたが、大将は余裕のある表情を崩すことなく笑顔で本当にうまく躱していた。
「ん⁉あれ⁉あ~もしかして今日あの店に行ったのも計画か?無宙存在からなにか情報があったんだな?まさか!あの大将もそういう能力があるのか?」
あの店の大将のおおらかな雰囲気というか、余裕さにどことなく馴染みがあったのを俺は今更ながらに思い出し、すぐ隣に腰を下ろしているサトルを見てふとそう思った。あの感じはこいつと同様、自分軸は決して揺らぐことはなく、同時に他人の意思も尊重できる自分は自分、他人は他人を自然に実行しているものの雰囲気だ。
「まあ、計画ってほどのもんでもないが、なんとなくだ。昨日、例によってジョーモンの頃の話を聞いていたら、ちょうどこの王都周辺の話になって、当時は本当に何もかもが美しかったってうっとりするもんだから、この辺りの海や川の話を聞いたんだ。だって現状、とてもじゃないが見ての通りでうっとりなんてできないだろう?そこからエドーマエ寿司の話が出てきてあの店のことも教えられたんだ。だからちょっと食って見たくなった」
俺も彼から話を聞くまではずっと教育された通りにこの国の始まりとされているジョーモンの頃は人間としては最低レベルの暮らしを想像していた。言葉を選ばずに言ってしまえば、非常に野性的でみすぼらしいイメージしかなかったのだ。だが実はまったくそのようなことはなく、そこから人も技術もどんどん退化していったのだと知った時の驚きといったら‥‥
だからその頃の話を聞きたくなるサトルの気持ちも良く理解できる。
無宙存在もジョーモンとエドー、それ以外の時代の話をするときはとても同じ国の話とは思えないほどテンションが異なるらしい。淡々としか話さないそれ以外に比べ、ジョーモン、エドーの頃の話となると楽しかった思い出話のイメージがよく伝わりルンルンと語り出すのだという。
「そういえば、学舎で歴史のことを学ぶ時にジョーモンの頃の話はさっとやってすぐ終わったけど、そのページに載っていた土器の写真がすごいデザインでインパクトがあったのを覚えている。で、進化したはずの次のヤーヨイの頃の土器の写真を見た時のすごい違和感‥‥あれ、完全に逆じゃね?って思ったのは絶対俺だけじゃないはず!」
「そうだよな?あんなのガキの俺らでも劣化してるじゃんってわかった。でも教育者に言わせれば、子供の感覚なんて知ったこっちゃない!あれは進化してあの土器になったのだ!ってことらしいぞ?無宙存在曰く、現代の最高の技術を以てしてもあのジョーモン式土器は再現できないそうだ。なぜならあれは火を使っておらず、火では再現できない人間のエネルギー遣いによる高熱を利用して焼かれ作られているものだからなのだそうだ」
とにかく、歴史というのはどこの国でも共通していて、侵略して来たものたちの争いで勝者となったものが捏造してわざわざ作り上げたものであるということだ。
はっきり言ってしまえばこの国もジョーモン以降、侵略者による統治が始まり現在に至っている。だからかつての侵略者の血筋である王族や貴族はもちろんのこと、有力者と言われるものたちにとってはジョーモンの頃の話など、できるのならばなかったことにしたいくらいの不都合な情報でしかないのだ。そして彼らは血筋を何よりも重要視する。それは支配コントロールという魅力に憑りつかれ、この世で自身の肉体を離れたのちもそれに執着しているからということに他ならない。
だがあまりにもその血にこだわってきたが故の弱点もあった。
無宙存在が行う物質化とは異なり、無宙存在が創造した人型という物質の中に意識が入る形で存在している人間はやはりその生物学的な面においての遺伝情報が表に強く出てきてしまうという点である。
特に人型を創造した創造主である蜥蜴系人型の遺伝情報は現世において平均的となった他の人型とはわかりやすく異なっているため、それを彼らから教えられた儀式を経てソレを必死に覆い隠している状態なのだ。ずっと繰り返されてきた同種族間の婚姻を避け、別の種族との婚姻がここ数年行われている理由もそこにある。その血を薄め、できるだけ平均的な人型の容姿に近づける目的があるのだ。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
続きは18日に投稿予定です。




