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待ち合わせのカフェには以前何度か訪れたことがあったため、迷うことなく時間の少し前には到着した。天気も良く、以前同様中庭が開放されており、混雑時ではないこともあってテーブル席が二カ所空いていた。
オーダーを済ませ、中庭のテーブル席に移動すると後方から声がかかった。
「あの、もしかしてナナさんではありませんか?」
「はい、そうですが‥‥ってあれっ⁉イズミさんですよね?」
「そうです!イズミです。あ~よかった~‥‥」
彼女はほっとしたような表情で自分も今からオーダーをしてくると踵を返した。
そして戻ってきた彼女も椅子に腰を下ろし、私のことを想像していた通りの穏やかでやさしそうな人でとても安堵していると告げた。
彼女は動画で顔出ししているので、私は彼女の顔をすでに知っていたが、実際に会ってみると少し印象が違って見えた。動画やメールのやり取りでは割とハキハキとしたしっかりもののイメージであったが、今はもっとふんわりとしているように見える。年齢は私の方が少し年上だが、既婚者で子供がいるというのは同じ。あとは彼女の方がブログも動画も始めたのはずっと先で先輩である。
「今日は来てくださって本当にありがとうございます。私はナナさんと同じチャネラーですが、お互い話ができる相手が違うようなので、まずはそのことについて話しをしてみたいと思うのですがどうでしょうか?」
「こちらこそ今日はお会いできてうれしいです。私はイズミさんとお互いの情報交換ができればと思っています。それで、私が話しているのはアッシュという無宙存在ですが、イズミさんはリューの神?ということで合っていますか?」
「はい。ブログや動画にもあるようにリューの神です。もちろん他の霊体がみえたり声をきくこともできるのですが、自らコンタクトを取ったり取ろうとしてくるのはリューの神だけです。ナナさんの相手は他の動画やブログでもよく名前を見かける高次元の無宙人アッシュですよね?」
「私の情報源は無宙存在であるアッシュですが、イズミさんが見かけたというブログや動画の中のアッシュとは恐らく別である可能性が高いと思います」
「え⁉あの、それはどういう意味でしょうか?」
「私が話しているアッシュからそれらは自分ではないと聞いているのです。まあ同じ名の別存在ということになりますが、アッシュの名を騙り、チャネラーの能力を持つものたちと話をしているエネルギー体も多いそうです」
ここで怪訝な表情になった彼女からは疑惑のエネルギーが飛んできた。
私はイズミさんが自身のブログや動画をすべて見た上でコラボを申し出てきたのではなかったことがわかり、この場でどう説明すべきかと考えていた。だが彼女の方が先に口を開いた。
「それってアッシュの偽物がチャネラーを騙しているってことですよね?でもナナさんのアッシュの方が本物だという証拠もないですよね?それでもナナさんはその言い分を信じているってことですか?」
「これをちゃんと納得がいくように説明するとなると、まったく別の他の話もしなくてはならなくて時間がかかってしまいます。ですがこの世界でもオレオレ詐欺や背乗りという実在の人物になりすます工作活動が存在しているように、同じく高次元で在るが故、チャネラーにも視えないという点を利用した名を騙る異次元の存在たちもいるということなんです。それにエネルギーがまるで違いますので、たとえ同じ名前で私と話そうする別存在がいたとしてもアッシュではないとすぐにわかります」
「それでもやはりどちらが本物のアッシュであるかというのは証拠もないのでわかりませんよね?」
「証拠というのは私にとってはナンセンスです。無意味だと思います。ですがこの世界では証拠がなければどんなことがあろうと認められない、証拠さえあればなんであろうと認められるという表向きはそういう仕組みになっているので仕方がないのでしょうね。ただ本物か偽物かという議論もあまり意味を成さないような気もするので正直私はどうでもよいです」
「‥‥‥ではリューの神から伺ったのですが、なぜナナさんはリューの神とコンタクトを取られないのでしょうか?リューの神はナナさんと話をすることを望んでおられるというのに‥‥」
「あの、すみません。やはりこれは最初に話しておかなければならなかったようです。まず、私とイズミさんのチャネラーとして最大の相違点が神の存在の認識についてです。私は神はいないと考えているのですべては個の存在として同等の認識でいます。ですのでリューの神という認識ではなく、長く大きな蛇のような形をしているエネルギー体であり、眷属という認識です。それに私の意思にかかわらず勝手に話しだして予言の話をされたり、聞いてもいないことを語りだしたり、あれこれ指図されたり命令されるのも嫌なのでコンタクトはとりません」
「え⁉神はいない?ナナさんはアッシュから聞いていないのですか?」
「いえ、聞いています。ですのでそう答えました」
「そんなまさか!アッシュは神々とも通じる高次元の存在ですよ。あり得ません!」
「そうですか‥‥ですが高次元というのは高貴や崇高という意味ではなく、エネルギーの軽さの度合いを示すだけのもので、私たちがいる三次元よりもはるかに軽いエネルギーの次元にいるという意味なんです。この物質世界でもわかりやすく、軽ければ浮上し、重ければ沈みますよね?それとまったく同じことで、高次元とはエネルギーがものすごく軽いため上に在るということなんです。そして私たちが視えてしまうエネルギー体は四次元にいて、私たちとほぼ同等のエネルギー領域ということで混在しているのだそうです。ちなみにアクアは五次元に移行済みなので、私も移行するため日々軽いエネルギーを意識して過ごしているところです」
もはや私の話は聞こえていなかったかのようにスルーされてしまい、ここからはしばらく神の存在について彼女から熱い説得が繰り広げられたが、最終的に私がイズミさんの考えや価値観はよくわかり、それを尊重して否定などはしませんとはっきり伝え、同じように私の考えや価値観も尊重していただけるようにお願いをして区切りをつけた。
「ではナナさんはこの国の神話も否定されるのですか?」
「否定というか、現代の小説と同様に大昔に誰かに書かされた話として認識しています」
「‥‥‥神殿やこの国の王家については‥‥‥」
「神はいないと考えていますので、神という存在を意識させて根付かせ、生涯それを人間が揺るがぬ確かな存在として崇めるようにするための手段であり、王家も同様、この国の頂点であり続けるための手段という認識です」
彼女はなんと表現したらよいのかわからないが、先ほどまでのふんわりとした印象は消え、強張ったような怒りを感じさせるようなエネルギーを纏っている。私のブログや動画のコメントに残される批判や罵倒から感じるエネルギーと同じだ。
「イズミさん、もう大体私の意図するところとの違いを認識されたのではないでしょうか?やはりコラボは難しいと思います。ですがイズミさんのブログや動画はたくさんの方が視聴されています。そのことからもわかるように同じ考え、価値観を持った人は多いということだと思うのです。ですからこれからもイズミさんはイズミさんの思うまま自由にやっていかれればよいと思います。私も私の思うまま自由にやっていきます」
「あの‥‥アッシュはナナさんを導くことはしないのですか?」
「導く?アッシュは私にとっては親友のような存在でいろいろな話をしますが、これまで一度として何かを命令されたりこうしなければよくないことが起きると脅かされたこともありません。常に対等でこうした方が良いとかするべきだと意見の押し付けや私をコントロールしようとするような話もまったくありません」
「ではナナさんがそんなアッシュを信じて疑うことがないのはなぜですか?」
「簡単なことです。すべてにおいて腑に落ちるからです。私も以前はこの国のほとんどの方々と同様、神の存在を信じ、神殿にも通い、王家を敬い尊び、スピリチュアルの本やテレビ、動画なども好んでたくさん見ていました。ですがどれも納得がいく部分とそうではなく疑問となって残る部分もとても多く、常にスッキリすることはなかった。でも、アッシュが答えてくれる内容はすべてに納得がいき、常にスッキリすることができたのです。これは長年ずっと疑問に思ってきたことが初めて解消され、本当にようやく暗闇から抜け出せたような、繋がれていた鎖から解放されたような感覚になり感動すら覚えます。だからどんなに人を洗脳しようとしても、その本人が少しでも納得いかない内容が出てしまえば無理ということです。ですからイズミさんも自分が信じ、すべてにおいて納得がいっていることであるならばそれでよいのではないでしょうか?」
この時私が彼女から感じたのは迷いだ。
怒りのエネルギーではなく、困惑?混乱?のエネルギーを纏っていた。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
続きは8月1日に投稿予定です。




