⒈ チャネラーとチャネラー
私は幼い頃からちょっと変わった子、またはおかしな子として見られていた。
それは私には視えているものが、周囲の人たちにはまったく視えていなかったことが主な原因である。特に幼い頃の私は世間で言うところの幽霊や妖怪、妖精や精霊、眷属といわれる物質化していないエネルギー体が日常的に視えてしまい、皆にも視えていると思い込んでいた私はその都度指さし、あれはなんだと尋ねていた。なので視えない皆からは当然おかしな子として認識されてしまうことになったというわけである。
それでも中等学舎に入る辺りから自身と周囲の人たちとの違いをようやく悟り、思春期ということもあってもう周囲の皆に合わせて視えないふりで通していた。
だがやはりどうして?なぜ?という疑問だけはずっと自身の中で燻り続けていた。だからある時ほんの気の迷いとでもいうか、今なら誰かが答えてくれるような気がして独り言をつぶやいたのだ。
『なんで皆には視えないものが私には視えてしまうの?どうしてそういう視えないはずのものたちがこの同じ世界に存在しているの?』
その時の私はとても真剣で、ただその答えがどうしても知りたかった。
だから突然頭の中に入ってきた誰かの声に、驚くよりもうれしさが勝り興奮したのだ。その声はどちらかというと女性的なトーンであったため、私はその声の主を女性として思い浮かべながら名前を尋ねてみた。
彼女は名は持たないが、自身のエネルギーを私がうまく感知できないとして、呼びかけのために彼女が創作したという名を教えてくれた。彼女らはすべての個のエネルギーを感知できるため、通常はテレパシーで会話をしているという。だから名ではなく、その相手のエネルギーに自分のエネルギーを送ることで繋がりいつでも話ができるのだそうだ。言葉で話すというよりも、イメージの交換という方が私たちには理解しやすいのではないかとも言っていた。
アッシュと名乗った彼女とはその後も私から質問をして彼女が答えるという形式でしばらく会話が続けられ、一月ほどはそのことだけに夢中になっていた。彼女は基本、何でも答えてはくれるが彼女にとって意味がないと感じる質問だけに対してはいつも「そのようなことを聞いてどうするのですか?」という同じ返答しか得られなかった。私はそんな時大体ムッとしてしまうのだが、後になって落ち着いた頃、改めて考え直してみれば必ず「そんなことを知ったところでどうなる?」と、最終的には彼女の言う通りだと納得せざるを得ない結果となるのだ。
どちらかといえばそれまでも割とお気楽主義の私であったが、彼女と話せるようになってからはさらに磨きがかかり、まっいっか?と、大丈夫!大丈夫!が私の口癖になり、ほぼ何があっても気にしない過去の出来事はすぐに忘れる生活を送っている。
そして大人といわれる年齢になり、子供の頃からよく見ていたテレビドラマの影響なのか、OLというものに憧れ、とある世界的にも有名な大企業のOLとなった。
最初はお茶入れ一つとっても楽しく感じ、毎日が充実していた。
日が経つにつれ、任される仕事の内容も重要度が増していった。
日々仕事のやりがいというものを感じ、花より団子ならぬ花よりも団子よりも仕事になった。
数年後には運よく憧れの他部署からの引き抜きで異動となった。
三年ほどは特別プロジェクトチームの一員として活躍し、給料もボーナスも同期の中ではトップクラスの額を手にしていた。
だがそんな幸せだと思っていた日々に突然終止符が打たれることになった。
信頼していた上司が異動になり、新しい上司が赴任してきたのである。
予感というのは悪いものほど本当によく当たってしまうものである。
最初にその上司の顔を見て目があった瞬間、なんともいえない嫌なエネルギーを感じとってしまった。その上司は初対面ではなかったのだ。以前、私がいた部署で一年ほど部長をしていた人で、いつも微笑んでいるのに目だけは笑っていない私にとっては接するのに余計なエネルギーを消費させられてしまう、いわゆる苦手な上司であった。
だがそんな上司でも上のものへ媚びることに関しては一流で、特に権力のありそうな上層部の人間からは気に入られ、信頼を勝ち取っていたようである。それまでも順調な出世コースを歩んできているらしい。だがまさか自分の異動先の部署の部長に収まるなどとは想像すらしていなかった。だから本当に驚いた。
だが普段の私ならば気のせいで通し、大丈夫だと得意の乗り切り方で過ごせた。
それなのに、なぜかあの嫌なエネルギーをいつも近くに感じ、嫌な予感がずっと胸にあった。そしてそれからわずか数か月、その上司からの呼び出しを受け、部屋に入ると辞令の知らせが待ち構えていた。
企業、いやこのような大企業ではよくある話である。
社員などはただの駒。いくらでも代わりはいる。
鶴の一声で本人の意思など完全スルーでどこへでも異動させられるものだ。
だが異動先を知らされた私は言葉がでなかった。
元いた部署への異動だったからだ。
上司曰く、君はあの部署に必要な人間だからね、だそうである。
そんなわけはない。
言い方は悪いが今の部署には栄転のようなものであったが、元の部署に戻されるのは左遷ということになる。もし他の部署であったならばまだ左遷扱いだとしても受け入れることはできた。我慢できたのだ。
辞令のことを知った誰もが私を気の毒がったがそれさえも気に障った。
仕事の面での評価の結果ならば諦めて素直に受け入れられたが、そうではないのがあきらかであったからだ。単に上司にとって合わない私が邪魔なだけだった。それに合わないを通り越して嫌いとも言えるのかもしれない。わざわざ周囲から出戻りと認識されるような辞令を出したのだから。
私はこの時ほどチャネラーとしての能力を持って生まれたことに感謝したことはない。アッシュから伝えられていた情報のおかげで一時的な怒りですぐに次へ意識を向けることができたからだ。
私は残っていた有給休暇をすべて使いきったあとに辞めた。
もう二度と企業への就職はご免である。
失業保険ももらい、気楽なバイト生活に戻ったが、家族は皆心配していた。
それはそうだろう、我慢さえできれば皆が就職を望む安定の大企業様である。
辞めてしまったことにそれは愚策だったと誰もが口にするのだ。
だが私はそんな周りの声はニッコリ笑って聞き流した。
必然働く仲間は年下ばかりという環境のバイト生活でも毎日楽しんでいた私は皆から姉さんと呼ばれ懐かれていた。そして自然とそのうちの一人と仲良くなり、さらに深く仲良くなって、気づけば結婚していた。
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続きは22日に投稿予定です。




