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エナジーヴァンパイアワールド  作者: あずきなこ


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 結局、セバスチャンの懇願と説得により、入院中の両親から娘をよろしくお願いしますと頭を下げられ私の面倒を見ることになった彼らであるが、兄を預かっていた兄のクラスメイトの親が元々はうちで二人を預かると言っていたのだから遠慮なく任せて欲しいと申し出られたり、事の顛末を知り、激怒した母方の祖父母が絶対に自分たちが面倒を見ると言って引かなかったりと、ひと悶着あったそうだ。


 私はそんなことがあって以来、外食自体に尻込みするようになり、家族も無理に連れ出すこともなかった。そして兄の誕生日が来て、兄は家族皆でラーメンを食べに行きたいと願った。私もラーメンは大好きだがあの日以来、どうしても外で箸を使うことを躊躇ってしまい、たとえ兄の願いでも一緒にいくことはできそうにないと落ち込んでいた。


 だが兄は最高においしいラーメン屋さんで、店主も感じがよく、フォークも置いてあり、店自体小さく人も少ないから絶対に大丈夫だと私の背中を押した。私は少し考えて、せっかくの兄の誕生日の願いを叶えられないのは嫌だと思った。だから勇気を出して行くことに決めたのだ。


 そして兄の誕生日当日。

 家族四人で街中にあるラーメン屋さんに向かった。

 兄は以前クラスメイトの家に預けられていた際、この店に連れてこられたそうで、その一度だけだったが本当においしくて感動したと話していた。


 店に入ると元気なおじいさんの声で「いらっしゃい!」と声がかかった。


 ちょうど四人が座れるテーブル席が空いていたのでそこに腰を下ろすとすぐにおじいさんが来てオーダーをとってくれた。兄が「前回醤油ラーメンを食べたので今回は味噌ラーメンが食べたい!」と言い、両親はそれぞれ醤油ラーメンと味噌ラーメンをオーダーした。私は緊張もあり、もじもじとどっちにしようかと迷っていたが、おじいさんが「大丈夫ですから焦らずゆっくり決めてくださいね」と、ニコニコ顔でプレッシャーから解放してくれたのだ。


 私はそのおじいさんのたった一言でこのお店なら家の中同様、安心して食べられると確信した。だからほっとして笑顔になり、「味噌ラーメンをお願いします!」としっかりオーダーすることができた。


 そしてしばらくするとテーブルの上に四つのラーメンが置かれるとともに、「どうぞごゆっくり」という温かい言葉もかけられた。私はそれでも一瞬嫌な記憶が蘇ってきて、一度手に取った箸を置いてしまった。それを見ていた兄がすぐに席を立ち、厨房の中にいる人にフォークを願いしますと声を張り上げた。


 私は恥ずかしさと申し訳なさで顔を上げられずにいたが、おばあさんが来て下を向いている私と目を合わせるためにわざわざしゃがんでくれたのである。


 「お嬢さん、はじめまして、こんにちは。このお店にラーメンを食べに来てくれて本当にありがとう。私たちはとってもうれしいからお嬢さんにも喜んで食べてもらいたい。だからお嬢さんはフォークでも箸でも食べやすい方で食べてくれたらいいの。食べ方なんて自由でいいの。な~んにも気にせずうちのラーメンを好きなように召し上がれ!」


 おばあさんはやはりニコニコ顔でそう告げ、目の前にかわいらしい絵の入ったフォークと箸の両方を置いていってくれた。私が顔を上げると両親と兄のいつも通りのやさしい顔が私を見て頷いた。


 私はそっと箸の方を手にして先ほどからとってもよい匂いがしているおいしそうなラーメンを食べ始めた。本当においしくて大満足なのに、涙が出てきて自分で驚いていた。


 初めてうれし涙というものを経験したのだ。


 その時からそのラーメン屋さんは私の特別になった。

 いや、私の家族にとって特別なお店になったのだ。


 それから何度も家族でその店に通うようになり、完全に常連となった。

 そしておじいさんとおばあさんが引退後、手伝いをしていた息子さんご夫婦が後を継ぎ、相変わらずのおいしさで王都の皆に愛され続けている。


 息子さんご夫婦に交代された後、私は自分の箸問題ともぐもぐ問題について二人に話したことがあった。彼らは苦笑しながら「世間ではなぜか他人にあれこれ強要する人で溢れている。その箸の持ち方なんてまさにそれで、俺たちの息子も最近のネットのコメント欄は自分が正しい警察(他人を強制したがり)だらけになっているって笑ってた。そんなに他人を批判するくらい気になって仕方がないなら一人で何でもすればいいのに」と呆れていた。


 私も本当にそう思う。

 だが世間ではその正しいという定義に強い執着心を持ち、それに合っていない人たちを許せず批判し、そうあるべきと強制したがる人がほとんどだ。


 だから私の家の皆や、ラーメン屋のおじさんたちのように、自分は自分。他人は他人。という感覚を持てる人の方が断然少ないのだと思う。それは奇跡のようだと思ったが、母方の祖母はすべては自分が呼び込むか引き寄せられるかのどちらかで、周りをよく見た時に自分の現在(いま)いる世界(パラレル)認識できる(確認できる)と言った。


 例えば自分が毎日毎日怒りやストレスでイライラしていれば、周囲もそういう人だらけになっているということだ。逆に自分が毎日楽しくルンルンしていれば周囲もそういう人だらけになっている。


 それに気が付いてそこから抜け出したくなったら思考を変えるというとても簡単な方法で可能となるのだが、実はそれがなかなかできない社会システムを構築されているため、中途半端な場所でうろうろすることになる人で渋滞中なのだそうだ。家族のために!やら、お金がないと生活できない!などと、結局抜け出せない思考になるような社会の中で生まれ、長年教育されてきた弊害ともいえよう。


 更にこの世は大きく分けて二つの流れ()となり、一つは支配欲でできるだけ上を目指す望みを持ち、それで人と関わっていこうとするものの流れで、もう一つは支配欲は持たず、互いの尊重を望み、融合で人と関わっていこうとするものの流れなのだそうだ。


 私には難しくていまだその本質を理解できていないが、祖母はこれまでずっと私たちが暮らすこの世界のバランスをとってきたアクアも最近ついにその融合の方の流れに意識を移したと言っていた。なのでこれまでは近いところで混在し、ほぼ平行して流れていた二つの流れはどんどん溝を広げ、その流れがはっきりしてきてもう混在することのない上下に分かれていくのだそうだ。


 支配欲というのは恐らく大抵の人が()()()()()というだろう。だが実際は例の箸の持ち方や食べ方の件で心当たりのある人がほとんどではないかと思うのだ。


 普段の外食中、または友人同士の会食で、そこにいる誰かの箸の持ち方や食べ方が気になって仕方がない人は無意識ではあるがその人に対し、箸は正しく持て!や、もっときれいな食べ方をして!と、コントロール(支配)したい感情(エネルギー)を放出している。ネット上にアップされている動画やテレビで映る人たちに対しても同様だ。


 とにかく本当に些細な事でも他人の言動や考えに文句をつけたり気に食わないと感じている人だらけである。それが無意識の支配欲であるのだが、もしもそれが嫌だと感じるのならば、単に他人(ひと)他人(ひと)とすべてを肯定して尊重するだけで解決するのだ。


 どちらの流れが正しいとか正しくないではなく、また善悪でもない。

 だから自分が好きな方(合うと感じる方)の流れに乗り、その道で限りある人生を楽しめばよい。


 私は融合の流れに乗り、同じ価値観を持つ人々と巡り会い平穏に生きてゆく。

 


 

ここまでお読みいただきありがとうございました。

続きは執筆中です。

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