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エナジーヴァンパイアワールド  作者: あずきなこ


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 そして月曜の朝、いつものように身支度を整えバスに乗って学園に向かった。

 

 学園に到着し、上階に上がるためエレベーターホールで待っていると後ろから肩を叩かれ振り返った。するとクラスメイトであり、グループ仲間の一人であるゾーイが「おはよう!」と言って微笑んだ。


 「あ、おはよう‥‥」


 通常であるならば、仲の良い友人から笑顔で挨拶をされれば気分は上昇し、同じように笑顔を見せるだろう。だが今朝の私はどちらかと言えば下降気味な気分の取り繕った笑顔でそう返すしかなかった。それでも勇気を振り絞って続けて彼女に告げた。


 「あのさ、今日の昼休みか授業終わりでもいいから少し皆に話したいことがあるんだ。できれば四人で話したいと思っているんだけどいいかな?」


 「え?あ~うん。もちろんいいけど‥‥‥」


 怪訝そうな顔をしていたものの、なんとか了承を得ることができた。


 そして午前の授業がすべて終了した昼休み、私たちはいつものように学園内のカフェに向かった。それぞれのオーダーも済ませ、日差しの入る明るく温かい場所を確保し四人で座った。


 「それじゃあノアが私たちに話があるみたいだから聞きましょうか?」


 今朝話をしたゾーイが皆に向けてそう言い、私に視線を投げ話すよう促した。

 心臓がドキドキとうるさいくらいに音を立て、緊張で汗ばんだ手のひらをぎゅっと握りながら私は口を開いた。


 「あのね、私、今までみんなに嘘をついていたというか、仲間として認められるために本音をずっと隠してきたんだ。例えば皆に噂され、無視されていつも一人でいるディランくんのことも、実際私はやさしい人なんじゃないかと思っていて、本当は挨拶したり話しかけてもみたい。それにみんなが好きで応援しているオズワルド選手のことも実は私はとても苦手で‥‥。だから今までずっと大会の観戦に行くのを断ってきたの。でもほかに推しがいるのは本当で、私はそういう話もみんなとしてみたかったんだけど、いつもそんな雰囲気にはならなくてできなかった」


 沈黙‥‥息の詰まるようなこの重苦しい空間。

 私の話を聞いていた皆の表情からは何も読み取ることはできなかったが、どう足掻いたところで和やかさの一つも望めそうにはなかった。そして長いようで短いその静寂を破るようにゾーイが一つ深いため息を落として言った。


 「それでノアは一体どうしたいの?」と、‥‥


 私はどうしたいのだろう‥‥‥

 ゾーイからそう問われ、改めて自分自身でも戸惑いを覚えた。

 これまで自分の意思を押し殺し、皆に合わせてきたことで限界が訪れた。

 だからそのことを理解してもらいたいと、そう思った。でもその先のことは頭にはなかったのだ。


 「要はノアはもう私たちとは一緒にいたくないということでしょ?話も合わないし推しも違う。だからノアがグループを離れれば解決するんじゃないの?」


 この一言を皮切りに、私が閉口している間、三人の意見がまとまりグループからの離脱が決定した。その後のことはよく覚えていないが、一人のランチを終えて戻ったクラス内にも居場所はなく、そこから私の孤立の日々が再スタートすることになったのである。


 だが以前経験した孤立の時とは大きく違い、今は怯えることがなくなっていた。

 それどころか常に抱えていたモヤモヤとした感覚は消え、まるで長く閉じ込められていた場所から気持ちの良い風が通る草原に出てこられたようなそんな感覚で心は軽やかだ。


 私はちらりと(ディラン)の方を見てみた。

 一人黙々と何かの本を読んでいる。

 その姿からはなんというか諦めに似たそんな雰囲気を漂わせているように感じた。それでも私は彼はきっとやさしい人に違いないと、そう思わせる何かも感じ取っていたのだ。そして今はまだ、手のひら返しのようで彼に話しかける勇気はない。でもいつか必ず話しかけ、お互いのこれまでのことを話せる日がくるよう願った。


 以前の私であれば周囲の反応や噂を気にしておどおどしていたが、今はぼっちの気楽さを堪能するくらいには図太くなれていると思う。昼休みももうカフェには行っておらず、ベーカリーでサンドイッチを購入し庭で食べたり食堂に行って定食を食べることもある。クラス内では一人静かに本を読んだりヘッドホンで音楽を聴いたりして過ごし、行ったことがなかったライブラリーにもよく行くようになった。


 そんな風に一年を過ごしているとあっという間に二年に進級となった。


 彼とは別クラスになってしまったが、たまに行く食堂では見かけるので私の野望実現の夢はまだ潰えてはいない。そして新しいクラスでは予期せぬことも起こった。


 いつものように一人静かに本、ではなく推しの写真とインタビュー記事が載った雑誌を見ていた時だった。「もしかして彼のファン?」と、話しかけられたのだ。


 「‥‥そう。中等学舎の時からずっと推している人なんだ」


 「一緒!私も中等学舎の時からの推しだよ!ついに同志発見!」


 まさかの同担(推しが同じ人)が同じクラスにいた。驚きである。

 確かに彼は自分の推しではある。が、こういっては何だが推しの世間での認識率は高いとは言えない。それに私にとっては可愛いと思える容姿も他の誰かにとってはただの芋男、田舎くさいという印象になるらしい。


 とにかくようやく引き寄せの法則というものを実感することができた。

 従兄弟のヘンリーが語っていたのだ。友達は努力して作るものではなく、ごく自然に引き寄せ合い、気づけばそうなっていた仲間同士のことであると。


 のちに彼女、この時から親友となったカナデは教えてくれた。

 あの時私からはとてもやさしい穏やかな空気が満ちているのを感じていたと。

 その波長(空気感)がとても気持ちよく、自分に合っている気がして本当に引き寄せられるように近づいていったらまさかの同担だったとその時のことを思い出し、コロコロと笑っていた。


 さらには偶々見ていた雑誌に出てきたオズワルド選手に思わず出てしまった「げ⁉」という言葉に彼女が反応し、実は彼女もオズワルド選手が苦手だったということが判明した。そして一切関連動画も見ていないのに、なぜかしつこくおすすめに出てくる彼をホラー扱いにしていたことも発覚し、私は声を出して笑ってしまった。


 そんなカナデとの楽しすぎる幸せな学園生活を送るようになり、私はついに野望実現に向け始動した。カナデはディランくんの噂はもちろん知っていたが、クラスも違い会う機会もなかったため、特にこれといった印象はなにも持っていないと話していた。だが私が野望の話を打ち明けると、ノアがやさしい人だと感じたなら絶対に成功すると言って自ら応援団長に立候補し、就任した。


 私はカナデ応援団長の応援にさらに勇気が湧いてきて、次に彼を見かけた時、話しかけることに決めた。ほんの少し彼の反応を心配しているが、それよりもようやく話しかけられるということにワクワクしてきていつの間にか楽しみになっている自分に驚いていた。

 



 

 

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