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第96話 「炎は闇を制す」(バトル)

 メイの激しい炎とシラの押し寄せる闇は拮抗した。

 出所の同じ二つの力に優劣は無く、そこにある違いは属性だけだった。

「あんたの魔力、癇に障るのよ!」

 怒りに任せてメイは魔力を解放した。アマテラスフォームを纏い、背に日輪、両手にゴッドハンドを展開。おぞましい存在の滅消をはかる。

「死ねェ!『ゴッドフィスト・バーストナックル』!」

 巨大な炎の手。ゴッドフィストが、拳を作りシラを正面から殴る。

 地獄の皇太子シラは、亡者を集めて作られた黒い盾『呻きの肉塊』を出現させ、拳を受け止めた。

 「痛い痛い痛い痛い」「苦しい」「あああああああ」

 拳の衝撃で、盾を構成する亡者達が苦痛の悲鳴を上げる。


「気ッッッッ色悪い!悪趣味なのよ!私の魔力で変なもの出すな!」

 さらに怒りの炎を激化させ、メイはゴッドフィストで左右の乱打を繰り出す。バーストナックルは一撃ごとに爆発を発生させ、盾の亡者達を叩くたびに消滅させる。

「なんという威力だ。我が盾をこうも容易く砕くとは、さすがは我が母!」

「うるさい!母なんて呼ぶんじゃないわよ!絶対にブッ殺してやるんだから!」

 これまでに無いほどの怒りを見せて、メイは攻撃を放つ。


 ゴッドフィストが攻め勝ち、呻きの肉塊が砕け散った。

 シラは飛翔、上昇し避難を開始する。

「逃がすか!」

 メイが上方を向く。追撃のために拳を構えた。

 が、行動はシラが早かった。上級闇魔法の詠唱が始まっていた。

「淀みの底より手を伸ばす者よ、いかなる拒絶の障害も欲するままに噛み砕き、渇望の喉を開き強欲の胃を満たせ!『死王の顎』(しおうのあぎと)!」


 メイの足元に、地獄より呼び出された闇の沼が広がった。粘り気のある泥土がメイの足を捉えた。

 沼の中から巨大な鮫の上下の顎骨が大きく開いた状態で現れた。口が閉じ、鋭い歯が虎バサミのように襲い来る。

 咄嗟に炎の両手で顎骨を抑えるが、地獄の皇太子が使用する上位の闇魔法は乗算的に威力を高め、徐々に迫る。

「く・・・なんて威力。私が押されるなんて・・・」

 神域に達するメイの魔力をもってしても、大きな鮫の顎骨はじりじりと間を詰める。


「まったく、こんな厄介な魔法を簡単に使用するなんて、さすが神様ですわね。この力、正直ゾクゾクしますわ」

「ふ、お主は相変わらずじゃのう。そんなことでは、また生傷が増えるぞ」

「学園長!リン!」

 窮地に陥ったメイを、到着した巨漢の二人が救った。

 タイラーが上顎、リンが下顎を両手で抑え。挟撃を食い止める。

「戦士の傷は、勲章ですわ・・・よっ!」

「言いよるわ。どおおりゃあああああ!」

 リンとタイラーが同時に体を後ろに引いて、強引に顎を開いた。二人の剛力は、開くと同時に頑強な顎を握り砕く。


 大顎から解放されたメイが、上昇しつつシラに向けてゴッドフィストを繰り出した。

 炎の拳が地獄の皇太子へ足元から迫る。

「この程度の炎で我を焼けると思うなよ。『黒涙』(こくるい)」

 シラの手から、迫るメイに向けて漆黒の一滴がたらされた。


「あ。これヤバいヤツ」

 降下してくる黒い雫を見た瞬間、メイの全身で鳥肌が立ち、本能が警告を発した。

 回避行動。と考えたが、鳴り続ける警告が上昇を急停止させ、ゴッドフィストで受け止めた。

 ゴッドフィストが黒涙に触れた瞬間、接触部から黒が拳を侵食した。

 全てを黒一色に染め上げると、拳は砕けて散った。

「あっっぶなぁああああ!これ体で受けてたらどうなるのよ?」

「無論、腐って落ちるだけだ。そうなれば、我が眷族になれたのだがな」

 シラは笑っていた。見下すような哀れむような目だ。


「一滴なら防げたようだが、ならばこれでどうだ?」

 メイに向けられたシラの掌に、再び黒い雫が現れた。今度は一滴どころではない。人頭程もある塊だ。

「『黒壊球』(こっかいきゅう)。周囲一辺が地獄と化すぞ」

 掌に黒い力が凝縮され、自重に耐えかね黒球が掌を離れようとする。

 が、それを遠方から飛来した青白い光が阻んだ。防壁の上から、ハチカンによる遠方砲撃をナルが放ったのだ。


 氷の遠方砲撃はシラと黒壊球に直撃し、右半身を氷付けにして黒球を砕いた。

「お、おのれ!ナル・ユリシーズか!小癪な!」

 氷を破るためにシラは右半身に魔力を漲らせる。が、予想に反し氷にはわずかに亀裂が生じるだけだった。

「なんだと?たかが氷が我が魔力に耐えるというのか!?」

 思いがけない結果に、シラはもがく。


「ただの氷なものか!この私の魔力が凝縮された氷だ。並の金属よりもよほど強固だ!」

 遠方の防壁の上から、砲撃の構えのままナルが告げる。

「如何に強固な氷であろうが、しょせんは氷、我が全ての魔力を注げば・・・!!」

 さらに魔力を漲らせ、氷からの脱出を図るシラの首筋に、寒気が走った。直感的にシラは、魔力を半身を覆う氷でも下から迫る炎でもなく、首筋の防御に回した。

 魔力が防御壁を作った直後、サイガの忍者刀の一撃が打ち込まれた。その威力はすさまじく、斬撃の余波で首付近の氷が砕けた。


「ぐおおおおおお!なんだ、この一撃は!これが人間の放つ攻撃か!?」

 サイガの一撃は、首筋にとどまらず、シラの全身へその衝撃を走らせた。脳が揺さぶられ、視界が震える。

 体の全ての制御を失い、シラは墜落した。メイとすれ違い、地面に体を叩きつけた。

「う・・・ぐ、あああ・・・」

 脳が上下左右に振動を繰り返す。六姫聖との激戦に備えていた体に、サイガからもたらされたこの事態は完全に予想外の結果だった。シラの虚ろな意識に『消滅』の文字が浮かぶ。


 腹ばいになるシラを囲うように、サイガ、メイ、リン、ナルが集う。タイラーは警備隊を誘導し、学生達の救護を行っていた。次々に意識を失った教徒たちが運び出される。

「救護は学園長に任せとけば大丈夫ね。それで、こいつはどうしようか?」

 メイが生徒達から視線をシラへと移す。

 今だ朦朧とする状況のシラを四人が見下ろす。

「さっさと首をはねよう。回復されれば、どんな手を使ってくるかも分からん」

「同感ですわ。無差別に動き回られる前に終わらせてしまいましょう」

 サイガとリンが武器を構えた。

「そうね、これで終わらせるわ。二人とも下がってて」


 メイは手に魔力を収束させた。魔力が矛の形となり、光と炎の属性を併せ持つ『アメノヌボコ』を創り出した。

 矛を逆手に構え、シラの頭を目掛ける。ここで、メイは気付いた。シラの口がわずかに動いているのだ。

「え、なに?」

「・・・ズ・・・ロウ・・・ラ・・・ラ」

 シラの口から、おぼろげな呪文が漏れる。黒涙の時同様、またしてもメイの全身を悪寒が駆け巡った。それは、これまでに無いほど強く恐怖をかきたてた。 

「なんだ、こいつ!なにを言っている!?」

 悪寒を感じたのは、サイガも同様だった。メイより速く動き、シラを仕留めにかかる。だが、それはシラの全身から湧き出した瘴気によって阻まれた。

 大波のように流れる瘴気は、その圧でサイガたちを後退させる。


「ダ・ズマ・ラフア・ロウ・ライラ・・・レラ・ノ・ガト」

 シラの口より漏れる呪文が、はっきりとした形となった。しかしその言葉の意味は理解できない。異なる言語なのだ。

「いかん、これは魔言だ!」

 呪文を耳にするや否や、ナルは声を上げた。

「魔言?なんだそれは!?」

 サイガが尋ねた。

「地獄の底、闇すら飲み込む最奥に名を連ねる三十の魔将を召喚するための言葉だ。やつらは人間の言葉には決して応じることはない。魔の言葉を用い求める必要がある。そのための言葉が魔言だ」

「ということは・・・」

「そうだ!地獄の底から軍勢があふれ出るぞ!皆、散れ!

 四人は一斉に散開した。崩れた斎場の壁の上に避難すると、床一面を覆い尽くしてなお広がり続ける濃厚な瘴気とその動向を見つめる。

読んでいただいてありがとうございます。

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