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第90話 「邪なる密談」(ストーリー)

「ありぇ?みんにゃどうしたの?恐い顔しちゃって?」

 直感で発された自身の発言の内容に気付きもせず、メイは揺れる視界で三人を見る。


「抜けているようで、要点をおさえた勘が働く。こいつは昔から、私達が見逃すようなことも目ざとく指摘してくるんだ。まったく、普段から気を張っていれば評価も少しは上がるものの・・・」

「そこも含めてメイの魅力ですわ。しっかりしているところなんて想像できないもの」

 メイへの人物評を語りながら個室の扉を開けて入ったのは、同じ六姫聖のナル・ユリシーズと、リン・スノウだった。

「ありゃ~ナルゥ~、リ~ン、ひさしぶり~なにしに来たのぉ?元気ぃ?」

 能天気な酔っ払いに、その美しい顔をわずかに強張らせながらナルは席に着いた。リンも続いて、笑いながら着席した。


 学園長をはじめ、サイガ、ティエリアに挨拶をすませ、ナルは本題に入った。

「我々が参りました理由はただ一つ。邪神サルデスの討滅です。これまでは、その存在が不確かであったためメイ一人の専任でしたが、先日の報道を鑑み、事態の重要度を引き上げて六姫聖三人で受け持つこととなりました。よろしくお願いいたします」

 そう言うと、ナルとリンはそろって頭を下げた。

 ナルの顔は任務に対する責任感で引き締まり凛々しい。面と向かえば、性を問わずに虜になるだろう。

「ふぇ~そうにゃんだ~よろしくね~」

 ナルに対して軟体動物のように弛みきったメイが、片手をひらひらと動かした。

 耐えかねたナルがその脛をつま先で蹴った。

 「ぎゃっ!」と声を上げてメイは悶絶した。


「六姫聖を三人も投入とは、姫様も本気じゃのう。褌を締めねばな」

「ならば、日曜の礼拝では完全な決着と参りましょう」

 タイラーとサイガが来るべき決着の時に向けて、その闘志をむき出しにした。

「ふふ・・・神が相手なんて、初めての経験ですわね。私、死んでしまわないか不安ですわ」

 武者震いする体を両手で抑えながら、リンは笑みをこらえきれずにいた。


「では皆さん、作戦にあたって体調管理をさせていただきますので、皆さんの健康情報を集めさせて下さい。万全の体制で当日に挑みましょう」

 そう言うと、ティエリアはサイガ、タイラー、メイ、ナル、リンの前に魔法で小さなウィンドウを出現させた。仄かな輝きを放つウィンドウがそれぞれの体を通過した。ウィンドウには個々の身体情報が記録された。

 ティエリアが扱う解析魔法は、仔細な情報を的確に記録管理する繊細な魔法だ。特選クラスの担任として、この魔法ですべての生徒の情報を管理している。

 それによって、ティエリアが担任について以来、生徒達は怪我も体調不良も無く、健康を維持していた。


「ではティエリア先生、管理の方、頼みましたぞ」

「はい、お任せください。教師人生をかけて万全に調整して見せます!」

 ティエリアの気合と共に、酒場の夜は賑やかにふけていった。 




 明けて土曜日。昼。

 休日の人気の無い、レイセント学園内錬金術科の隠されたとある一室。一人を除いて学園内のすべての人間がその存在を認知しないその場所で、錬金術科教師のシュミットは密談を行っていた。

 シュミットの傍らには、齢五歳ほどの男女の区別がつかないほど中性的な顔立ちの赤い髪の子供が一人。そして向かいにはローブで全身を覆い、顔を仮面で隠した女の姿があった。

 シュミットと女の会話は、日曜日に行われる予定のシアン教団の礼拝についてだ。


「教祖様、器の調整が完了いたしました。これにございます」

 シュミットが教祖と呼んだ女に対し、子供を紹介し、突き出すように深く頭を下げた。これは、邪教シアンにおいて、命すら差し出す忠誠心の表現だ。

 シュミットの最敬礼に女は首元に手を添え、斬首の仕草で応じた。

「シュミットよ、我らシアンの本懐、サルデス様の再臨は血と祈りと魔の力。そして、器によって今度こそ成就のときを迎えます。ハインスはサルデス様の残滓を匿うために姿を隠していますが、儀式が完遂されればその折には姿を見せるはず。そのための血と祈りは手はず済みです。そして器・・・その子はそれに足るのでしょうね?」


 器と呼ばれた幼児は女に指差されると、シュミットの後ろに隠れた。恐る恐る女の顔を覗く。

「あら、恐がらせてしまったようね。怯えなくてもいいのよ」

 穏やかに微笑みながら女は幼児に手を差し出した。

 幼児は一歩踏み出てきた。上目遣いで女を見る。

「・・・ママ?」

 幼児は尋ねた。


 この幼児はシュミットによって人工的に生み出された人造人間、所謂ホムンクルスの一種。教団の方針を裏切り、ギネーヴを通じてシュミットが国王に売り込もうとしている研究の産物だ。

 幼児は数週間前、偶然入手した優秀な細胞を元に誕生、培養された。母体が持っていた高い魔力との親和性が作用し、魔力を注げば注ぐほどその成長が急速に促される。それゆえ幼児は外見の年齢は五歳ほどだが、精神は三歳にも満たない。


「違うわよ、私はママじゃないの。でも、明日になればママに会えるわ。その時はたくさん抱きしめてもらいなさい」

 女は仮面を外しながら幼児に微笑んだ。邪教の教祖とは思えぬほどにその笑顔は穏やかだった。

「しかし、よろしいのでしょうか、教祖様。明日の再臨の礼拝、阻止のために六姫聖が三人も動員されたとのこと。それに加えてタイラー・エッダランド。さらには幻影の暗殺者と巷で呼ばれているあのサイガという冒険者までいるとなれば・・・」

 不安を口にするシュミットを女は制した。

「案ずることはありません。六姫聖であろうが、冒険者であろうが、私の魔法がその効果を最大限に発揮されれば、儀式の妨げなど出来ません。むしろ、飛んで火に入る夏の虫、サルデス様の贄としてあげましょう」

 女はシアンの象徴とも言うべきローブのフードをめくった。そこにあった顔は、特選クラスの担任ティエリア・ホーネットその人だった。


「そのために私達はこの学園に潜み、教師として立場を確立したのです」

 シアンの教徒たちは、多く学園に潜伏している。その目的は、無垢で未熟な生徒達を洗脳し、従順な信徒とするためだ。

 このシアンの目論見は数年がかりの計画であり、その成就のためにティエリアは純朴で真面目な教師を演じながら、特選クラスという優秀な素材がそろう場所の担任の地位に着いていた。

「特選クラスの担任というだけで、この都市では生徒も教師も住人も、誰も疑うことなく私の解析魔法を受け入れてきました。それがいかに恐ろしいことかも知らずにね」

 ティエリアの肩が震えている。歓喜の震えだ。

「ふふふ・・・これは天啓です。シアンの教祖である私が攻撃魔法でも闇魔法でもなく、解析魔法を持って生まれてきたこと。これは導きなのです。そして機は熟しました。明日、我らは神の導きの下、世界を闇で支配するのです!」

 ティエリアの笑い声が隠し部屋に響く。

 幼児は赤い髪の奥の瞳でそれを見続け、シュミットは二心のまま同調して笑っていた。

読んでいただいてありがとうございます。

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