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第88話 「茶番劇」(ストーリー)

 闇術によって強制的に誕生させられた、複数の肉体で構成された魔物『ブレンドゴーレム』が、体表のいたるところに残る、融合しきれなかった口からうめき声を上げながら片膝をついた。

 サルデスの骨片の呪力によって強制的に肉体を混合させ作られたその体は、結束はゆるく、幾つもの部位が原形をとどめ、いたるところでほころびが生じている。

「主を逃がすために肉の壁となったか。その覚悟は見事。しかし、呪術での結束など、白蟻に喰われた土壁以下のもろさよ!」

 言い放ったタイラーの掌がブレンドゴーレム触れた。接触部に気が生じ、そこを中心に散弾のように発射された。ゴーレムのほころびだらけの体を細かな肉片へと換える。

「邪魔しないで!邪神なんかに仕えてるから、命を粗末にする選択が出来るのよ。その執念ごと燃やし尽くして終わらせてあげる!」

 白く輝く炎がメイの掌から放たれると、飛び散った肉片を包み燃やし尽くした。

 教徒たちの成れの果てを消滅させ、ハインスの追撃を試みたが、既にその姿は影も形もなくなっていた。

 ハインスは教徒の犠牲を無駄にすることなく、本懐を果たしたのだ。


「逃がしたか。あと一歩というところで、彼奴らの執念が勝ってしまったようだな」

 遠方まで見渡しながらタイラーは呟き、あきらめのため息をついた。

 サイガ、メイ、タイラーが共に戦闘体勢を解除すると、廃墟から到着したセナ、エィカと一緒に生徒達が駆け寄ってきた。メシューとリディがメイに飛びつき、セナとエィカがサイガを挟むように立つ。

 戦果の報告をしあう一同を教師然とした目で見守りながら、タイラーに一つの疑問が浮かんだ。

「しかし、邪神ほどの存在が、一体なにがきっかけで出てきおったんじゃろうな?まったく、いい迷惑じゃ」

「うっ!!」


 タイラーの発した素朴な疑問。それを耳にした瞬間、声を漏らし、メイの動きが一瞬止まった。すかさずタイラーの目が光り、ゆっくりと首が動きメイを補足する。

「・・・メイ、今のはどういう反応だ?」

「ええっとぉ・・・」

 重くのしかかってくるようなタイラーの詰問に、メイの顔は瞬く間に冷や汗にまみれた。血の気は失せ、サルデスとの戦い以上に消耗しているように見える。

「メイ、隠しても無駄だ。正直に話そう」

 もとより隠すつもりの無いサイガは、メイに冷酷に自白を促す。メイは重い口を開くと、少しずつ今回の事態の流れを説明し始めた。


「何ぃ!?特異点に強制的に接触しただと!?」

 メイの軽率な行動に、タイラーは激怒した。

 特異点に接触するという行為は、善悪を問わず大きく事象を変動させる重大な行為だ。本来であれば発見と同時に即通報、隔離が義務付けられている。その理由は、今回の事態がよく物語っている。

 サルデスという最悪な存在の召喚とその暴走。メイやサイガといった対抗できる戦力があったとはいえ、場所によっては甚大な被害が出る事態になりかねないのだ。タイラーの怒りは当然だった。

「まったく・・・成長したと思えばこれか・・・」

「で、でも、それは私が考えを改める前だし、その頃の私なら後先考えないのも仕方ないっていうか・・・」

「言い訳無用!」

「ぎゃっ!」

 口数の増えるメイをタイラーの拳骨が黙らせた。



 広場を混乱に陥れた事態の収束を知った、都市の警備、救護隊と教師陣が現場へと到着した。

 生徒達は保護され、戦闘の跡と廃墟の教団本部には専門の教師を含んだ調査隊が向かい、サイガ達も事情聴取のため警備隊本部へと足を運んだ。


「つまり・・・実験半分で特異点に触れた結果があれというわけですな・・・」

 警備隊本部の会議室の中、サイガ、メイ、タイラー順で三人を並べた机の対面に座り、調書を書き上げたところで警備隊長は大きく息を吐いた。

 さすが学園都市の警備隊だけあり、一般人では疑問符を投げかけるような特異点という言葉にも理解が早い。

「隊長殿、此度の失態、ワシの教育不足によるもの。六姫聖という立場にありながら軽率に実験を行う不出来、教育者として恥の極み!メイ、お主も頭を下げんか!」

「はい・・・ご、ごめんなさい。お騒がせしました・・・」

 タイラーに頭を押さえつけられ、メイは消えそうな声で謝罪の言葉を口にした。


「いや、まぁ、幸いけが人も出ずに、出現した異変もご自身で始末なさってますからね。我々としては大事になっているわけではないんですが、広場から逃げてきた人たちでかなりパニックが起こりましたからね。そっちを収めるほうで手をとられたぐらいですから・・・」

 警備隊長の言葉は歯切れが悪い。大事を巻き起こしたとはいえ、そこに顔を並べているのは学園を統べる学園長と姫に仕える六姫聖の一人なのだ。警備隊長は、参考人に言葉を選ぶという、これまでの警備隊長人生の中で陥ったことの無い状況に調書を睨みながら唸り続けていた。


「隊長殿、実は今回の事態、姫様からの勅命であり、とある捜査の一環である」

「捜査の一環?姫様からですと?」

 話の決着点を見つけたタイラーが口を開いて事情を語りだした。

 復唱する警備隊長に「うむ」と頷いてタイラーは話を続けた。北の地の死の谷でサルデスの封印が解かれた事、その封印を解いたのがサルデスを信仰する宗教団体シアンと考えられていること、その調査のためにメイが派遣されていること。

「わかりました、その六姫聖の捜査の一環で、今日の特異点の件になるわけですな・・・」

「その通り。慎重にことを進めたいのは山々だが、なにぶん手がかりが少なく捜査が頓挫しておったところに、ここにいるサイガ殿が特異点である可能性があった。そこで、藁にもすがる気持ちで実験を行ったという次第なのじゃ。そうであろう、メイ?」


「え?」

 長々と語り助け舟を出したタイラーの言葉を、メイは理解せずにとぼけた声を発する。直後、「意図を汲め」と隣のサイガが肘で突く。

「あ、そ、そう。姫様からの指令で、やったんです。一応、私、六姫聖だから、現場での判断の許可ももらってるし、今回の実験も権限の範囲内って言うか・・・」

 精一杯の自己弁護にメイは努め、両端の二人も同調して頷く。取ってつけたような権限という言葉だが、メイの軽率さを知らず、六姫聖の看板と姫の威光があればそこに説得力が生まれる。

「姫様の指示・・・権限の範囲内・・・うぅうううむ・・・」

 警備隊長が重い唸り声を上げた。タイラーの思惑通り、姫の威光と職務の間で揺れている。

 騒動の原因を野放しにするわけにもいかないが、姫の指示の下となればその権限は自身の遥か上。責任感が権力の前では無力であることを痛感していたのだ。


「仕方ありません・・・事情も目的もあり、任務の一環とあれば受け入れるしかないでしょう。ですが、次からは必ず申請をしてから実験を行っていただきます。学生達を危険にさらすわけには参りませんからね」

 タイラーの助けにより身柄の解放を期待していたメイは、隊長の最後の一言「学生達の危険」という言葉に、深く釘を刺された気持ちになった。深く落ち込んだ状態から復活したメイにとって、これまでの自分がどれほど軽率で他者を軽んじていたか思い知らされたのだ。


 調書の作成が終わったところで三人は釈放された。その際、約束が交わされた。

 サルデスとの決着をつけるにあたって、警備隊とメイ達で宗教団体シアンの情報を共有すること。

 事態の完全な終結は、サルデスとハインスの完全消滅と教主の逮捕と教団の解体をもって完了する。今回の騒動でそれは一部の人間だけで扱える内容ではないことを痛感したメイ一行は協力体制をとることとなった。


 タイラーは保護された生徒達のことをサイガとメイに任せると、一足先に学園長室へと帰還した。

 メイとエィカが合流し、四人で戦果を報告しあう。

 生徒達が保護された医療機関へ着くと、またしても飛びついてきた七人を正面からサイガとメイで抱きとめ、長い一日は終わりを迎えた。

読んでいただいてありがとうございます。

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