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第08話 「投薬」(ストーリー)

「どうしたんだい村長、こんな夜中に?年寄りには夜は辛いって言ってたじゃないか」

 セナの軽口が二人の距離が近いことを教える。

「セナ、朗報だ。サーラの命、救えるかも知れんぞ!」

 村長の言葉にセナは一瞬、戸惑いの表情を見せた。わずかではあるが興奮の色が隠せないでいる語気に、ただならぬものを感じ取ったのだろう。セナに警戒させぬよう、すかさずサイガが間に入って言葉をつなぐ。

「村長からサーラさんの病の話を聞いた。実は俺は旅の最中、その病の特効薬といわれる妙薬を手に入れたんだ。これをつかえばサーラさんの病が治るかもしれない」

「母さんの病に効く妙薬だって?」 

 サイガの掌に乗った薬を、セナがいぶかしげに見る。

「難病に的確に効果のある薬を、偶然出逢った俺が持っているなど出来すぎた話に思うかもしれないが、どうか俺と村長の言葉を信じて欲しい」

「父親みたいな村長と恩人のサイガの言うことを疑ったりしないよ。さぁ中に入りなよ」

 サーラを救いたいという思いの強さから、二人の言葉は報せというよりも、半ば説得に近い物言いになってしまった。その二人の意思を悟ってか、セナは大きく玄関を開くと二入を中へ招き入れた。


「母さん、村長が話があるって。少しいいかな?」

 セナが訊ねるとサーラは静かにうなずいて二人の寝所への入室を許可した。あらためて見たサーラの姿は闘病の果てに憔悴しきっていた。

 サーラの症状を目の当たりにして、サイガはその進行度が重篤なものであると察した。知る限りでは末期の状態だったのだ。

 咳き込みつつ、真夜中の来訪者を受け入れてくれたサーラの前に村長が膝をつき、サイガの持つ薬とそれを投与したいという考えを伝えた。

「それは、ありがたいお話ですが、薬なんて高価なものを飼うだけの蓄えを私は持ち合わせてはいません。ただでさえ私がセナに養ってもらっているような状態なのに、これ以上お金のことで負担をかけるわけには・・・」

「金は結構です。病に苦しむ人がいて、そしてそこに効果のある薬を持った自分がいて、それを看過することが出来なかっただけのことです。どうか受け取ってください」

「でも・・・」

「どうしてもというなら、宿代だと思ってください」

 サイガの言葉に偽りはない。

 状況を飲み込めないまま、出会った人、訪れた村、知った現状。そんなサイガの心にある気持ちはたった一つ、この母娘に平穏な日常を取り戻したい。だった。


「サーラ、私はきみと同じ症状の者達を多く見てきた。その経験から言えば、今の君は末期の状態でこのままでは助かる見込みは低い。その上、こんな辺境の地では医者にもろくに診てもらうこともできん。どうか私の目を信じて、一縷の望みをサイガ殿とこの薬に希望を託してはどうだろうか?」

 懇願するような言葉を発しながら、村長はサーラの手をとった。その行動はサイガと同様、他意はなく母娘を想ってのことだった。

「村長さん・・・そうね、このまま黙って死んでしまうより、望みをもって挑んでみるわ。それに、娘の恩人のサイガさんが言うんですもの疑うことなんてないわ」

 恩人を信じるという、セナと同じ文言を口にするサーラ。セナのまっすぐな性格が母親譲りだった。

 サーラは憔悴した顔に笑顔を浮かべながら、薬を受け取り飲み込んだ。


「それでサイガ、この薬はどれくらいで効いてくるんだ?」

 セナの質問は当然のことだった。これまで長い間、母の闘病を見守ってきた身としては、一秒でも早く症状の改善を見届けたいのだ。その声には急かすような、あせりも含まれていた。

「約三日程だ。この薬は体の中の病の素を駆除するためのもので、そのためには何日か連続で飲み続ける必要がある」

「そうなんだ、ポーションみたいに手軽にはいかないんだね」

 おそらくこの世界でいう薬は、瞬時に効果が現れるファンタジー作品に登場するようなものを指すのだろう。その認識の違いが、やはり自身が異世界にいるのだとサイガは再認識した。

 サーラは薬を飲み込むと横になり、すぐに目を閉じて眠りについた。三人は起こさぬように、静かに部屋を出る。


「村長、セナ、この病は薬を飲んで終わりじゃない、重要なのはここからだ。明日から少し忙しくなるぞ」

 村長、セナ、サイガの順で部屋から出ると、サイガが戸を閉め終わると同時に口を開いた。

「終わりじゃない?なにがあるんだい?」

「全て話すと長くなる。今夜はもう遅い、詳細は明日説明しよう」

 サイガの言葉を受けて、村長は朝からの来訪を約束して家へと帰った。サイガとセナも床に就いた。めまぐるしく状況が変化したサイガは深く眠った。

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