第86話 「虎の乱舞 極限の炎」(バトル)
サルデスが意識の無い叫び声をあげた。形骸と化したその身から発せられるその声は、理性など無く獣そのものだ。
叫びに呼応し、サルデスとメイの間に多くの死霊やゾンビといったアンデッド系の魔物が、その行く手を阻むために姿を現した。その数は千以上になる。
「すごい数。護衛にしては多すぎじゃない?」
思わずメイは感想を漏らした。アンデッドたちは、広場の中央へ向かう大通りを埋め尽くしてなお溢れるほど、大挙して押し寄せていたのだ。その感想は当然だった。
「アンデッドの主神の危機じゃ、こやつ等にとっては一大事じゃからな」
「え、が、学園長?」
メイの感想に答えたのはタイラーだった。
タイラーは魔法を得意としないが、足の跳躍力による滞空時間でメイの隣に浮遊し続けていた。それは人間の常識の外だった。
「メイよ、雑魚に力を浪費する必要は無い。露払いはわしがやろう、お主はサルデスに集中せい」
そう言って、タイラーは気の加護を全身に巡らせ、空中で加速した。メイを抜き去り、敵の群れに飛び込む。
「空を飛べないのに、何で気合だけで空中で加速できるのよ?やっぱ、まともじゃないわ・・・」
さらに常識から外れたタイラーの行動に、メイはあっけに取られながらも感心し、その背を見送った。
「さて、まずは空を埋めるこの死霊共じゃな。霊の分際で日の下に出てくるとは・・・身の程をわきまえい!!」
跳躍での浮遊を維持し続けたまま、タイラーは死霊を一喝した。
活人タイラーの大声に、心を持たないはずの死霊達がわずかに怯む。
空中で静止したまま、タイラーは全身に力と気の加護を漲らせた。筋肉の緊張と気の充実で上半身が膨張する。
「消え失せぇええええええい!!!!」
タイラーの力と気が込められた、喝声の弾が放たれ打ち込まれた。一瞬間をおいて、空を埋める死霊の群れを、気の弾が一つ残らず蹴散らした。
鈍色だった空は一面の青へとその顔を変える。
『虎吼崩裂衝』(ここうほうれつしょう)。気を込めた大声で広範囲を攻撃するタイラーだけが使用できる技だ。リンもかつて、似たような技をリュウカンへと放ったが、それはこの技を模倣したものだ。その規模は比較にならないほど広い。
空の死霊を一掃したタイラーが真下に着地した。重量級の巨体は足元に亀裂を走らせる。
タイラーが降り立ったのは敵陣のど真ん中、見渡す限りアンデッドで埋め尽くされていた。
群れを掻き分け、タイラーを五体のヘヴィスカルが囲んだ。その一体一体が、セナとエィカが二人がかりで倒した個体よりも大きい。
「ほう、こいつは殴り甲斐がありそうだな」
タイラーが足を前後に広げ、腰を落とし、拳を引いた。正拳突きの構えだ。
ヘヴィスカルが骨棍棒を振り上げた。
「遅い」
正拳突きがヘヴィスカルの胸骨に迫った。しかし拳は打ち込まれること無く、胸骨に触れる寸前で急激に速度を落とし、触れたところで止まった。当然ヘヴィスカルにダメージは無い。聞こえるのは弱い接触音のみだ。
距離を見誤り不発のように見えたタイラーの正拳突きだったが、その結果はすぐに覆った。
わずかの静寂の後、拳と胸骨の接触部から気が生じ、虎の顔の形となってヘヴィスカルを通過した。
直後、ヘヴィスカルの全身に、通過した虎の顔と同じ形の侵食が起こり、虎の部分から崩落を始めた体は、乾いた音を立てながら地面に散乱した。
タイラーの気が通過した部分は浄化され、アンデッドの自己再生が機能せずにヘヴィスカルはもがきながら灰となって消えた。
『聖虎闘影波』(せいことうえいは)。接触部より気を爆発的に送り込む気の技。その勢いは凄まじく、余波が虎の形となる。無論、扱えるのはタイラーのみだ。
「まだまだいくぞぉ!」
大股で中腰となったタイラーの両拳が地面を同時に叩いた。気が地中に流れ込む。
打ち込まれた気が、地表を破って顔を出した。
飛び出した気は鋭い牙と化して、四体のヘヴィスカルそれぞれを下から串刺しにした。
『虎牙羅穿孔』(こがらせんこう)。無防備な下方から複数の敵を一度に仕留める、罠と奇襲を兼ねた技。その派手な様は見るものに恐怖を与え、戦意を削ぐ効果を持つ。これもタイラーだけが扱える技だ。
天と地の大物を始末し、残すは地上でうごめくゾンビの群れ。
タイラーは大きく深呼吸をすると、押し寄せるゾンビたちに動じることなく、両膝を曲げ両腕を広げて掌を天に向ける。所謂、蹲踞の姿勢だ。
大きく広い掌が、胸の前で破裂音を立ててぶつかった。気が波状となってゾンビの群れを飲み込み走り抜ける。
『光連合掌環』(こうれんがっしょうかん)。気を波状に放ち敵を一掃する技。弱いアンデッドならひとたまりも無いほどの浄化の力を持つ。
ゾンビの群れは、その全てが押し寄せる姿勢のまま塵となって消えていった。
これまでの一連の技は、他のものが真似することの出来ないタイラーが独自に開発し鍛えた技だ。
「さあ、道は開けた。メイよ、行くがいい!」
全てのアンデッドを消滅させ、タイラーはメイに呼びかける。
炎の翼を羽ばたかせ、メイがタイラーの上空を通過する。
前進を止め静止したとき、その眼前には、廃人のように玉座にもたれるだけのサルデスの姿があった。
サルデスの口がわずかに動いている。
なにやら言葉を発しているような動きをしているが、あくまでそれは動きだけだった。すでにサルデスに意識は無く、言葉を発する仕草をこれまでの余韻で行っているだけに過ぎない。
「・・・今だったらわかるわ。あんた、苦しいんだね。ごめんね。私が半端なことしちゃったから、どっちつかずで彷徨っちゃってるんだ。安心して・・・これで、終わらせるから」
メイは両手を差し出した。そこに炎は無いが、背後に巨大な炎の両手がメイの仕草に倣う動きで現れた。
死の谷での戦闘の際、サルデスを撃退した炎と光の手だ。さらにそれが聖性と神性を宿している。
「『アマテラスフォーム・ラー・ハンド・スーパーノヴァ』。太陽の衣と太陽の手。極限まで高まった私の熱と炎が、その魂を自愛の輝きで消滅させてあげる」
開かれた炎の掌がサルデスに迫る。
本能的に危機を察したサルデスが闇魔法を発動させて抵抗を試みる。
『死神の鎌』『地獄からの搦め手』『亡者達の誘い』『黒呪泥土』『闇球』『ビターレイン』『ポイズンミスト』あらゆる闇属性の魔法を繰り出して来るが、ラー・ハンドは意に介さず進み続ける。
発動させた闇魔法をまとめて掌に収めつつ、両の掌はサルデスを挟み込んだ。
「ア、ア、アアアアアアア・・・!」
言葉にならない悲鳴をサルデスが発する。状況を理解できる意識は既に無いが、あろうがなかろうが命の危機において反応は共通だ。
炎に圧され、闇が徐々に滅されていく。
掌の中間、正にサルデスの位置には、限定的だがスーパーノヴァの名の通り超高度の熱が生じている。
すでにサルデスは抵抗する力も魔力も失い、あとは消滅を待つだけとなった。速やかな消滅を妨げているのは、神格が故の不可侵性だろう。
「ここまでだね・・・さよなら」
炎の掌が密着し、サルデスが消滅した。
ここに、死の谷から始まった魔炎と死を司る神との戦いが決着を迎えた。
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