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第85話 「炎。-涙を消して」(ストーリー)

 サイガとハインスの激闘が決着を迎えたその少し前、からくも命を拾い呆然とするメイのもとには、先ほどまで様子を伺っていた生徒達が血相を変えて駆け寄っていた。

 回避したとはいえ、人の死の瞬間を目撃したのだ。生徒達は揃って動揺が隠せずにいた。

「先生!メイ先生!しっかりして。立って、早く逃げよう!」

 へたり込むメイの肩を掴んで、生徒のメシューとリディが涙声で呼びかける。だが、メイの反応は鈍い。いまだに死の現実を受け入れきれずに目はうつろだ。

 正面から見つめるメシューとリディに反し、他の五人の男子生徒たちは、メイの戦闘服の露出の多さに直視できずにいた。思春期の少年達には命の危機に匹敵するほどの刺激の強さだったのだ。


「わたし・・・死んじゃった・・・首、斬られちゃった・・・」

 独り言をぽつりと呟き、メイは焦点の定まらないまま前を見続ける。

「大丈夫、死んでないから。ねぇ、だから、逃げよう!」

「そうだよ!生きてるから、まだ助かるから!先生、立ってくれよ!」

 メシューに続き、パイロも参加してメイを逃がそうと腕を掴む。が、脱力したメイの体は重く、動かない。

「いいよ・・・もう・・・私は死んでるんだから・・・」

 涙にまみれながら逃避を懇願する生徒達を嘲笑し、メイはうなだれる。


「ならば今のお主はなんなのだ?メイ・カルナックよ」

 地面を見つめるメイの後頭部に、威厳が凝縮されたような声が投げかけられた。その声に聞き覚えのあるメイと生徒達は一斉に上方に顔を向けた。そこにあったのは、レイセント学園学園長タイラー・エッダランドの姿だった。

「が、学園長・・・なんで・・・ここに・・・」

 振り絞るようなか細い声でメイが尋ねた。その目はまだうつろだ。

「あのような大量の瘴気と魔力の氾濫が発生しているのだ。学園都市の長として駆けつけるのは当然のことである」

 腕を組みながら威風堂々とタイラーは答える。直後、鋭い目が光った。

「しかし、そんなことはどうでもよい。メイ・カルナックよ、なんという体たらくだ!何だその顔は?それが六姫聖であり最高峰の魔力を有する戦士の顔か!?気合を入れんか」

 メイのあまりの意気消沈ぶりに、タイラーは一喝した。だが、それでもメイの目に光は戻らない。

 この事態はタイラーにとって意外だった。


 レイセント学園学園長タイラー・エッドランドは、これまでの全ての卒業生達を記憶している。その中でも、現在六姫聖を勤めるナル・ユリシーズ、リン・スノウ、メイ・カルナックの三人は同期生であり群を抜いて優秀な成績を修めていたため、強くタイラーの記憶に残っていた。

 記憶の中でメイは快活な性格だった。常に明るく、特選クラスの中でも輝く存在感があり、関わる全てに元気を与える太陽のような生徒という印象だった。

 それが今、その笑顔は消え、枯れた花のようにしおれたその姿に、記憶の中の面影はない。

「でもぉ・・・わたし・・・首を斬られた・・・殺されちゃっ」

「だがまだ生きておる!!!!!」

 繰り返されるメイの弱音を吹き飛ばすように、タイラーの一喝する声が雷鳴のように響く。

 そのあまりの勢いに、メイは目を見開き、生徒達は叱責されたように硬直する。


「死んだのであれば会話は出来ん!弱音も吐けん!泣き言も言えん!正真正銘お主は生きておる!わしの言葉がその証よ!」

 タイラーの怒涛の言葉に、メイは圧倒されて口を半開きで見つめる。

「メイよ、察するにお主はフェニックスヴェールにその命を救われたようだな。ならば、その術を用いたのも、その選択をしたのも、全てはお主の実力。おぬしの判断!その結果生き延びた。一体何を不安に思うというのだ!?」

「私、首を斬られたときに、死んだのを悟った瞬間に、恐くなった。私、もう戦えない!」

 メイは振り絞るように悲痛な声を上げた。極限まで衰弱した状態での精一杯の自己主張だ。


「メイよ、死を恐怖するのは、それが己のための戦いだからだ」

「己の、ため?」

 消えそうな声でセナは応えた。見下ろしながらタイラーは話を続ける。

「うむ、これを見よ」

 タイラーは右手でスーツの左襟を掴むと勢いよくスーツを引き裂いた。

「ええ!?学園長、一体何を・・・」

 タイラーの突然の行動に、生徒一同があっけにとられる。さらに、上半身裸となったタイラーの姿を見て言葉を失った。

 その体には、左胸と腹部に大きな古傷があった。それは深く肉をえぐっていた。


「ワシはこれまでの人生で、二度、死に目にあっている」

 学園長の突然の行動と過去の話に、メイを含めた一同は古傷を凝視する。話は続く。

 タイラーは語った。かつてこの国が戦渦にまみれていた頃、若輩のタイラーは剛力由来の戦闘力から常勝無敗をほこり、敵味方から『虎』と呼ばれ、己の力を過信していた。

 その慢心から、無鉄砲に敵陣に攻め込み首級を挙げるという命知らずな戦闘を行い続け、その結果、敵将の槍を胸に受けた。

 槍は紙一重で心臓の横を貫通。重症となったが、仲間の懸命の救護措置で一命を取り止めた。

 胸の傷が癒えた後も、タイラーは考えを改めることなく再び同じ手段で戦闘を行い、今度は腹を真一文字に斬られ臓腑の大半を失った。が、またしても仲間達に救われた。


 しみじみとタイラーは語り続ける。

「そのときに、ワシは誓ったのだ。仲間達に救われた命を、今度は仲間のために使おうと。そこからワシは守るために力をつけた」

 語りながら、タイラーは二の腕に力を込め、筋肉を膨張させる。

「不思議なことに、己のために戦っていた頃よりもワシは多くの戦果を挙げ、遂には仲間から一人の犠牲を出すこともなく守り抜き、『魁の虎』へと通り名も変わっておった」


「魁の虎・・・でも、なんで今、そんな話・・・」

 メイは当然の疑問を口にした。

「メイよ、お主はワシと同じだ。己のためではない、誰かのために力を発揮する戦士。そして、ワシの場合はそれが仲間、生徒達だった」

「生徒って、私達?」

 メイがたずねた。タイラーは力強く「うむ」と頷く。

「戦いから退いた後、ワシはレイセント学園で戦闘を指南する教師となった。そして、生徒達を守る立場となってから、ワシはさらに力を身につけた。守るという意思がワシを何倍も成長させたのだ」

 大きな口から白い歯を見せ、タイラーは笑って見せた。

「そして今、お主の側にも守るべき者たちがおるだろう?」


 タイラーの指摘を受け、メイが生徒達に振り向いた。

 生徒達は真っ直ぐにメイの顔を見つめていた。タイラーの言葉を聴き、守護者としてメイを信頼した力強い視線だった。

「先生、私たち信じてる。先生があいつを倒してくれるって」

「そうだよ。だって、先生強いし、六姫聖だろ」

「授業のときみたいに、あんなやつあっさりやっつけてよ」

 生徒達が期待の言葉を口々に述べる。その言葉が、メイの心に火を点す。


「あんたたち・・・」

 メイはまた顔を下に向けた。落胆したのかと生徒達は身を乗り出すが、メイが口を開く。

「学園長・・・私、まだ強くなれるかな?」

 下を向いたままメイが呟く。だがその声には、これまでとは違い芯があった。

「守るものがあるかぎり、可能性は無限大よ。ワシが保障しよう!」

 タイラーは豪快に言い放った。

 メイが顔を上げてタイラーを見た。目は力強く輝き、その奥では炎が燃えているかのようだ。


「いい顔になったな。立てるか?」

「当然!」

 タイラーの問いに力強く返答し、メイは立ち上がった。消えていた全身を包む炎が蘇る。

「うむ、戦えるか?」

「当然!」

 応えながら拳を握る。炎は勢いを増すが、生徒達を巻き込むことなく燃え盛る。

「ならば、勝てるか?」

「当然!!」

 炎の衣が、光輪が、強い光を放ちながらアマテラスフォームが蘇った。炎は愛を知り不死鳥の羽のごとく大きく広がる。

 メイは飛翔した。空中からサルデスを睨む。


 サルデスの体は、既にその大半が再生を完了していた。

「む、復活してしまったか。長話が過ぎたようだな」

「ごめんなさい学園長、私が手間取らせたから・・・」

「かまわん。それにあやつ、どうやら、がらんどうのようだな。中身が抜けておるわ。半端に復活したのが災いしたか」

 タイラーの指摘どおり、サルデスは意識を喪失している。再生出来たのは体だけで、相変わらす視線は宙を見る。

「さあ、メイ・カルナックよ、哀れな神に引導を渡してやれい!」

「はい!六姫聖、魔炎メイ・カルナック行きます!」

 新たな想いを胸に、戦乙女は炎の翼を羽ばたかせて突進した。

読んでいただいてありがとうございます。

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