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第83話 「信徒」(バトル)

 邪神サルデスの象徴たる『黒い霧』と呼ばれる瘴気は、休日を満喫する学園都市の住人達の命を狙って、重く暗くうごめき天と地を黒く染め上げながら広がっていた。

「みんな、速く逃げて!」

 狼狽する民衆に避難を促しながら、メイ・カルナックは負の属性を浄化する炎、『ブリギッドブレス』で瘴気を焼き払う。幸い、瘴気の量はメイの魔力を押し切れるほどのものではなく、避難の完了まで瘴気を広場内にとどめることに成功した。

 広場の入り口を背に、メイは迫り来る瘴気と向かい合った。その目は、瘴気の中にいるであろうその主を睨みつける。


「安全は確保できたわね。さぁ、姿を現しなさい!こんどこそ、焼き尽くしてやるわ!」

 メイの背に広がる六枚の羽が強く輝く。光の羽を光の線がつなぎ巨大な輪を形成した。それはまるで日輪のように神々しい光を放つ。

 背の光輪に呼応するように、メイの両腕の炎が激しく燃え上がった。腕は下げた状態でありながら、その炎は頭を越えるほどに空に向かって延びる。炎が顔を照らす。

 巨大な炎を宿した両腕をメイは前に構えた。掌は開き、指を前方に向ける。

「いっくわよぉぉぉおおお!その瘴気が無駄だってこと、徹底的に教えてやるわ!吹っ飛ばせ!『アマテラスフレア』!」


 メイの背の光輪がより一層強い光を放つ。それは正に太陽そのもの。光は背を伝い、腕の炎へと注がれる。

 水平線の彼方から昇る朝日が生命力に満ち溢れ、まばゆく地を照らし夜を対の地へと押しやるように、メイの両手から放たれた光は、黒い霧を圧倒的な光の量で押し返した。

 光が闇を飲み込み、圧し、滅する。怒涛の光が通り過ぎた後には全ての闇が払われ、唯一つ残されたものがあった。闇の主、死を司る邪神サルデスだ。

「久しぶりね、死にぞこない。って、あれ?なんか様子おかしくない?」

 メイの言葉どおり、サルデスは異様だった。

 死の谷の時同様、骸骨組みの玉座に腰掛けているのだが、脱力したように空を見ていた。眼球の無い顔ではあるがはっきりと解る、呆けているのだ。


「なんだか気味悪いわね。ちょっと用心しとくか」

 メイは体を炎で包んだ。目には見えないほどのおぼろげな揺れる炎で体を纏う。

 致命的な一撃を一度だけ身代わりとなって防いでくれる最上位の炎魔法『フェニックスヴェール』。メイの魔力をもってしても一日一度が限度の高等魔法だ。


「すっげぇ、フェニックスヴェールだ。さすが六姫聖、あんなの教科書の挿絵でしか見たこと無い」

「パイロ、あんまり顔出さないでよ。気付かれるでしょ!」

 対峙するメイとサルデスを覗き見ながら、特選クラスのパイロは目の当たりにした高等魔法に興奮を隠せずにいた。

 休日の広場は市民達の憩いの場。それはレイセント学園の生徒達も同様で、休日を友人達と満喫していたパイロたちは、黒い霧から逃げ遅れて茂みに身を隠していたのだ。

「でも、おれもパイロの気持ちわかるぜ。神話の神と最高峰の魔法戦士、その戦闘なんて学校じゃ絶対見れないものばっかり・・・こんなの絶対興奮するだろ」

 パイロを叱るメシューに対し、ナルバは擁護する形で口を挟んだ。その目は二人に釘付けになっている。特選クラスの生徒達は皆、危機にあっても修学の意欲が強い。三人以外の四人の生徒達もまばたきを忘れて見入っていた。


 虚ろな表情のまま、サルデスは右の人差し指をかざした。黒い魔力が集まり、闇の球を作り出す。

 脱力した姿勢から、球がメイに向かって投じられた。緩やかに接近する。

「は?なにこれ、なめてんの?」

 その緩慢な速度の闇球を、メイは様子見程度の炎槍魔法、スザクビークを数発撃ち出して迎撃した。

 二つの魔法が接近し触れた瞬間、闇が炎を呑み込んだ。炎は闇に抗うことすらかなわずに、昆虫が爬虫類に一口で平らげられるように消滅する。サルデスの闇球はメイの魔力をはるかに凌駕していた。

「ちょっと、なにその魔力量!?そんなの適当に撃つんじゃないわよ!」

 闇球の威力にメイは恐怖を覚えた。様子見程度とはいえ、メイのスザクビークは鋼鉄の盾三十枚を勢い衰えることなく貫通する威力を誇る。そのスザクビークが一切の抵抗無く無効化されたのだ。相対的に闇球の威力を知ることとなった。


 メイは闇球を回避するために急速に後退した。退きつつも対抗するために炎の球を作り出す。

「小さすぎたら呑まれる。大きすぎたら周りを巻き込む。絶妙に相殺しないとこっちが痛手を食うだけ。ったく、厄介な術使ってくれるじゃない」

 炎の球が膨張と収縮を繰り返す。魔力の量を闇球と同等にするために調節しているのだ。闇球はサッカーボール程度の大きさだが、十万人規模の都市を消滅させるほどの魔力を内包していた。メイはそれと同量の魔力を炎の球に込めていた。

「強すぎたらごめんね!余った分は私がかぶるから!『ゴッドハンドグラップ』!」

 メイが拳を突き出すと、炎の球が前方に撃ち出された。闇球に接近するにつれその形は変化し、メイに従うように拳となる。

 拳が開き、闇球を掴み包んだ。

 闇は抵抗を試み、炎の手を押し広げようとするが、炎は強靭な握力をもって闇を封じる。

「無駄!そのまま握りつぶしてやるわよ!バーニングゥクラァアアアアアッシュ!」

 炎の手が闇を握りつぶした。それに伴い、強烈な炎が巻き上がった。二つの球の魔力量は、わずかに炎が上回っていたのだ。余剰の炎が統率を失い暴れ回る。


「ちょっと強かったみたいね。だったら・・・残ったのは全部あいつに叩きつけてやるわ!『ゴッドハンドプレッシャー』!」

 メイは前方に掌を突き出した。新たに炎が発生し、乱れる炎を取り込むと、巨大な炎の掌となってサルデスに正面から衝突した。

「オガ・・・ガゴ・・・ガ・ガガ」

 掌に押し込まれ、サルデスは座したまま強制的に後退させられる。口からは言葉にならない声が漏れ続け、それでも死を司る神は魔力を放出し抗う。

「力使いこなせてないのよ。無様さらしてないで・・・爆ぜろやぁあああああ!」

 さらなる魔力の放出を受け、炎の掌は膨張し、爆発して炎の柱と化した。その中では無抵抗となったサルデスがただただ焼かれ続けていた。

「灰になるまで、そこで焼かれ続けろ。二度と出てくるんじゃないわよ!」

 因縁の敵の最後を確信し、メイはアマテラスフォームを解除した。


「ああ、おいたわしや我が主よ。このような小娘にいいようにやられて、さぞや無念でありましょう・・・ううう・・・すぐにお助けいたします」

 メイの隣にはいつの間にか、ハンカチで頬の涙をぬぐう涙声の男が立っていた。男は体を銀の全身鎧で包んでおり、右手には瘴気を纏う長剣を握っている。

 男は長剣を振り上げた。剣からは悲鳴のような呻きのような声が聞こえてくる。剣が振り下ろされた。

 剣の斬撃がサルデスに向かって飛んだ。色は黒く、闇の属性であることを表す。斬撃はおぞましい声を上げながら飛来すると、サルデスを葬らんとするメイの炎を切り裂き消失させた。

 消滅を免れたサルデスは息も絶え絶えという姿で、玉座で天を仰ぐ。


「え?私の炎を消した?ちょ、あんたなにも・・・」

 メイが隣に立つ銀鎧の男を問いただすために振り向いた瞬間、男の剣が横に走り、メイの首を裂いた。

 左から右へ。皮膚、血管、筋肉、骨。そして筋肉、血管、皮膚。通過した剣の一撃は、メイの命を瞬時に奪った。

 はずだった。メイの首からは、血が噴き出す代わりに炎が溢れた。炎は傷口を覆うと、致命的な一撃を肩代わりして消えた。フェニックスヴェールが効果を発揮したのだ。


 思いがけず訪れた死の瞬間に耐え切れず、メイは腰が砕けへたりこんだ。現実に押しつぶされそうになり、全身が震えて顔には恐怖が張り付く。

「回生魔法か。六姫聖だけある。だが、二度目は無いぞ。主に働いた無礼、その命で償え」

 男の剣がメイの首に当てられた。狙いを定めるための行為だ。

「ひ・・・ひ・・・いや、いや・・・」

 普段は快活なメイだが、直面した死に抵抗できずにその目で剣を追うことしか出来ない。怯えすくみ、目には涙がにじんでいる。

 男が剣を上げた。無抵抗の首に振り下ろす。

「先生!」

「きゃー!いやー!」

 メイが、それを茂みから覗く生徒達が、全員がメイの死を覚悟した。


「簡単にあきらめるな!」

 叱咤の声と共に、サイガが剣と首の間に割り込んだ。忍者刀が男の剣を弾く。

「お前は姫に仕える誇り高い六姫聖だろう。どんな局面だろうと、最後まで足掻いて見せろ!」

「さ、サイガ・・・」

 サイガが男に向き直った。忍者刀を走らせる。

「でぇりゃあああああああ!」

 メイの命の危機にあって、サイガはその攻撃に強い殺意を込めた。華麗さとは程遠い、力強い斬撃が連続で銀の胸甲に刻まれる。

 たまらず、男は後退した。

 サイガは男を追撃し、さらに斬撃を繰り返した。その数が千を越えた頃、男の体はメイから百メートル以上離されていた。全身鎧は切創にまみれ、剣は防御のために前に構えられている。

「どうやら・・・女の前に貴様を始末する必要があるようだな。主に仇なすものに・・・死を」

 男は剣を構えた。刀身には無数の歪んだ顔が纏いつく。怨霊だ。

「貴様が誰かは知らんが、サルデスに組するなら葬るのみだ。覚悟!」

 双方の剣が同時に走った。

読んでいただいてありがとうございます。

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