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第80話 「藪をつついて蛇を出す女、メイ・カルナック」(ストーリー)

「あれだけわらわらと沸いて出てくるってことは、この下、何かありそうね。・・・勝手に穴とか掘ったら不味いかな?」

 メイが無邪気を装って質問してきた。

「ここは都市の土地なんだろ?穴なんて掘って良い訳ないだろう。そもそも立ち入り禁止を乗り越えて入っているんだ、早く出よう」

 油断をすると顔を出すメイの軽率な発言を諌め、サイガは帰還を促した。

「ごめんごめん、そうするわ。一旦帰って、調査を申請した方がよさそうね。それじゃあ戻りましょう」


 メイの先導で四人が歩き出した。だが、数歩踏み出したところで、サイガが足元の異変に気付いた。アンデッドの出現により、地面がもろくなっていたのだ。

「セナ、まずい!今すぐ戦鎚を手放せ!」

 警告を叫びながらサイガがセナに振り向いた。百キロを超える重量の戦鎚を持つセナの総重量に、地面が耐えられないと判断したからだ。

 しかし、その甲斐も無く、戦鎚を手放すと同時にセナは地面へと飲み込まれた。サイガの名を呼ぼうとして、半ばで姿を消す。


「セナ・・・」

「セナさ・・・」

 メイとエィカが共にセナの名を言い終わる前に、サイガが飛び出した。そのまま流れるように穴に突入する。

 わずかな陽光を受け、闇の中に溶け消えようとするセナに向かって、サイガは加速する。

 上方に向かって伸びるセナの手を、サイガは掴んだ。引き寄せ抱きしめると、上下を入れ替える。

 壁を蹴り、サイガは落下の勢いを緩和させた。さらに右、左と交互に壁蹴りを繰り返し、着地の頃にはその勢いは完全に殺されていた。


 陽光の届かない暗い地の上にサイガは静かにセナを下ろした。

「怪我は無いか?」

「うん、平気だよ」

「放すぞ、気をつけろ」

「うん」

 幸い、セナには怪我一つ無かった。サイガの肩を借りながら立ち上がると、上を見上げる。

「これは、かなり深いね」

「そうだな。しかも垂直だ。メイに迎えに来てもらう必要があるな。ん?」

 サイガが何かに気付いた。

 暗くて解りづらいが、空気の感覚から奥が開けた空間であることがわかる。

「もしやここは、人工的な空間か?」


 サイガが小型の懐中電灯を取り出す。その大きさに反して強力な光が放たれた。

 空間の全てが照らし出される。その光景にセナは言葉を失った。その空間は、壁から天井、見渡す限りの一面が人骨によって埋め尽くされていたのだ。

 衣を纏い眠るように肩を寄せ合うもの、無造作に床に転がるもの、わずかに掘られた横穴に安置されるもの。扱いは様々だが、この場所に葬られていることが見て取れた。

「な、なんだいこれ・・・骸骨だらけじゃないか。気味悪いよ。まさか、ここが例の宗教団体ってやつかい?」

「いや、これは集合墓地だ。この地はかつて要塞だったそうだから、おそらく戦死者を弔ってるんだろう。だが、これならアンデッドが沸いて出たのも頷けるな」

「戦の最中ってのは葬式もまともにやってもらえないんだね。なんだか不憫だよ。あれ?」

 ここで、セナが何かに気付いた。


「セナ、大丈夫?ごめんね、まさかここまで巻き込むなんて・・・」

 照明のような光を発しながら、メイが地下へ降り立った。

「私なら大丈夫ですよ。サイガが守ってくれたから心配無用です」

 メイに心配かけまいと、セナは笑って見せる。

「それよりもメイ様、あれ見て。あれって祭壇だよね」

 セナが先ほど気付いた箇所を指摘する。

 そこは周囲よりも一段高く、まだ新しい血で紅く染められていた。さらにその後ろには邪神サルデスを象徴する『黒髑髏を貫く銀の短剣に巻きつく毒蛇とそれを抱く大蝙蝠の翼骨』が描かれていた。

「そうね、疑いようの無いぐらいの祭壇。つまりここが、邪教シアンの活動拠点・・・。すっごい、大発見!特異点の効果てきめんじゃない」

「人間万事塞翁が馬・・・か」

 サイガが呟いた。

「なに、それ?」

 すぐにメイが尋ねる。

「人生、良いことも悪いことも色々あるという意味の、おれの世界の故事成語だ。こうまで事態がめまぐるしく変化すると、その言葉が浮かんできてな」

「へぇ面白い言葉ね。で、さしずめ今が良いことだとすると、次に来るのは・・・」


 地面が縦に激しく揺れた。

 三人が地震を疑ったが、それは頭上から届くエィカの声が否定する。

「大変です、みなさん!すぐに戻ってきてください!」

 エィカに呼ばれ、サイガとセナはメイに連れられて地上に出た。

 同時に、地面がまた縦に揺れた。だが今度は、その正体がはっきりとしていた。


 それは巨大な骸骨のアンデッド『スカルタイタン』だった。そして、その大きさは振動の主としては充分の説得力があった。

 足は廃墟の敷地の半分近くを占め、頭ははるか上空、百メートル。これまで見てきたどの魔物よりも巨大な姿がそこにあったのだ。右手にはベヒーモスの大腿骨から作り出した骨の棍棒を握る。

「皆さんが穴の中に消えてから、周りからたくさん骨が集まってきて、あの大きさになったんです」

「どうやら、ここで行われてた儀式のせいで、一種のパワースポットになっちゃってるのね」

 エィカの説明を受け、セナが推論を述べた。サイガとセナを置くと、上昇する。

「サイガ、ちょっと手伝ってくれる?流石に一人だと手こずりそうだわ」

「ああ、まかせろ!」

 サイガが忍者刀を構えた。上空を見据える。


「そんじゃあ、いくわよ!まずは・・・砕きますかぁ!」

 メイの全身が一瞬炎に包まれた。普段着から戦闘服へとその装いを換える。例によってきわどい露出の戦闘服だ。

「アンデッドにはやっぱりこれ、アマテラスフォーム!」

 浄化を主とする戦闘形態アマテラスフォーム。日輪を背負ったようなその姿は神々しく輝く。

 スカルタイタンが棍棒を振り上げた。メイの魔力に警戒の色を露にする。

「遅い!」

 メイは両の掌を輝かせると、右を下に左を上に構えた。そこから、円を描くように左右の上下を入れ替える。光の軌跡がメイとスカルタイタンの間にまばゆい光輪を描き出す。

「アマテラスキャノン!ハァッ!」

 光輪が大砲となって巨躯を撃ち貫いた。光が通った後には、複数の脊椎を失ったスカルタイタンが棍棒を構えたまま停止していた。


 巨体が崩れ落ちた。降り落ちる破片が滝のように地面を叩く。

「すぐに復活するわ。サイガ、セナ、エィカ。さっきみたいに戻れなくなるぐらい砕いてやって!」

 メイが破片を追って降下を開始した。が、その最中、メイはあるものを目にして空中で停止した。

 方角は都市の中央方面、広場入り口のあたり。そこに黒い霧のようなものが大量に立ち込めていたのだ。メイの顔から血の気が消える。

「う、うそ・・・あれって、まさか・・・死の谷と同じ」

 メイの脳裏に、先日の任務の際に目の当たりにしたサルデスの瘴気が思い起こされた。

「サイガ!やばい、瘴気よ!あっちにサルデスが出てきてる!」

「だったら、そっちはお前が行け!魔力の産物を払うすべをおれは持たん!こっちはおれたちで何とかする、行け!」

「わかった。すぐに終わらせて戻るから!」

 サイガに信頼を置いて、メイは瘴気へ向かって急行した。光の尾が遠い空へ伸びる。

「藪をつついて出たのは、蛇どころではなかったな」

 サイガは大きくため息をついた。目の前では、地面を埋め尽くしたスカルタイタンの破片が、新たなる形を求めて踊っていた。

読んでいただいてありがとうございます。

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