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第79話 「特異点」(ストーリー)

 ワイトシェル西大広場。

 学園都市の北西に位置し、広大な敷地に舗装された散歩道、大きな噴水に小動物が生息する雑木林を有するワイトシェルで生活する市民の憩いの場として親しまれている。

 今日のような週末となると、多くの行楽施設や出店、それを目的とした学生達で溢れ、都市内では一番の人口密度を誇る。

 そんな人で溢れかえる大広場の大通り、そこに続く入り口に、サイガ一行とメイ・カルナックは集合していた。メイの提案した仮説の立証の実験のためだ。


「あっちゃー、しまったー。人が多すぎるわ。昔はこんなじゃなかったのに、改装されて綺麗になってるじゃない。手軽に試せると思ってたんだけどな、しょうがない、場所変えるか」

 メイは大勢の行楽客を目にして盛大な独り言を漏らした。数年前の現役学生時代の寂れた印象のまま広場を訪れていたのだ。

「人が多いと出来ない?一体なにをやろうとしていたんだ?」

「ちょ、ちょっと危なっかしい実験。みたいな?」

「そんなことを行楽地でやろうとしたのか?・・・どうやら、一週間ぐらいでは研修の成果は出ないみたいだな」

 サイガの問いに、メイはわずかに顔をそらして答え、その迂闊な段取りにサイガは苦言を呈した。

「も、もちろん場所を変更するわ。ここに移動よ」

 地図を広げメイが示した場所は、広場の北西の端、現在立ち入り禁止となっている解体予定の遊園地廃墟である。

「大通りでやる予定だった実験を、こんな寂れた場所で出来るんですか?」

 大幅な環境変更に、エィカは思わず尋ねた。

「まぁ場所はあまり関係ないからね。最初に入り口を選んだのは、手っ取り早く終わらせられると思っただけだから。じゃあ、いくわよ」

 全員を余波の影響を受けないための魔力の膜で包むと、炎の帯でつないで飛翔した。


 飛翔して数分後、四人は解体予定の遊園地廃墟に到着した。

 現在は週末の行楽客でにぎわう広場だが、数年前に改修が入るまでは、その広大な敷地に野犬や浮浪者がうろつく、地元民なら忌避するような場所だった。

 中でも北西のこの地は、数十年前に開発途中だったワイトシェルが先走って造った観光施設のため、周囲の安全性の確保よりも話題性を優先され、安全面や道路の整備が後回しとなった。

 そのため、開業当初は賑わった北西の地は徐々に人足が遠のき、短い期間で閉業することとなった。それ以降、ここは心霊スポットと成り果て、立ち入り禁止の看板が立てられた。


「心霊スポット?幽霊が出るのか?アンデッドではないのか?」

 北西の地の説明をメイから受けたサイガが、最初に浮かんだ疑問を口にした。アンデッドと幽霊の違いが瞬時に理解できなかったのだ。

「幽霊は人間の魂で、アンデッドはその魂が元になった魔物ってところね。幽霊の方はまだ生前の記憶や面影が残るから縁のある人がいる分、扱いが難しいわね。アンデッドは元の魂が堕ちた果ての、影も形も無いただの魔物。心置きなく駆除できるわ」

「なるほど。で、皆が恐がるのが幽霊の方か」

「そういうこと。人間性が残ってるから相手するにも心の負担が大きいのよ。だから、本能的に忌避するの」

 説明を終えると、メイを先頭にして一行は廃墟に入った。

 廃墟の中には、簡易的なメリーゴーラウンドや小さい子供用の小型観覧車、売店、食堂などの施設が朽ちてはいるが、形を保ったままで残っていた。


「で、ここでなにを実験するんだ?」

 廃墟の中を進みながら、メイの背に後ろからサイガが問いかけた。そのまま質問を続ける。

「広場の入り口でも、移動しても出来る実験ということは、今この場で始めることも可能なんだろう?一体なにをするつもりなんだ?」

 メイが足を止めた。振り返ってサイガの目を見る。

「私がやりたい実験は、サイガあんたのことよ」

 勢いよく、メイがサイガを指差した。思わずサイガは一歩退いた。

「おれの実験、だと?」

「そう、私の予想ではサイガ、あんたは特異点よ。だから、あんたの周りでは行く先々で事件が起こるし、その善悪、大小を問わず他人の人生に変化をもたらす。あんたと一緒に旅をしてる二人がその言い例よ。私の今の境遇も含めてね」


 特異点。その世界の常識や法則を乱しゆがめる存在。メイは理解できずにいたセナとエィカにサイガのことをそう説明した。

 聞きなれない言葉に二人は理解できずにいたが、サイガとの出会いが自分達の運命の転換点だということをなんとなく飲み込んだ。


「私はサイガと出会ったことで、村を出るきっかけになった」

 とセナ。

「そして私は、奴隷から解放されました」

 エィカもサイガを見ながら思い返す。

「でしょ、サイガと出会ってから人生が変わって、それ以来、冒険の連続。影響受けっぱなしでしょ」

「それはわかったが、それで、仮におれが特異点として何の実験をするんだ?」

 メイの仮説に今だ懐疑的なまま、サイガは話をあわせた。

「特異点に、私の魔力で干渉する。そしてその確信を得る」


 メイの狙いはこうだ、特異点であるサイガに魔力で干渉し、発動を促し、停滞している現状を打破しようというものだ。

「ずいぶん強引なやり方だな」

「まぁね。でも、待ってるだけじゃ後手に回るだけだからさ、下手に犠牲者が出てから動くよりも、私たちが盾になったほうが事態の解決が早そうだからね」

 多少強引な手法ではあるが、メイなりの考えあっての行動。サイガはそれを後押しすることにした。


「わかった。では始めてくれ。しかし、干渉すると言っても、自覚の無いおれが何をすれば言い?」

「それは大丈夫。私の方からあんたの中に接触するから、いつも通りにしといて」

 そういうと、メイはサイガの胸に手をかざした。

 掌に魔力を集中させ、針のように尖らせると、胸の中央を貫く。巨大な心が響いた。サイガを中心に、振動とも魔力ともつかない波が広がった。

「・・・・・・」

 沈黙が続く。全員が固唾を呑んで見守っていた。

「なにも・・・おこらない?」

 エィカが沈黙に耐えかねて口を開いた。

「いや、どうやら仮説は当たりのようだ」

 サイガが何かを察知した。


 地面が動いた。

 舗装のタイルがめくりあがり、土が露出し裏返る。何かが地面の下から這い出してきた。それは、今のメイたちに因縁の深い死の眷属、骸骨のアンデッドだった。

「当たりも当たり、今一番欲しいのを引いちゃったみたいね」


 アンデッドたちは次から次へと湧き出てきた。その数、実に百を数える。サイガたちは囲まれてしまった。

「ちょ、ちょっと多すぎません?さっきの話だと、アンデッドには素材があるんですよね?」

 あまりのアンデッドの多さに、エィカが狼狽する。

「まぁ一応、原則はそうね。だから考えられるのは、ここがサルデスの勢力下でその魔力によって生まれたか、かつての戦死者が地下に埋められっぱなしか」

「もしくはその両方か。だな」

 メイが考えられる可能性を述べ、サイガがまとめた。それを合図に、セナとエィカがそれぞれ武器を構える。


「あ、大丈夫よ。これぐらいだったら、私一人で片付くわ」

 張り詰めた緊張の糸がメイの余裕の一言で一瞬にして切られた。

「下級のアンデッドなんて、百だろうが千だろうが、これで一撃よ『サークルボム』」

 メイが天に向かって右腕を伸ばし人指し指をかざした。

 赤い炎の輪が指の周りに発生した。メイを中心に炎の輪は瞬時に広がると、一気に全てのアンデッドたちを通過して消えた。

 メイが天に伸ばした掌を開いた。続いて「エクスプロージョン・エンドォ!」と叫ぶとその掌を力強い拳へと変えた。

 叫びの一声を受けて、メイの魔法が炸裂した。全てのアンデッドが同時に爆発し、粉微塵に砕け散った。


「すごーい」

「これは見事だな」

 セナもサイガも思わず感嘆の声を漏らす。

「でしょ。こういう豪快な仕事なら、六姫聖でも私が一番よ」

 粉塵を背にメイは自信満々に笑っていた。

読んでいただいてありがとうございます。

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