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第77話 「活人 タイラー・エッダランド」(ストーリー)

「が、学園長?な、なんでここに?」

「うむ、ティエリア先生から、実習に不審者が乱入したと知らせを受けてな。成敗しに参ったというわけだ。だが、どうやらその必要は無かったようだな」

 突然の学園長タイラーの登場に、メイは体を硬直させて素っ頓狂な声を上げた。

 タイラーはジョンブルジョンに歩み寄った。二百十センチの高みから息も絶え絶えの乱入者を見つめる。

「む、こやつ見覚えがあるぞ。四凶の一人だな」

 メイに続き、タイラーもジョンブルジョンの正体を言い当てた。裏の存在といえども、王の側近という立場は悪名とともに有識者に知られているのだ。

「王の側近が、何ゆえ学生の実習に乱入する必要がある?と問うてもこの状態では答えられんか。一旦、学園の地下牢に連れて行こう」

 かつて要塞だったワイトシェルには、その遺構がいたるところに残されている。学園の地下牢もその一つだ。


「それにしても、派手にやってくれたのう。あの美しかった森が見るも無残ではないか」

 森の惨状を見渡し、タイラーは嘆いた。

 数時間前までは生命力に溢れていた緑豊かな地が、今は木々は燃え尽き倒れ、地面は衝撃でめくれ上がって見渡す限りの凹凸となっている。

「このままにしてはおれんな。どれ・・・」

 タイラーは上着を脱ぐとメイに預け、荒れ果てた森に体を向けた。

「サイガ、すごいもの見れるわよ」

 メイに言われ、その広い背中にサイガは目を向ける。メイも期待を込めて見つめている。


 タイラーが大きく両脚を開いて腰を落とす。高い位置の頭がサイガの頭よりも下に来る。それほど足を開き、上半身を垂直に沈める。

 続いて、タイラーは右足を上げた。上げ続けた。水平、斜め上を通過し、完全に天を突く。地に付いた左足から天を突く右足まで、完全な一本の線になったと見間違えるほどに美しく見事だった。

「せやぁっ!」

 右足を固定した状態で数秒ののち、気合の声と共に右足が勢いよく地に下ろされた。足底が地面を叩き、人から発されたと思えないほどの轟音が響く。続いて、左足を上げると、右同様に地に下ろされる。

 高所から振り下ろされる左右の足。サイガはその所作に見覚えがあった。日本の伝統行事『相撲』の『四股』だ。

 再度、右の足が上げられ下ろされた。

 足裏が地を叩くと同時に接地部から激しい衝撃波が発生した。放射状に広がったそれは、波となって荒れ果てた森へ向かっていく。

「もういっちょう!」

 衝撃波が森の地を走り、地面をうねらせた。起伏に富んだ歪な形が波打ち、なだらかになる。

 また足が下ろされた。衝撃波が地表を走る。炭と化していた木々に当たるとそれを粉砕し、半端に焼かれた木からは患部を落とさせ砕く。タイラーは四股を踏むことで広範囲の整地を行ったのだ。

「まだまだぁ!」

 また足が下ろされた。今度の衝撃はこれまでのものとは違い、力強い印象を受けた。

 ならされ、整えられた地を衝撃波が走り抜けると、それまで以上の目を疑う現象が起こった。

 地からは草が生え、花が開く。木々は枝葉を伸ばし復活の兆しを見せる。


「こんなことが出来るとは・・・これも魔法か?」

 眼前で繰り広げられる衝撃的な光景に、サイガは思わず言葉を漏らす。

「学園長は魔法はあまり得意じゃないわ。これは『気』の加護の技よ」

「加護とは使いこなせばこんな奇跡のようなことが出来るのか。魔法以上だな」

「見ての通り、学園長は特別だからさ。瀕死の森に気を送り込んで復活させたりできるけど。他の人はどうかな?少なくとも私は他に見たこと無いわ」


「うむ、これだけやれば、数日もあれば自然の生命力でもとの姿に戻るだろう」

 完全に復元とはいかないが、森は荒れ果てた無残な姿から、整えられた状態となった。

 四股を踏み終えたタイラーが二人に向き直る。その姿は、太腿から下の生地は破れ、シャツは背が裂けており、衝撃のすさまじさを物語る。

「どうじゃ、面白い技であろう?これは、かつて知り合った旅人に教えてもらった『四股』という儀式で、邪気を払う効果があるということじゃ。そこにワシの気を合わせて、一気に汚された場を浄化してやったというわけじゃ。名づけて『活殺命衝』(かっさつめいしょう)」

「確かに、見事な芸当でした。しかし、せっかくのお召し物が台無しになってしまった」

「なに、服はまたあつらえればいい。美しい景観には変えられん。グァッハッハッハ」

 豪快に笑い飛ばして、タイラーはジョンブルジョンを担ぎ上げた。

「そして、あとはこの男の手当てじゃな。聞きたいことが山ほどあるからの。それじゃあ、ワシは先に戻っておるぞ。二人とも、今日はゆっくり休むがいい。では、さらばだ!」

 タイラーは深くかがみ力を溜めると、学園に向かって飛び上がった。一瞬で学園長の巨体が空に消える。魔法ではなく力で飛翔したのだ。

「やはり、何から何まで強烈だな」

「でしょ。あれが本気で怒ると凄い恐いんだから。私の気持ち理解してくれた?」

「ああ、なんとなくわかった気がするよ」

 タイラーを見送りながら笑いあうと、二人は学園に向けて歩き出した。



「おやおや、ジョンブルジョン殿。敗れた上に捕獲されるとは、情けない。陛下に顔向けできませんよ。ホッホッホ」

 タイラーに担がれながら学園に連行されるジョンブルジョン。それを離れた場所から望遠鏡で観察し、諜報員のギネーヴは四凶の失態を笑い飛ばした。

「助けたいのはやまやまですが、あのタイラー・エッダランドが近くにいたのでは、今は見送るしかありませんね。まぁ精々生き延びてください。私は私の仕事がございますので。ホッホッホ」

 ギネーヴがここワイトシェルに現れたのは、四凶の行動とは無関係。

 その目的は、一般から技術開発局に売り込まれた『人工生命体』の詳細の確認だった。そのために、ギネーヴはその提供者との接触のため、ワイトシェルに訪れていた。

「あなたの身柄は私の任務が終わり次第、救出してあげますよ。ホッホッホ」

 そう笑うと、ギネーヴは建物の影にその身を沈め、消した。



「お帰りなさい、サイガさん、メイさん。お怪我はありませんか?」

 学園に帰還した二人の下に、特選クラス担任のティエリアが駆け寄ってきた。二人の手をとり、その安否を気遣う。

「私は平気よ。不審者はサイガが倒してくれてたから。ね、サイガ」

 メイが振り向いて目線を送る。サイガもそれに応えて頷く。

「それよりも、生徒達に大事は無いか?特にパイロは人質として拘束されていた。錯乱してはいないか?」

「大丈夫ですよ。錯乱どころか、無事を確認してあるので先ほど全員自力で帰宅しました」

「そうか。ひとまず安心だな」

 ティエリアの報告を聞き、サイガは安堵の顔を見せる。

 こうして、メイ・カルナックの研修、サイガの潜入捜査の一日目が激動ののち終わりを迎えた。

読んでいただいてありがとうございます。

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