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第75話 「科学と魔法」(バトル)

「調子に乗ってくれるじゃねぇか。お望みどおりこの腕の威力を味わわせてやるよ!」

 心中で暴れ回る怒りの獣を解き放ち、ジョンブルジョンはその両義手の真価を発動させた。サイガに両腕を向けると十本の指先全てを発射する。

「指のミサイルか。サイボーグの定番だな」

 前進しながら、サイガはミサイルを正面から両断した。通過した後方で二十の爆発が起こる。爆風が疾走するサイガを後押しした。

 急速に迫り来る黒い殺意を、ジョンブルジョンは踵から炎を噴出させて後方に避難した。忍者刀が空を切る。

 二人の間に、鋼鉄の爪先から数個の黒い球が放り出された。玉が弾け、一瞬だけ電撃がサイガに向けて発生した。体を麻痺させる地からの雷が体を通過する。

「迂闊に近づくからそんな目にあうんだよ!」

 感電により硬直したサイガの頭へ目がけて、鋼鉄の手刀が振り下ろされる。ジョンブルジョンは勝利を確信する。

「迂闊なのはお前だ」

「何!?」

 硬直しているはずのサイガが反論し縦に回転する。後方宙返りの勢いを利用した蹴り上げで、命を狙う一撃を弾き返した。

「馬鹿な、何故動ける!?」

「絶縁性と耐熱性を兼ね備えた装束だ。雷も熱も通さん」

 着地の後、間をおかずに、サイガの蹴りがジョンブルジョンにマント越しに突き刺さった。

 蹴撃の連打は止まらない。左胸、みぞおち、下腹部、右脇腹、左大腿部。最後に左から右への後ろ廻し蹴りが顎を通過した。そこに金属の感触は無い。

「四肢以外は生身のようだな。ならばそこを重点的に攻める!」

 右の肘が顔面に打ち込まれ、ジョンブルジョンの崩れた体制を中央へ押し戻す。すかさず左の掌底が下から顎を突き上げる。左右上下に揺り動かされる頭部につられ、両脚がわずかに地を離れた。

 突き上げられた勢いでジョンブルジョンの顎は上を向き、首ががら空きとなった。開いた首元に再度、忍者刀が滑り込む。

 だが、刃はまたしても空を切った。ジョンブルジョンは掌と踵から同時に炎を噴出し上空へ避難したのだ。

「あれだけくらって逃げる正気を保つか。流石にしぶといな。側近の実力か」

 逃避の上昇を見送りながらサイガは呟いた。


「くそったれぇ、やってくれたな!」

 上空で静止して、鼻と口から血を流しながらサイガを見下ろし、ジョンブルジョンは怒鳴った。

「きさまぁ、五体満足で捕獲してもらえると思うなよ。どうせ魔法で回復できる、瀕死にして引きずっていってやるぜ!」

 怒りに任せた勢いのまま、ジョンブルジョンはマントを払った。マントにも魔力で操作できる機構があるのか、たなびくことなく背中で収束する。マントは二枚の翼のように形を作ると、ジョンブルジョンの姿が露になった。

 その姿は王の側近らしく軍服に包まれていた。黒の生地の左胸におびただしい数の銀色の勲章が光る。

「これが見えるか!?」

 ジョンブルジョンは左右の手の甲をサイガにかざして見せた。その右には炎、左には風の魔法珠が装着されていた。

「あれは魔法珠か。ということは・・・」

「そうだ!私の腕は魔法珠を装填して、魔法を増幅して撃ち出せる!いくぞ!」

 左右の掌を組み合わせ、ジョンブルジョンは腕をサイガに向けた。その構えは砲台のようだった。

「炎と風の複合魔法、ファイアストームだ!」

 火炎の竜巻がサイガに向かって発射された。自然の法則に逆らい降下する炎は紅蓮の大蛇となってうねり襲い掛かる。

 サイガは素早く炎を回避した。無人の地面に炎の蛇が到達する。

 激しい炎と強い風。そして森。延焼の条件が満たされ、瞬く間に辺りは炎に包まれた。周囲が赤に染まる。

「やれやれ、また炎か。おれはおれで、良くない神にでも魅入られているのかもしれんな」


「避けたか!だがそれで終わりじゃないぞ!それ!それ!それ!」

 連続して炎の竜巻が放たれた。上空からの攻撃はサイガから反撃の機会を奪う。

「このままでは防戦一方だな。少し行動を変化させるか」

 かく乱のために走り回りながら、サイガは次の行動に出た。ジョンブルジョンに向かって走りながらクナイを投じる。

 下る炎の渦を尻目にクナイは上空を目指して直進する。しかし、ジョンブルジョンは首をかしげると、余裕を持ってそれを回避した。

「苦し紛れだな!かすりもせんぞ!」

 再びサイガが何かを投じた。

「学習せんやつだな!無駄だ!・・・っ!?」

 言い放って、ジョンブルジョンは気付いた。サイガが投じたものはクナイではなく泥で出来た玉だったのだ。

 サイガは炎の竜巻を避けつつ、土を拾い、持参した水筒の水と合わせ泥団子を作っていた。

 ジョンブルジョンに近づいたところで、泥団子の中に仕込まれていた炸薬が爆ぜた。だが、威力は低く、殺傷能力は無い。目的は攻撃ではないのだ。

 散った泥がジョンブルジョンの全身に浴びせられた。

「く、小ざかしい。目くらましのつもりか?」

 顔についた泥をぬぐいつつ、ジョンブルジョンは下方のサイガを睨みつけた。

 サイガは立ち止まって、ジョンブルジョンを見て笑っていた。ジョンブルジョンを指差し、次に左胸を指で叩く。「見てみろ」という合図だ。

「何?胸だと?・・・こ、これは・・・!」

 誘導され、ジョンブルジョンが目を向けた先には、泥にまみれた勲章があった。銀の光沢は泥の茶色に濁されている。

「く、勲章が・・・陛下に賜った、大切な勲章が・・・私の名誉が・・・」

 サイガの狙いは勲章だった。忠誠を誓う王より賜ったものとなれば、そこに手を出せば怒りを引き出すのは容易だと踏んだのだ。

 案の定、勲章を汚されたジョンブルジョンは怒髪、天を衝く。

「てめぇえええ!よくも、勲章を!その不敬、命で償えええええ!」



 サイガとジョンブルジョンが激闘を繰り広げている頃、実習の開始地点では、事態の急変を感じ取ったメイとティエリアが生徒達の安全を確保するためにあわただしく動いていた。

「ティエアリア先生、全員揃った?」

「はい、サイガさんの向かった方面から帰ってきた子達で全員です。三十人揃いました」

「体調はどうかな、怪我とかしてない?」

 不測の事態にメイは生徒達の身を案じ、ティエリアに尋ねた。

「確認します」

 そう言い、まっすぐとした目で頷くと、ティエリアは両腕を広げた。

 腕の間に三十枚の半透明のウィンドウが浮かび上がった。個々のウィンドウには小さな文字で一人一人の生徒の情報が記載されている。

 三十枚のウィンドウが散開し、全ての生徒達の前に一枚一枚浮かぶ。

 ウィンドウが生徒の体に入り、通過した。通過したウィンドウはティエリアの前に集合する。

 ティエリアが発動させたのは解析魔法であり、個人情報が記載されたウィンドウが体を通過することにより、状態の前後の差を把握することが出来る魔法なのだ。三十人分の情報を一括に処理するだけの能力をティエリアは有していた。

「・・・うん、うん、うん・・・目立った怪我、異常はありませんね。隠れた症状もなし。全員問題ありません!」

 数秒で生徒達全ての状態のすりあわせを終え、メイに報告する。

「それじゃあ、学園に避難するわよ。みんな、私の周りに集まって」

「待ってください、メイさん。学園への避難だけなら、私の帰還魔法で一度に全員帰還できます。メイさんはサイガさんの応援に行ってください」

 ティエリアの申し出に、一瞬間を置いてメイが頷いた。

 言葉を交わす必要も無く、二人は己の役目を実行した。メイは戦いの場へ飛び、ティエリアは生徒達を連れ空へと離脱した。

読んでいただいてありがとうございます。

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