第70話 「活動方針」(ストーリー)
この日、学園都市ワイトシェルの冒険者ギルドにどよめきが起こった。六姫聖の一人、魔炎メイ・カルナックが扉を開け、その姿を現したのだ。
赤い髪に紅いローブを纏い、前をわずか広げて収まりきれない胸を出す。衣服は戦闘服と反して露出は控えめになっており、静謐さを装っていた。
「黒い装束に頬に傷、金鎚を持った女とエルフの娘の一行。あなたがサイガね」
騒ぐ野次馬達を尻目に、メイは一つのテーブルの前に立ち、そこにいる男に声をかけた。そこにいたのは姫から名指しでの依頼を受けたサイガだった。
「ナルから話は聞いていると思うけど、今回一緒に任務に就くことになった六姫聖のメイ・カルナックよ。よろしくね」
自信に満ち溢れた明るい笑みを浮かべ、メイは自己紹介をした。
「ああ、よろしく。サイガだ。そしてこっちが」
「セナです。お会いできて光栄です」
「エィカです」
三人も自己紹介を済ませると、メイはギルドの職員に依頼内容確認のための部屋を用意させた。四人はそろって奥の部屋へと通された。
「先日は恥ずかしいところ見せちゃったわね。ごめんなさい。あなた達のおかげで助かったわ。ありがとう」
個室に入ったところでメイは三人に礼を述べた。ナルに対しての時とは違い、恭しいその態度に、言葉遣いとは裏腹に公人としての礼節が見える。
「いや、冒険者として依頼をこなしただけだ。感謝されるほどではない」
「頼もしいわね。やっぱりそれくらい言ってくれなきゃ、私の任務の相棒は務まらないわ」
豪快に笑いながらメイはテーブルに着いた。向かいに三人が並んで座る。
「早速本題に入るわね。先日私にとり憑いていた、邪神サルデスを崇拝する『宗教団体シアン』とやらがこの学園都市に潜伏しているとの情報があるの。そして姫様からの命は、その宗教団体の発見と教主の逮捕。罪状は、邪神の封を解いて国内に無用な混乱を招くおそれのあった、国家内乱罪容疑。一歩間違っていれば、この都市丸ごと全滅しかねない大悪事よ」
テーブルの上に一枚の紙が置かれた。宗教団体シアンに関する資料だ。サイガが手に取り目を通す。
『教主、不明。発足次期、不明。規模、不明。 邪神サルデスを信仰の対象とする団体。教義は、死による救済。死の祝福。サルデスの再臨』
「不明、不明、不明。つまり、ほとんど何も解らないというわけか」
資料から目を離し、正面のメイを見る。
「そういうこと。だから、こいつらを逮捕するには、集会もしくは神の復活の儀式中に現行犯で捕らえるしかないわ」
人物、場所、時間。何一つ情報のない雲を掴むような話に、メイは顔を曇らせる。
「教主が特定できないのであれば、状況証拠でしか逮捕に踏み切れない。かなり難しいな。だが、手がかりがありそうな場所が一つある」
「手がかり?どういうこと?」
「おれが異界人であることは、既にリンなどから伝え聞いてると思うが、その世界では宗教団体は学生を多く勧誘することで規模を拡大していた」
「学生を?」
「そうだ。学生は人生経験が浅い、そこに目新しい価値観や宗教観が現れたとき、若者は即座に傾倒する。超常現象、教主のカリスマ性、宇宙すら語る広大な宗教観。そこに若者達は酔狂し、狂信者と化していく」
「なるほどね。無垢を染め上げれば、下手に知恵のある大人を捕まえるより手っ取り早いか。それに、若い連中って仲間意識が強いからね。一人捕まえられれば、芋づる式に数が増やせるって寸法ね」
口に手を当て、メイは頭の中で考えをめぐらせた。
「そうなると、捜索の範囲を都市と学園に分けた方がよさそうね。サイガ、あなたは私と一緒に、学園に潜入してもらうわ。そしてセナ、エィカ。二人は市中で観光客を装って、調査をして。聞いている話の通りなら、そこら辺の冒険者よりよっぽど腕が立つらしいじゃない。頼りにしてるわよ」
「はい、お任せください」
六姫聖に信頼をおかれ、セナが元気に返事をする。
「では早速、明日から調査を行うわ。サイガ、あなたは私と共に学園へ。セナ、エィカは市中の調査をお願い。ここは学園都市だけあって、若い子向けの施設がたくさんあるわ。観光客のふりをするにはうってつけよ。調査がてら、そっちも楽しんで頂戴」
「は、はい。ありがとうございます」
セナとエィカは声をそろえて礼を述べた。
こうして、四人は一旦解散した。
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