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第67話 「それが六姫聖というものだ」(バトル)

 臨戦態勢が整ったサイガとナルめがけて、メイは空中から突進を開始する。

 その最中、穂先から柄まで全体が炎で形成された槍を逆さに持ち替え、全力で『ナパームスピア』を投擲した。

 着弾と同時に半球状の炎が発生し、天に届くほどの爆発が起こる。

 続いて二本目のスピアを投じたが、それはナルのハチカンによる精密砲撃で迎え撃たれ、凍結し砕けた。


 攻撃の失敗を見届けながら、メイは前傾姿勢のままサイガの眼前の地面に飛び込んだ。『ボルケーノダイブ』の高温で地面が融解し、マグマ溜りと化す。

 突然発生した溶岩の池にサイガは足を止める。

 静寂が訪れた。池には波紋も起こらず、メイは気配を消していた。

「なんだ、この戦法は?溶岩の池に身を潜めるなど、次の手の見当が付かんぞ」

 サイガは、他の人間には到底真似できない未知の手段に心が乱れた。

 前段が未知となるなら、当然本題も未知となる。サイガは気を張り詰め、メイの気配を探った。

「サイガ、下だ!」

 ナルの緊迫した声がサイガに届いた。

 直後、足元が膨張し、亀裂が走る。

 亀裂からマグマの赤い飛沫が舞い上がった。それに続き、二本の手がサイガの足に掴みかかった。メイは地中を溶かしながら進み、サイガの真下に回り込んだのだ。

 メイの両手が空を掴んだ。しかしそこにサイガの姿はない。サイガは手の出現と同時に前方への回避を完了していた。


 「がぁ!」と怒りを含んだ声を上げながら、サイガへの追撃のためにメイがマグマから飛び出した。

「それを待っていた!くらえ!」

 狙い済ましたナルの砲撃がメイを背後から襲う。

 対象を絶対零度と化し、一切の活動を奪う『ココバル弾』だ。

 凝縮された魔力で生まれた対極の力の砲弾は、周囲を凍らせながら熱を進行方向側に押しやる。

 ココバル弾が炎を宿す背に着弾した。その瞬間、強烈な爆発が発生した。

 高すぎる熱気の魔力と低すぎる冷気の魔力が衝突し、反発して大きく爆ぜたのだ。

 メイの体が、前に向かって大きく宙を舞った。両手両脚からは、気を失ったのか力が抜けている。

 体が無抵抗のまま地面に落ちた。指一つ動かない。

 様子を伺うために、少し時間を置いてサイガとナルはメイに近づいた。

「まったく、てこずらせてくれる。だが、流石にあれを喰らったら、こいつの異常な魔力量でも相殺できなかったようだ。それに、この痴女じみた格好も、私達に味方したな」

 動かない同僚を見下ろしながらナルは感想を述べた。

「たしかに、これだけ肌が露出していれば、衝撃を逃がす方法はないな。しかし凄い格好だな」

 メイの戦闘服は局部だけがかろうじて隠れているだけの、ほぼ当て布のような形状だ。サイガはなるべく直視しないようわずかに視線をずらしている。


 後方で支援のために身構えていたセナたちが、毛布を手に駆け寄ってきた。メイの体を包み保護する。

「う・・・う・・・」

 メイが唸った。ナルはしゃがみこんでその顔を覗き込む。

「・・・生きているな。殺すつもりで撃ったんだが」

「え?こ、殺すつもりって、そんな、同じ六姫聖なのにですか?」

 ナルの言葉に、エィカは思わず問う。ナルは視線を外さず真顔で応えた。

「ああ、我ら六姫聖は姫への忠誠を誓う。そんな我らの失態は、姫の名に泥を塗る。魔に憑かれて我を失うなど言語道断だ。そんな恥を晒すぐらいなら我らは高潔なる死を選ぶ。自らその命が絶てぬのなら、せめて同胞の手で。六姫聖とはそういうものだ」

 冷静に言ってのけるナルにセナたちは言葉を失うが、サイガだけは同意し頷いていた。


「?なんだ、この匂いは?」

 メイを搬送するための救護班が駆け寄ってくる。その到着を待つサイガが、わずかに何かが焦げるような匂いを嗅ぎ取った。

 目線を匂いの元、下方、メイへと移す。

 メイをくるむ毛布から、わずかに煙が上がっていた。

 サイガの脳裏に最悪の未来図が浮かび、目から全身にかけて悪寒が駆け巡る。

 ナルを見た。ナルも同じ反応をしていた。

「離れ・・・」

 二人は同時に警告の言葉を発しようとしたが、その終わりを待たずメイから炎の柱が立ち上がった。

 メイの中の魔が目を覚まし、奇襲を仕掛けたのだ。

 それにいち早く対応したのはナルだった。瞬時に氷の厚壁を出現させて付近の全員を守ったのだ。

 一瞬よりも短い衝突の後、炎柱と氷壁は空に散った。二人の魔力は互角だった。

 メイが立ち上がった。背にうけた苦痛のためか、顔は怒りで歪んでいた。

「まだ払えていなかったか」

 距離をとって、ナルは至近距離用の形態に変わったハチカンを構えなおす。

 サイガが横に並んで、二人はメイと対峙した。


 向かい合ってみて、ナルはあることに気付いた。メイは怒りの顔の中で、わずかに笑っていたのだ。

「メイ・・・キサマ」

 美しい眉間にしわが寄り、紅い唇から音を立ててため息が吐かれる。

「サイガ、どうやら、あいつに気遣いは無用のようだ。二人がかりで完全に殺す気でやるぞ」

「ど、どうした、急に?」

 突如、呆れと怒りの入り混じった感情を露にしだしたナルに、サイガは尋ねる。

「あいつ、戦いを楽しんでいる。自我を乗っ取られたための本能的な行動かもしれないが、この状況に任せて己の欲求を満たしているんだ」

「なるほど。だから、積極的に強いおれたちの方を狙っているのか。しかし、リンといい彼女といい、六姫聖は好戦的な人物ばかりだな」

「ふ・・・否定は出来んな。かくいう私も、普段は味わえない緊張感に悦びと期待で身を震わせている」

 氷の魔力の波動が、ナルのドレスを激しくはためかせる。手負いの怪物を前に、美の象徴の姿は一層の美しさを増した。

読んでいただいてありがとうございます。

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