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第66話 「氷炎の舞」(バトル)

 赤く染まった遠方の空に浮かぶ黒点が、徐々に形を明らかにしていく。

 青天を炎で埋め尽くした主であるメイ・カルナックが捜索隊の一団に急接近してきたのだ。その姿は、浄化を目的としたイグニフォームではなく、敵の殲滅を目的とした超攻撃型形態ナタクフォームとなっていた。

 魔道士たちが氷魔法で氷壁を展開した。同時に牽制として氷塊を叩きつける魔法『殴り礫』を発動する。

 捜索隊に接近してきたメイが氷を見て停止した。右手を開いてかざし、正面に指を向ける。五本の指に炎が宿る。

 全ての指の炎が前方に発射された。さらに、炎は拡散し氷を溶かしながら捜索隊に降り注いだ。広範囲の敵を殲滅する『マグマスプレー』だ。

 迫る火炎の驟雨を魔道士たちが同時詠唱で発動させた『氷の天蓋』がかろうじて防ぐ。


 無効化された己の魔法を見て、メイが獣のような唸り声を上げた。

 歯をむき出し、よだれを垂れ流しなが威嚇をするその姿には理性のかけらも見られない。

 ここで、一つの懸念が確信に変わった。メイは自身の意思ではなく、自我を失い攻撃を仕掛けているのだ。

「やはりサルデスとやらの支配下にあるのか?隊長殿、戦闘力の低いものを下げてくれ。おれが攻撃をひきつける」

「うむ、わかった。我々は支援に回らせてもらう。魔道士及び下級、中級の冒険者は下がれ!出来る限りメイ様の炎を相殺しろ!」

 隊長の命を受けて、捜索隊の大半の人員が後方へ下がった。残ったのはサイガ、セナ、エィカ、フィーリア。そして、フードの謎の人物だ。

「ちょっと、あなた。危険よ下がりなさい」

 フードの人物にフィーリアが後退を勧告する。だが、人物はコートの奥から片手を差し出すと、人差し指を立てて左右に振った。心配無用の合図だ。そして、その指は女性のもので、長く美しく優雅な動きを見せた。


 メイが再び唸り声を発した。眼前に立つサイガたちに敵対の意思を見出したのだ。

「がぁぁ!燃え、つきろぉおおおおお!」

 むき出しの殺意を言葉に込めて、メイは両手を天に掲げた。頭上に巨大な火球が発生し、周囲の温度をさらに上昇させる。

「ええ?なにあの大きさ?避けようがないわよ」

 フィーリアは動揺して、頭の中で続けていた魔法の詠唱を途切れさせた。どんな魔法であろうが、焼け石に水であると絶望させてしまう。それだけ圧倒的な大きさだったのだ。

 唯一の対抗法だと思われていたフィーリアの魔法が無意味なものと理解し、セナとエィカも絶望に沈黙する。

「死ねぇえええええ!」

 全身を使い、メイは超大型の火球『ブレイズボール』を放った。

 高熱が周囲の空気を歪ませ、熱波が肌と地表から水分を奪う。

「だ、だめ。逃げられない・・・し、死ぬ・・・」

 命に迫る恐怖のあまり、フィーリアは身を身を縮めて震え上がる。

 サイガ、セナ、エィカは諦めずに、着弾までの数秒までの間に対策をめぐらせる。

「いやぁあああああ!こんなところで死にたくなぁぁい!」

 フィーリアは涙を流し絶叫する。

 サイガが懐に両手を伸ばした。その手には収まりきれないほどの氷の魔法を封じた魔法珠があった。もてる全ての氷を魔法を解き放ち、起死回生の一手を打つ狙いだ。

 

 しかし、寸前でサイガはその動きを止めた。

 火球に向かって、氷の魔法珠を投じようとしたとき、サイガと火球の間にフードの人物が割って入ったのだ。

「なんのつもりだ!邪魔をする・・・な・・・」

 人物が姿を覆っていたものを全て捨て去ると、その姿にサイガの怒鳴りは静かに消失した。

 サイガの眼前にたつ人物。それは、後姿でもわかるほど、目を疑い声を失うほどの美しさの女だったのだ。

 熱波に吹かれ波打つ髪は、絹糸をたらしたように滑らかな艶と一色の黒。高い身長と均衡の取れた長い足。華奢ではあるが女性的な曲線がしっかりと強調された体型。

 稀代の芸術家がその命全てを捧げて彫り上げた渾身の一作。持ちえる技術と美的感覚を集結させた美の集大成。

 あらゆる芸術を置き去りにするほどの美しさを、その後姿は物語っていた。

 サイガはその人物に見覚えがあった。ルゼリオ王国一の美貌を誇る美の化身。六姫聖ナル・ユリシーズだ。

「サイガ!呆けるな!私の美しさに見とれている場合ではないぞ!」

「な、ナル殿。なぜここに?」

「話は後だ。今はあの玉を打ち落とす」

 ナルの脇の下に大砲が現れた。氷の弾丸を打ち出す魔法の大筒『ハチカン』だ。

「セアッタ弾装填!」

 ハチカンにナルが魔力を送り、砲弾を装填する。戦闘用ドレスのスカート部がアンカーとなって地面に突き刺さり、反動にそなえた。

 砲身に魔力がいきわたり、氷魔法の光を発する。魔法弾発射の準備が整った。

「連続速射砲セアッタ弾!発射!」

 ハチカンの砲口から無数の弾が撃ち出された。

 セアッタ弾。射程は短いが連続の速射を可能とする。その数、一分間に約一万。

 氷の細弾は、ブレイズボールを正面から休むことなく迎え撃ち続けた。


 炎と氷が空中で激突した。一進一退。わずかに押してはわずかに返す。魔法の攻防は拮抗し、静止しているようにも見えた。

 互いに喰らい付き合い、そしてブレイズボールとセアッタ弾は同時に消滅した。一分が経過したのだ。

「ぐぅううう!ナルゥうううう!」

 ナルの姿を認識し、メイは狙いをナルへと向けた。現状で一番の敵と判断したのだろう。

 ナタクフォームが形を変えた。鎧のように体の一部を纏っていた炎が掌に集まり、二本の槍と化した。遠距離から接近戦へと戦闘方法を変更する。

「降りてくるぞ。いいかサイガ、メイは今、二つの理由で本来の力が出せていない。今程度の炎なら私の氷魔法で中和できる。その隙を突いて、君がメイを仕留めてくれ」

「了解した。少々野蛮な手だが、眠ってもらうとしよう」

 あたり一面を熱気で包む炎があの程度というナルの分析に、メイの魔力がいかほどのものか、魔力を持ち合わせていないサイガでも察することが出来た。

「よかったな、本調子だったら私共々、みんな燃やし尽くされていたぞ」

 サイガの心の中を読んだようなナルの一言は、サイガの気を引き締めさせた。

読んでいただいてありがとうございます。

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