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第65話 「青天を焼き尽くす」(ストーリー)

 死の谷でメイ・カルナックと生と死を司る神サルデスとの死闘が繰り広げられてから三日後。

 死の谷の南方十キロの地点を、サイガ一行とクロストで共闘した上級冒険者の魔道士フィーリアを含む冒険者二十名の一団が死の谷へ向かって北上していた。一団の目的は、谷での戦闘後、音信不通となったメイ・カルナックの捜索及び保護だ。


 谷での戦いの際にメイに命を救われたシュミットは、休みなく走り続け、翌日早朝に学園都市ワイトシェルに到着。着くや否や事態の報告とメイの救援を要請した。

 知らせを受けた公的機関はギルド協会と連携し、救援のための人員をただちに募った。

 そこに偶然居合わせたのが、路銀を稼ぐためにギルドを訪れていた上級冒険者の魔術師フィーリアで、高額の報酬とギルドへのアピールのために飛びつてきた。

 さらにフィーリアは成功率を高めるために、同じように路銀を稼ぎにきていたサイガ一行を推薦し巻き込んだのだ。

 フィーリアは口八丁で捜索隊の隊長にサイガを売り込むと、あれよあれよという間にサイガの加入の許可を取りつけた。

「結局、参加させられてしまったか。まぁ、こっちの方が報酬も高いからな。出来る限り速く終わらせていただくとしよう。それに・・・」

「それに?」

 サイガの呟きにフィーリアが問う。

「六姫聖を救えば、姫への覚えもいいだろう」

「そういうこと。考えてることは私と同じだね。クロストでのあなたの戦いぶりを見る限り、成功間違い無しだよ。ふふふ・・・六姫聖を救ったなんて、どれぐらいの貢献度になるだろうね?これで特級にまた近づけるよ」

 サイガの腕に飛びつきながら、フィーリアは隠すことなく上機嫌に思惑と欲望を口にした。

 同感するようなことを言いながら、サイガの狙いはフィーリアとは少し違っていた。東を目指して進むにあたり、先日のクロストに入る際の足止めのような事態は避けたい。そのためには冒険者としての等級は上であるにこしたことはない。

 実力は申し分ないのは既に証明済み。あとは貢献度や成果。そう考えたとき、姫直下の六姫聖に関わる案件は願ってもないことだったのだ。

「君の魔法またあてにさせてもらうよ」

「ええ、まかせて」

 とはいうものの心中を露骨に表す言動に、下手に体面を取り繕うより余程信用が出来る。と、サイガは裏表のないフィーリアへ心を開いていた。

 サイガは気付いていなかったが、この間、セナとエィカは終始機嫌が悪かった。



 北に向かって一時間ほど歩いたところで、セナが近づいてきた。顔を近づけると前方の一人の人物を指差す。

「なぁサイガ」

「なんだ?何か気になることがあるのか?」

 セナが指差したのは、全身をマントとフードで覆った、人種年齢性別と何一つ判断がつかない人物だった。何かどころか、気になる部分しかない。

「あいつ、怪しすぎないか?」

「確かに、正体がわからない者と行動を共にするのは不安が残るな」

 サイガはフードの人物を見据えた。神経を針のように尖らせると、わずかな殺気を後姿に飛ばした。謎の人物の正体を探ろうとしたのだ。

 そのわずかな殺気に、気付かなければ捨て置き、気付けば警戒の対象として観察しようと考えていた。

 目には見えない殺意の針がフードに届こうとした寸前、殺気がはじけて消えた。

「!!殺気が消えた?いや、消された?」

 心の中でサイガは、目の前で起こった現象を考察した。だが、あまりにも少ない手がかりは考えを頓挫させる。

「どうしたんだい?」

 消えた殺気に、サイガがわずかに見せた反応に気付き、セナが耳元で問いかけてきた。

「いや、なんでもない。どうやら警戒する相手ではないようだ。気にせず進もう」

 強引に誤魔化し、サイガはこの話題を終えた。



 さらに北に向かって一時間ほど歩いたところで、皆があることに気付いた。水の消費量が増えていたのだ。

 これまでは数十分に一口、口をつけていれば充分だった水分補給が次第に数分ごとになり、今では空になるまで飲み干していた。

 その原因は温度だった。北に進むにつれ、周囲の気温が上昇しているのだ。

「これは一体どういうことだ?あまりに熱すぎるぞ。魔道士のみんな、風と氷の魔法で対応してくれ」

 隊長の男の指示で、風と氷の複合魔法の『すずしい風』が一団を熱気から救った。バテ気味だった一団に活気が戻る。


「お、おい!あれなんだ!?」

 一団の一人が北の空を指差して叫んだ。全員の視線が空の一箇所に集中する。そして恐怖のあまり絶句した。

 北の空は赤く染まっていた。だが時間はまだ昼間、夕焼けには早い。その正体は炎だった。

 燃え盛る火炎が空いっぱいに広がり、見える限りの範囲を埋め尽くしていた。空が三に炎が七、一団の目に映る光景だった。

「空が燃えてる・・・」

「ま、まさかドラゴンか?」

「いや、ドラゴンでもあんな真似できないぞ」

「この熱気もあれが原因か?」

「おい、逃げよう。あんなので焼かれたら死ぬぞ」

 一団の面々から口々に絶望を示唆する声が聞こえてきた。不安と恐怖が波紋のように広がる。

 そんな中、冷静な人物もいた。サイガ、セナ、エィカ、フィーリア、そして隊長とフードの人物だ。

 隊長は原因究明のため望遠鏡を覗く。そして今度こそ絶望する。

 空を支配する炎の中心、わずかに見える黒い点を観察し、隊長は身を硬直させて呟いた。

「め、メイ様だ・・・メイ様がこっちに向かってきている・・・」

「え?捜索対象が向こうから来てくれているの?じゃあ、無事だったってこと?・・・ってそんなわけないわよね」

 フィーリアは能天気な結論を自ら否定した。気温すら変化させるこの異常事態に、『無事』等という言葉はあまりにもふさわしくないのだ。

「ああ、明らかに様子がおかしい。こちらを認識しているようだが、一向に炎を収める気配もなければ、むしろ加速している」

 メイの尋常ならざる様子に、隊長の脳裏に、シュミットの報告にあった『サルデスがメイを狙っていた』という文言が浮かんだ。つまり、現在のメイの状態はサルデスの支配下にあるということが疑われた。

「総員、戦闘準備!くるぞ、魔法部隊は氷魔法で炎を中和しろ!相手は六姫聖だ。最初から全力で放て!」

 隊長の命を受け、一団は動き出した。

 どんな魔物と戦うよりも絶望的な一戦が幕を開けた。

読んでいただいてありがとうございます。

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