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第62話 「悪しき思惑」(ストーリー)

 サイガ一行が東を目指し旅立った頃、ルゼリオ王国南東部に位置する首都フォレスの王城の謁見の間には国王テンペリオスが玉座に座していた。

 その正面には玉座から扉まで縦に長いテーブル。そこには三人の男がテーブルを挟んで座っていた。

 王の側から『軍事統括局長ハンニバル・ダムド』。

 その扉側の斜向かいに『技術研究開発局長ドクターウィル』。

 さらにその斜向かいに『異界人管理局長オーリン・ハーク』。

 王の野望を支える三人の長官だ。


「皆様、おそろいですね。それではこの度、クロストで行われました兵器検体六号の実験結果を報告させていただきます」

 王と局長三人の間に先日までクロストで暗躍していたギネーヴが立ち、魔法で宙に現れた画面に映像を映し出す。そこに映っているのはギドンが変貌したキラーアントの姿だった。

「今回の実験、キラーアントの持つ従属性を人間に植え付けることにより、集団戦闘においての意思の疎通、伝達の向上を目的としたものでした。そのため、親となる人物を定め、その元に集った人間にキラーアントの成分を投与いたしました。その際の基準としては、子となる人間には出来る限り知能が低いことが求めれたため、冒険者を被験の対象といたしました」

 ギドンの画像の下にアントに変貌した冒険者達の画像が現れ、それを感情のない物言いでギネーヴは報告する。

「んで、そこに映っとるデカいのはなんじゃ?この報告書にはクイーンの髄液を投与したのはギドンっちゅう成金って書いとるが、ずいぶん育っとるようじゃが、何が起こったんじゃ?」

 ギネーヴの報告に技術研究開発局長ドクターウィルが問いかけた。この実験結果を元に兵器、道具の開発を行うのがこの老人の職務なのだ。当然、人間が巨大化したなどという結果は、疑問を挟まざるを得ない。

「それに関しましては、持ち帰ったギドンの脳を解析しての詳細な報告を待つことになりますが、現場で観察しておりました私の印象では、市長への恨みや執着を口にするたびにその体は肥大し、それにともなって多くの人間を食しておりました」

「ふむ・・・心理が肉体に作用しておるのか?こいつぁ脳を開くのが楽しみじゃな」

 回収された土産にドクターウィルが上機嫌になる。

 ギネーヴは報告を再開した。


「従属性に関しましては、非常に強い関係が築かれました。子となった冒険者達は自我が崩壊しましたが、主のために餌となって命を投げ出すほどの忠誠心を確認しております。これは戦場においての戦術の精度、純度を高めるでしょう」

 この報告には軍事統括局長ハンニバル・ダムドが蓄えた立派な白髭をさすりながら問う。

「子となった冒険者達の人格と技術はどうなった?指令には忠実だが、錬度が下がり雑兵に成り下がってはアントと変わらんぞ」

「それに関してはご安心を。次のページに記載のありますゲーツという個体は、人間とアントの両方の長所を併せ持っております。これを解析すれば、個々の経験を損なわずにアントの耐久、腕力を上乗せを期待できます」

「強靭な力と技を持ち、命令にも忠実か。ぐふふ・・・理想の兵士ではないか。ギネーヴよ、もう少し詳しく教えてくれ」

「はい、このゲーツという個体、欲への執着が人一倍でした。それも元の人間性を保てた要因かもしれません」

「ほう、ならば、自我や精神の強い兵はさらに強化が望めるかもしれんな。これは楽しみだ。ガッハッハ」

 錬兵の明るい展望にハンニバル・ダムドは膝を叩いて喜んだ。

「おい、ハンニバルよ。そのための解析を行うのはワシらの開発局じゃぞ。軽く言ってくれるなよ」

「ガッハッハ、まぁいいではないか。そのための治験の兵も言う分だけ提供してやる。好きなだけ試行をするがいい」

 ドクターウィルが浮かれるハンニバルに釘を刺すが、即座に交換条件を提示した。

 ハンニバルはたたき上げの軍人で王に強い忠誠心をもつ。そのため、国の発展ともなれば、細かな考えを捨てた行動を起こすのだ。兵の命を軽くとらえた発言はそこからきている。


「精神の強さが兵の強さに直結するなら、ハンニバル、お前がさんが真っ先になっちまったらどうだ?そうなったら、昔みたいに好きなだけ戦場で暴れられるぞ。のう?」

 皮肉交じりにハンニバルに提案のするのは異界人管理局のオーリン・ハークだ。頬杖をつきながらハンニバルに送る視線にも皮肉を込める。

「ガッハッハ、それも面白いな。ワシ一人で蹂躙するのも面白そうだ」

 皮肉の通じない反応に「フッ」笑い、オーリン・ハークはギネーヴに視線を移す。

「では私の番だな。この報告書には『異界人が確認できた』とあるが、そいつの映像を見せてくれるかな」

「はい。こちらをご覧ください。この男、名をサイガと申します」

 ギネーヴがギドンを討つサイガの姿を画面に映し出す。

「んー?ずいぶん地味な格好をしているな。これはアサシンか?」

「動きや用いる道具を見る限り、同系のものだと思われます」

「忍者じゃな。スパイとアサシンを混ぜたような連中だ」

 オーリンの問いかけに、ギネーブが推論を交えて答え、ドクターウィルが補足した。

「ああそうか。ウィルは異界人だったな。しかしこの男ずいぶん強いな。ニンジャというものはみんなそうなのか?」

 オーリンはサイガの戦闘力に興味を持った。これもまた、王が求める侵略のための戦力となる可能性を見出したからだ。

「いや、こいつが異常だな。忍者というのは影の存在だ。暗殺ならまだしも、こんな正面きって相手を負かす戦い方は出来ん」

 ウィルが答えた。ハンニバルも興味津々で画面を見入る。巨大なギドンの心臓を斬撃だけで削りきるサイガの戦闘力は、画面越しでも際立っていた。


「そうか。それは欲しいな」

 玉座の方から声がした。局長三人は同時に顔を向ける。王の発言だ。

 国王テンペリオスもまた画面を食い入るように見る。

「オーリン、こいつを捕らえろ。我が戦力とする」

「は。かしこまりました。しかしこの男、かなりの腕前とみますが・・・」

 サイガの技の冴えを目の当たりにして、オーリンは不安を覚えた。捕らえるとなると、かなりの被害が予想されたからだ。

「四凶を使え。それだけの価値がある」

 王の『四凶』という言葉に、対面の四人は驚愕した。

 『四凶』とは王に仕える直属の狂戦士四人を指した名称で、王のみがその指揮権を有する存在なのだ。その戦力の投入は、王がサイガに下した評価が伺える。

「・・・ジョンブルジョン。おるか?」

「は、ここに」

 王に名を呼ばれ、一人の男が玉座の隣に現れた。

 男の名は『ジョンブルジョン』。『とどまることを知らない』という二つ名を持つ。

「聞いていたな?」

「は、このサイガという男、生け捕りにして陛下へと献上いたします。オーリン様、先に出立させていただきます。では」

 短い会話を済ませ、ジョンブルジョンは姿を消した。忠実にして効率的。王が四凶に信頼を置く部分だ。

「ギネーヴ、報告ご苦労。では皆、今回の実験結果、有意義に活用して、今後とも職務に励んでくれたまえ」

 期待に満ちた王の言葉で、報告会は幕を閉じた。

読んでいただいてありがとうございます。

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