第61話 「旅の目的」(ストーリー)
戦いを終え、クロストの市中は瓦礫の山となった。この日は公民全ての仕事は止まり、復興には警備隊、冒険者、市民の総出であたることとなった。
市長は庁舎に戻ると、ひっきりに無しに届く職員からの報告にあった被害箇所の補修と、怪我人の治療のための資材、人員の要請のために書類作成へと取り掛かっていた。
皆がせわしなく復興に奔走する中、サイガ一行とリンは警備隊の会議室に会していた。復興に作業に参加しようとしたところをリンに呼び止められ、話があると会議室へ招かれたのだ。
「それで、話とは一体なんだ?わざわざこんな場所に連れてくるということは、重要な話か?」
サイガが切り出した。
「ええ、この国の未来に関わる、最重要事項ですわ」
リンがいつになくまじめな顔で答える。
「最重要事項?なぜ、そんな話をおれに?」
「それは、サイガ、あなたのような異界人を見つけ、集めるることが私達、六姫聖に姫様から課せられた指名だからですわ」
リンは語った。現在この国は二十年前に突如として現れた異界人の未知の力に魅せられた国王テンペリオスの命の下、異界人を捕獲、監禁し、その技術を独占している。
それにより急速に科学技術が発展。十年ほど前より軍拡を計り、他国への侵略のために現在戦力を着々と蓄えつつあるとのことだ。
娘の王女シフォンは王の邪悪な企てを知るや、ただちに侵略を止めるよう進言するが、その言葉は聞き入れられることはなく、当時の首都、中央都市グランドルに封じられ、国民相手の飾りとされた。
そして、国王テンペリオスはシフォンを中央都市に封じた直後、グランドル南東の位置に新都市を築き、遷都した。
新首都フォレスに居を移したテンペリオスは、それ以後、民の前に姿を現すことなく戦力の拡充に没頭し続けているとのことだった。
「そんなことがありまして、現在この国は、内部で戦争推進の国王派と戦争反対の王女派で争いが続いているのです。もちろん、そんなことは国民は知る由もありませんですけど・・・」
「なるほど、それで、おれが国王に側に監禁され利用されて侵略の手駒にならないように王女側につかせたい。というわけか」
「ええ、国王は異界人発見の知らせがあれば、どんな地方であれ捕獲の部隊を差し向け、その人物に利用価値があるなら捕らえ、そうでないなら殺害する。それほど異界人の力を畏怖し、傾倒していますの」
「で、おれは何をすればいいんだ?」
「サイガ、あなたには姫様にお会いしていただきたく思っております。姫様は王の暴挙を止めるために、王に対抗しうる力を募ってらっしゃいます。そして、最終的には王を討つことも・・・」
ここまで発して、リンは言葉を切った。いち臣下として、出すぎた言葉と悟ったのだ。
「失礼しました。ですが、姫の思いはそれほど強いものとお知りください。戦も辞さない覚悟がおありなのです」
神妙になったリンの顔を見て、サイガはひとつのことを思い出した。それは、ハーヴェの村長ロルフが、二十年前内務長官だった時代、異界人の一件を王に進言しようとしたことにより更迭され地方の村に封じられた件だ。
かつてロルフは臣下の差し金ではないかと語っていたが、王自身がその元凶だったのだ。
「合点がいくな」
サイガが呟く。
「何がですの?」
「おれがこの世界で始めて訪れた村の村長殿が、異界人を利用している者が政治の中枢にいると予想していたのだが、まさか国を統べる王自身が邪な念に囚われていたとはな・・・」
「ハーヴェのロルフ様ですわね。彼の方の話は姫もご存知ですわ。姫様が幼少の頃より大変慕われていた方だけに、更迭の際は大変悲しまれたと聞いておりますわ」
「・・・わかった、これまでのリンの振る舞いからも、その言葉は信頼に値すると思っている。それに、元の世界に還るためには話に乗るしかなさそうだからな」
「ありがとうございます。そう言ってもらえると心強いですわ」
リンが今日始めて笑顔を見せた。言葉には安堵が満ちている。姫の喜ぶ顔でも思い浮かべているのだろう。
「それで、おれは何をすればいい?」
「中央都市グランドルにいらっしゃる姫に会っていただくために、東に向かってもらいます。距離がありますので、明日、朝一で出立してもらいますわ」
「朝一?ずいぶん急ぐんだな」
「現在、クロストは復興の真っ最中ですので、機を逃すと人員として拘束されてしまいますわ。夜逃げのようで風体は悪いですが、人目につかないうちに市を去った方が懸命ですわ。あなた達は有名人ですのでね」
「そうか、では明日、に立たせてもらおう。セナとエィカはそれでいいか?」
ここでようやく、サイガは隣に並ぶ二人に確認をした。二人は、サイガが言うならと同意した。
翌日、日が上るよりも早くサイガ一行はクロストを後にし東へ向かった。目指すはルゼリオ王国中央都市グランドル、王女シフォンが治める地だ。
しかしこれから先、サイガの旅路には様々な事態が待ち受けているのだった。
交易都市クロストの動乱編 完
各人物その後
市長ラウロ 市の補修のために、各地に応援を要請する。任期中最大の激務ともらしていた。
警備隊長ライオネス 警備隊員を率い、市の復興に尽力する。復興中の犯罪率の変化に目を光らせている。
六姫聖リン 市に滞留し、復興の援助に努める。一人で百人分の働きと言われている。
整体師リュウカン 留置所に戻り、判決を待つ。
上級冒険者剣士ブルーノ 復興の目処がつくと、仕事を求め東に旅立つ。
上級冒険者魔術師フィーリア 復興の目処がつくと、仕事を求め東に旅立つ。ブルーノより数日遅れ。
ギルド支部長オルトス 各地のギルド支部に復興の依頼を速やかに手配する。
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